最弱職の初級魔術師 初級魔法を極めたらいつの間にか「千の魔術師」と呼ばれていました。

カタナヅキ

文字の大きさ
上 下
232 / 657
外伝 〈一人旅〉

肥料の正体

しおりを挟む



何時間眠ったんだろう。




目を醒まして窓に目をやると外が暗く、夕方以降であることは間違いないなと思った。



ふと俺のベッドに誰か肘をついて眠っている人影が見えた。



あれ?姉貴帰ったんじゃ…



いや、違う…



「えっ…」




あ、哀沢くん!?




待って待って待って待って…



なんで…なんでここにいるの!?



いつから?
いま何時?



時計を見ると18時だった。



起こした方がいいのかなぁ…



久しぶりに見る哀沢くんはやっぱりかっこよくて、ずっと見ていたいと思った。



そういや部屋乾燥してるんだよね。



飲み物買ってきてあげようかな。




ちょうど夕食の時間だし、部屋で食べないで食堂で食べてからついでに夜の検温をして部屋に戻ろう。



せっかく寝てるのに起こしたら悪いもんね。



てか哀沢くん寝起き悪いし。



俺は哀沢くんを起こさないように、哀沢くんが寝てる反対側からベッドを降りて部屋を出た。



面会名簿を確認すると、哀沢くんは13時頃ここに来ていたらしい。



え?5時間も俺を起こさずいたの?



申し訳ないなぁ。


姉貴が連絡したのかな?




