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外伝 〈一人旅〉

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「でも、どうしてこの人がアンデッドに……昆虫種を操っていたのはこの人じゃないの?」
「多分、用済みになったから殺されたのよ……ちょっと待って、こいつがアンデッドになったという事はこの近くにイレアが居るんじゃないの!?」
「え?」


リディアは慌てて周囲を見渡し、ルノも警戒して周囲に回転氷刃を発動させる。全方向からの攻撃に対応できるように気を配り、警戒しながら人の姿を探す。


「……人間をアンデッドに変異させる方法は分かる?」
「そこまで詳しく知らないわよ……でも、生きている人間をアンデッドに変異させるのは不可能よ。アンデッドに変化させられるのは死体だけよ」
「死体……ちょっと待って、それって人間以外の死体はアンデッドに出来るの?」
「えっ……」
「シャアアッ!!」


ルノの疑問にリディアは目を見開き、同時にガーゴイルが咆哮を放つ。すぐに二人はガーゴイルに視線を向けると、リディアが住んでいた倉庫から首なしの蟷螂が出現した。


『ッ……!!』
「こいつら!?」
「ひいっ!?」


先の戦闘でルノに確実に仕留められた蟷螂の死体が動き出し、二人に向けて襲い掛かる。頭が存在しないにも関わらずに正確に二人の位置を掴んでいるのか蟷螂は接近するが、事前にルノが周囲に滞空させていた回転氷刃に無惨に切り裂かれた。


『ッ……!?』
「え……?」
「……勝手に自滅したわね」


蟷螂のアンデッドは二人の位置を掴めてもルノが生み出した回転氷刃は認識出来なかったのか勝手に自滅してしまい、その光景にルノとリディアは呆れてしまう。だが、そのお陰で二人は冷静になり、アンデッドと言えどもルノがいる限りは敵ではない。


「ふうっ……少し取り乱していたようね。そういえばアンデッドは生き物の気配を感じ取るだけで目は見えないと聞いた事があるわ。まあ、こいつの場合は頭その物が無かったんだけど……」
「へえ……そうなんだ」
「それよりも家に戻るわよ!!きっとこいつらをアンデッドに変化させた奴がさっきまで居たのよ!!」


リディアの言葉にルノは頷き、急いで彼女が暮らしていた倉庫に向かう。しかし、到着した時には既に人影は見当たらず、念のためにルノは観察眼のスキルを発動させて周囲を見渡すが、ヒカゲのように「隠密」の能力で隠れている様子もない。


「駄目ね……もう逃げられたみたいね」
「でも、そんなに遠くには行ってないはず!!」


ルノは勢いよく両足に力を込めて跳躍し、一気に8メートルの高さまで飛びあがると、周囲の様子を伺う。囚人の殆どがルノに呼び出されて現在は農場に居る事を考えても人影が見つかれば標的である可能性は高く、ルノは周囲に視線を凝らす。


「何処だ……あれか!!」


上空を仰ぐと巨大蟷螂が空を飛んでいる姿を発見し、その足には人間が入り込める程の大きさの黒い布の塊が握りしめられていた。その光景を確認したルノは掌を構え、容赦なく蟷螂を狙い撃つ。


「螺旋氷弾!!」
『ッ……!?』


巨大蟷螂の背中に螺旋状の氷塊の砲弾が衝突し、蟷螂が掴んでいた物体が近くの建物の屋上に墜落する。それを確認したルノは地上に着地すると、リディアとガーゴイルの頭を掴んで駆け抜ける。


「離れないで!!」
「ちょっ……いだだだだっ!?」
「シャアアッ……!?」


恐ろしい握力で掴まれたリディアとガーゴイルは悲鳴を上げるが、ルノは構っている暇はなく、地面を跳躍して建物の屋根の上を駆け抜ける。人間一人と石像を抱えたまま何メートルも離れた建物を飛び越えるルノの身体能力に驚かされながらもリディアは注意した。


「ちょ、ちょっと!!死霊使いの能力をまだ説明していない事が……」
「後で聞く!!」


しかし、リディアの言葉を一括してルノは蟷螂が手放した物体が墜落した建物まで移動すると、未だに屋上に黒色の包みが横たわっている事に気付く。警戒しがらもリディアとガーゴイルを解放し、ルノは掌を構えながら接近する。


「これは……」
「ま、待ちなさいって!!最後まで話を聞きなさいよ!!」


包みに近づこうとしたルノの肩をリディアが掴み、一刻も早く包みの正体を知りたいルノは彼女を振りほどこうとした時、唐突に包みが動き出す。


「えっ?」
「何よこれ……棺桶!?」
「シャアッ!?」


二人の予想に反して包みから姿を現したのは棺桶であり、墜落の衝撃で鍵が壊れたのか蓋が半ば開いてしまい、中に収められていた遺体の右腕が露出する。それを見たリディアは目を見開き、棺桶から飛び出している右腕の甲を中止し、その場にへたり込む。


「嘘っ……まさか、こいつ……!?」
「リディア?」
「どうして……こいつの死体がここにあるのよ!?」


リディアの反応を不思議に思ったルノが棺桶に視線を向けて観察眼の技能スキルを発動させて調べると、棺桶から出現している右腕の甲に魔王軍の紋様である「髑髏」が刻まれている事に気付いた。
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