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外伝 〈一人旅〉
囚人の居場所
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「そういえばこれ、その囚人が落とした奴だと思うんだけど……見覚えある?」
「水晶玉?少なくとも魔王軍の魔道具じゃないわね……まあ、いいわ。ポチ28号、臭いを嗅ぎなさい」
「シャアッ!!」
「君の名前、ポチ28号なんだ……残りの1から27号はどうしたの?」
ガーゴイルが水晶玉に鼻を近づかせ、臭いを覚えたのか頷く。水晶玉に関してはリディアの見立てによると魔王軍が扱う魔道具ではなく、何の価値もない水晶玉らしい。
「クンクンッ……シャアッ!!」
「見つけたわよ」
「え、もう!?」
「この子の嗅覚は獣人族以上よ。ほら、追いかけるわよ!!」
早々に囚人の臭いを感じ取ったのか、ガーゴイルは敷地を抜け出して移動を開始する。殆どの囚人は先ほどルノが別れを告げるために農場に呼び出しているので街に人影は見えず、ルノはリディアと共にガーゴイルの先導の元で移動する。
「クンクンッ……シャアッ!!」
「え?本当にここなの?」
「どうしたの?」
「……この建物の中にいると言ってるわ」
ガーゴイルが辿り着いたのはリディアが暮らしている倉庫の裏側に存在する建物に立ち止まり、扉を指さす。まさかこれほど近くに目的の人物が隠れていた事に驚きを隠せず、リディアは苛立ちを隠さずに怒鳴りつける。
「ちょっと!!こんな場所に隠れているなんていい度胸ね!!私が死ぬ場面を特等席で見るつもりだったわけ!?」
「ちょ、あんまり刺激するような事を言うのは……」
「ポチ!!さっさと隠れている奴を連れ出してきなさい!!」
「シャアッ!!」
主人の命令にガーゴイルは即座に扉を蹴り飛ばし、中に入り込む。ルノが止める暇もなく、ガーゴイルは家の中に入り込んで隠れている人間を連れ出そうとする。ルノも後に続こうとしたが、リディアが彼を引き留めた。
「ちょ、ちょっと!!あんたも行ったら誰が私を守るのよ!?ここに居なさいよ!!」
「ええっ……」
「大丈夫よ。相手が人間ならあの子が遅れをとるはずが……」
『シャアアアッ……!?』
リディアが言葉を言い終える前に家の中からガーゴイルの悲鳴が響き渡り、何事かと二人は家を振り向くと、二階の窓からガーゴイルが飛び出す。
「ポチ!?」
「シャアッ……!?」
『ギルルルッ!!』
窓から飛び出してきたのはガーゴイルだけではなく、複数の巨大蟷螂が窓や扉から出現する。それを目撃したリディアは悲鳴を上げ、ルノは仕方なく両手を構える。
「面倒だな……回転氷刃!!」
『ギルゥッ!?』
『ギガァッ!?』
『ギィイッ!?』
出現した蟷螂に対してルノは円盤状の氷塊の刃を放ち、的確に急所を切り裂く。全ての蟷螂を倒す事に成功すると、倒れているガーゴイルの元へ向かう。
「大丈夫?」
「シャアッ……」
「び、びっくりした……あんたねえ!!あんな化物が隠れているなら先に注意しなさいよ!!」
「自分から行くように命じたくせに……」
幸いにもガーゴイルに大きな怪我はなく、ルノは彼を起き上げようとすると、扉の方から音が響く。視線を向けると、そこにはルノが飛行船で助けたはずの囚人が立っていた。
「…………」
「あ、あんたね!!私の命を狙った馬鹿は!!姿を現すなんていい度胸しているじゃない……何こいつ?」
遂に姿を現した囚人にリディアは怒り心頭で怒鳴りつけるが、様子がおかしい事に気付き、立ち尽くしたまま何も反応がない。囚人の様子がおかしい事に気付いたルノはリディアを下がらせると、警戒を解かずに近寄る。
「えっと……君は魔王軍の刺客?」
「……ううっ……」
「な、何よこいつ……聞いてるの?」
ルノが話しかけても囚人は呻き声を上げるだけで目の焦点が合っておらず、流石のリディアも不気味に感じてルノの背後に隠れる。囚人は赤色の瞳を怪しく光り輝かせ、ゆっくりと二人に向けて両手を伸ばして飛び掛かる。
「……うがぁっ!!」
「ひっ!?」
「氷盾!!」
自分達に突っ込んできた囚人に対し、ルノは氷塊の盾を作り出して遮る。囚人は氷の盾に衝突したが、怯まずに氷に噛り付く。
「がああっ……!!」
「こ、こいつ……!?」
「下がって!!」
氷に噛り付く囚人にリディアは戸惑うなか、ルノは両手を地面に構えて土塊の魔法を発動させ、囚人の足元の地面を陥没させる。そのままアリジコクのように土砂を操作して囚人の胴体を地面に埋めて拘束を行うと、ルノは恐る恐る顔だけが露出した囚人の様子を伺う。
「あがぁっ……があっ!!」
「……完全に理性を失ってる。まるで獣だな」
「まさか……こいつ、人間じゃないわ」
「えっ?」
囚人の顔を見たリディアは顔面蒼白となり、彼女は身体を震わせて腰を抜かす。その様子にルノは驚き、慌ててリディアの元に駆け付ける。
「どうしたの?何か知ってるの?」
「ま、不味いわ……あいつが、あいつがこの島に辿り着いたのよ……!!」
「あいつ……?」