俺は食堂に夕食を運んでもらって、夜の検温報告して、ジュースを買って部屋に戻った。



部屋のドアを開けると、哀沢くんが起きたばかりだった。




「あ!哀沢くん起こしちゃった?」




振り返った哀沢くんは俺を見て驚いていた。




「起きたら哀沢くんが寝ててびっくりしたよ。面会名簿見てきたら13時ぐらいに来てたんだね。俺その前までは起きてたんだけど寝ちゃったんだ」



いつも通りの俺みたいに、明るく話した。



ちょっと気まずくて、俺は哀沢くんに近づかずドアの傍で会話を続けた。



すると哀沢くんはこっちに駆け寄り、近づいてきた。



「起こしてくれてよかったのに。哀沢くんの好きなコーラ売り切れてたからココアでもい…」




俺の言葉を遮り、大きな腕で抱きしめる。




力が抜けて床にジュースが落ち、部屋にその音が響いた。





「哀沢くん…?」




沈黙が続いた。




哀沢くんが俺を抱き締める力は変わらない。



どうしたんだろう。



落ち着くなぁ哀沢くんの胸の中。





でもさ、




「俺ね、別に死んでもよかったんだ…」




俺は諦めなきゃいけないんだよね。




「死ぬ前に哀沢くんに抱いてもらえたから。それだけで満足だったから後悔してない」




俺の発言に少し驚いたのか、哀沢くんの力が緩んだ。




昔から死んでもいいって思ってた。



人生退屈だって。



でも…


「でも…今日哀沢くん見ちゃったら、やっぱりダメだぁ。まだ好きだから苦しい」




今は生きて哀沢くんの傍にいたい。




あーあ、




せっかく忘れられそうだと思ったのに。



全然ダメじゃん、涙止まんない。



めんどくさいやつだって嫌われちゃうよ。



「だから放して。頑張って諦めるから。哀沢くんのこと。これ以上好きにさせないで」




俺は哀沢くんの腕から無理やり抜けようと抵抗したけど、哀沢くんは放してくれなかった。







「放したくねぇんだよ」





俺が予想してなかった言葉が返ってきた。






「山田…そのまま黙って俺の話を聞いてくれ」





そして哀沢くんは自分の過去を全て話し始めた。






















「雅彦って…あの有名なモデルの三科雅彦?射殺された?」



「そうだ」






俺と出会った頃にはもう三科雅彦のことが好きだったんだ。




「俺はあいつが死んでからもう誰も好きにならないって誓ったんだ」




そりゃ、そんな過去があったらもう恋愛なんてしたくないって思うかも。



本当に好きだったんだね…彼のこと。




俺はそんな一途な哀沢くんも好き。





「山田がいなくなるかもしれないと思ったら不安で仕方なかった。あいつを失った時の感情と似ている気がした」




そんなこと言って貰えるなんて、生きててよかった。



死ななくてよかった。



「もしまだ山田が俺のことを好きなら、俺のこの気持ちが恋なのかどうか証明するために一緒にいて欲しい」



全然大好きだよ。



これからも好きでいていいなんて、嬉しすぎる。



「俺もちゃんと向き合う。時間かけて、もしこれが恋なんだと気付いたら、その時は山田に告白する。…さすがに身勝手か?」



哀沢くんに好きになってもらえれば、告白してもらって付き合えるってこと!?



そんなの身勝手じゃなくて、むしろ光栄なんだけど…




「じゃあ、お付き合いの仮契約ってことでいい?俺は好きでいていいんだし、哀沢くんが俺を好きになってくれたら、正式に付き合おうね!」



嬉しくて哀沢くんの肩にぎゅうっと腕を回して抱きしめた。



嬉しい、嬉しすぎる。



「もう、めっちゃお金かけて惚れ薬とか開発して好きになってもらう」



「結局金かよ…」




まだ好きでいてもいいなんて。



幸せ。




「じゃあまた、学校でな」



そう言って哀沢くんは病室を出ていった。



俺はしばらくニヤニヤが止まらず、早く退院したくて荷物をまとめ始めた。



しおりを挟む
感想 1,841

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

父が再婚しました

Ruhuna
ファンタジー
母が亡くなって1ヶ月後に 父が再婚しました

側妃契約は満了しました。

夢草 蝶
恋愛
 婚約者である王太子から、別の女性を正妃にするから、側妃となって自分達の仕事をしろ。  そのような申し出を受け入れてから、五年の時が経ちました。

【書籍化進行中、完結】私だけが知らない

綾雅(ヤンデレ攻略対象、電子書籍化)
ファンタジー
書籍化進行中です。詳細はしばらくお待ちください(o´-ω-)o)ペコッ 目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。 優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。 やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。 記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2024/12/26……書籍化確定、公表 2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位 2023/12/19……番外編完結 2023/12/11……本編完結(番外編、12/12) 2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位 2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」 2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位 2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位 2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位 2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位 2023/08/14……連載開始

【完結】『飯炊き女』と呼ばれている騎士団の寮母ですが、実は最高位の聖女です

葉桜鹿乃
恋愛
ルーシーが『飯炊き女』と、呼ばれてそろそろ3年が経とうとしている。 王宮内に兵舎がある王立騎士団【鷹の爪】の寮母を担っているルーシー。 孤児院の出で、働き口を探してここに配置された事になっているが、実はこの国の最も高貴な存在とされる『金剛の聖女』である。 王宮という国で一番安全な場所で、更には周囲に常に複数人の騎士が控えている場所に、本人と王族、宰相が話し合って所属することになったものの、存在を秘する為に扱いは『飯炊き女』である。 働くのは苦では無いし、顔を隠すための不細工な丸眼鏡にソバカスと眉を太くする化粧、粗末な服。これを襲いに来るような輩は男所帯の騎士団にも居ないし、聖女の力で存在感を常に薄めるようにしている。 何故このような擬態をしているかというと、隣国から聖女を狙って何者かが間者として侵入していると言われているためだ。 隣国は既に瘴気で汚れた土地が多くなり、作物もまともに育たないと聞いて、ルーシーはしばらく隣国に行ってもいいと思っているのだが、長く冷戦状態にある隣国に行かせるのは命が危ないのでは、と躊躇いを見せる国王たちをルーシーは説得する教養もなく……。 そんな折、ある日の月夜に、明日の雨を予見して変装をせずに水汲みをしている時に「見つけた」と言われて振り向いたそこにいたのは、騎士団の中でもルーシーに優しい一人の騎士だった。 ※感想の取り扱いは近況ボードを参照してください。 ※小説家になろう様でも掲載予定です。

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。