リディアが何を言いたいのか分からず、ルノは戸惑う。しかし、彼女の怯え様は普通ではなく、それほど危険な人物が島に訪れているのは間違いない。
「水晶玉?少なくとも魔王軍の魔道具じゃないわね……まあ、いいわ。ポチ28号、臭いを嗅ぎなさい」
「シャアッ!!」
「君の名前、ポチ28号なんだ……残りの1から27号はどうしたの?」
ガーゴイルが水晶玉に鼻を近づかせ、臭いを覚えたのか頷く。水晶玉に関してはリディアの見立てによると魔王軍が扱う魔道具ではなく、何の価値もない水晶玉らしい。
「クンクンッ……シャアッ!!」
「見つけたわよ」
「え、もう!?」
「この子の嗅覚は獣人族以上よ。ほら、追いかけるわよ!!」
早々に囚人の臭いを感じ取ったのか、ガーゴイルは敷地を抜け出して移動を開始する。殆どの囚人は先ほどルノが別れを告げるために農場に呼び出しているので街に人影は見えず、ルノはリディアと共にガーゴイルの先導の元で移動する。
「クンクンッ……シャアッ!!」
「え?本当にここなの?」
「どうしたの?」
「……この建物の中にいると言ってるわ」
ガーゴイルが辿り着いたのはリディアが暮らしている倉庫の裏側に存在する建物に立ち止まり、扉を指さす。まさかこれほど近くに目的の人物が隠れていた事に驚きを隠せず、リディアは苛立ちを隠さずに怒鳴りつける。
「ちょっと!!こんな場所に隠れているなんていい度胸ね!!私が死ぬ場面を特等席で見るつもりだったわけ!?」
「ちょ、あんまり刺激するような事を言うのは……」
「ポチ!!さっさと隠れている奴を連れ出してきなさい!!」
「シャアッ!!」
主人の命令にガーゴイルは即座に扉を蹴り飛ばし、中に入り込む。ルノが止める暇もなく、ガーゴイルは家の中に入り込んで隠れている人間を連れ出そうとする。ルノも後に続こうとしたが、リディアが彼を引き留めた。
「ちょ、ちょっと!!あんたも行ったら誰が私を守るのよ!?ここに居なさいよ!!」
「ええっ……」
「大丈夫よ。相手が人間ならあの子が遅れをとるはずが……」
『シャアアアッ……!?』
リディアが言葉を言い終える前に家の中からガーゴイルの悲鳴が響き渡り、何事かと二人は家を振り向くと、二階の窓からガーゴイルが飛び出す。
「ポチ!?」
「シャアッ……!?」
『ギルルルッ!!』
窓から飛び出してきたのはガーゴイルだけではなく、複数の巨大蟷螂が窓や扉から出現する。それを目撃したリディアは悲鳴を上げ、ルノは仕方なく両手を構える。
「面倒だな……回転氷刃!!」
『ギルゥッ!?』
『ギガァッ!?』
『ギィイッ!?』
出現した蟷螂に対してルノは円盤状の氷塊の刃を放ち、的確に急所を切り裂く。全ての蟷螂を倒す事に成功すると、倒れているガーゴイルの元へ向かう。
「大丈夫?」
「シャアッ……」
「び、びっくりした……あんたねえ!!あんな化物が隠れているなら先に注意しなさいよ!!」
「自分から行くように命じたくせに……」
幸いにもガーゴイルに大きな怪我はなく、ルノは彼を起き上げようとすると、扉の方から音が響く。視線を向けると、そこにはルノが飛行船で助けたはずの囚人が立っていた。
「…………」
「あ、あんたね!!私の命を狙った馬鹿は!!姿を現すなんていい度胸しているじゃない……何こいつ?」
遂に姿を現した囚人にリディアは怒り心頭で怒鳴りつけるが、様子がおかしい事に気付き、立ち尽くしたまま何も反応がない。囚人の様子がおかしい事に気付いたルノはリディアを下がらせると、警戒を解かずに近寄る。
「えっと……君は魔王軍の刺客?」
「……ううっ……」
「な、何よこいつ……聞いてるの?」
ルノが話しかけても囚人は呻き声を上げるだけで目の焦点が合っておらず、流石のリディアも不気味に感じてルノの背後に隠れる。囚人は赤色の瞳を怪しく光り輝かせ、ゆっくりと二人に向けて両手を伸ばして飛び掛かる。
「……うがぁっ!!」
「ひっ!?」
「氷盾!!」
自分達に突っ込んできた囚人に対し、ルノは氷塊の盾を作り出して遮る。囚人は氷の盾に衝突したが、怯まずに氷に噛り付く。
「がああっ……!!」
「こ、こいつ……!?」
「下がって!!」
氷に噛り付く囚人にリディアは戸惑うなか、ルノは両手を地面に構えて土塊の魔法を発動させ、囚人の足元の地面を陥没させる。そのままアリジコクのように土砂を操作して囚人の胴体を地面に埋めて拘束を行うと、ルノは恐る恐る顔だけが露出した囚人の様子を伺う。
「あがぁっ……があっ!!」
「……完全に理性を失ってる。まるで獣だな」
「まさか……こいつ、人間じゃないわ」
「えっ?」
囚人の顔を見たリディアは顔面蒼白となり、彼女は身体を震わせて腰を抜かす。その様子にルノは驚き、慌ててリディアの元に駆け付ける。
「どうしたの?何か知ってるの?」
「ま、不味いわ……あいつが、あいつがこの島に辿り着いたのよ……!!」
「あいつ……?」
リディアが何を言いたいのか分からず、ルノは戸惑う。しかし、彼女の怯え様は普通ではなく、それほど危険な人物が島に訪れているのは間違いない。
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