223 / 657
外伝 〈一人旅〉
海獄島との別れ
しおりを挟む
「で、でも親分だって言っていたじゃないですか!!こいつを逃したら俺達はもう終わりだって……」
「ああ?誰がそんな事を言った?てめえの聞き違いだ!!」
「そ、そんな……!?」
キジンの言葉に騒ぎ出していた囚人達は黙り込み、そんな彼等の反応を見て蔑むようにキジンは視線を向ける。
「ふんっ……つくづくこの島は悪党の集まりだな。数日前は救世主のように褒めたたえた癖に、いなくなると知ったら偽善者呼ばわりか?この、カス共が!!」
「親分……」
「どうしてそこまで……」
ルノを庇うように怒鳴りつけるキジンに対し、ニオとロナクも戸惑うが、そんな彼等を見てキジンは頭を掻きながら説明する。
「言っておくが俺はこいつの事を認めたわけじゃねえ。勝手に来て、自分のやりたい事をやって勝手に抜け出すような奴なんて知った事じゃねえ。だがな、こいつがいなければ俺達は今年の冬で全滅していたかもしれねえ……その事だけは感謝している。しかし、てめえはやりすぎなんだよ!!」
「え?」
「食料を作り出すまでは分かる。だけどな、あの海竜に一人で喧嘩を売り続けるなんて何を考えてやがる!?」
「え!?あ、あの化物に!?」
「兄貴がっ!?」
キジンの言葉に囚人達は驚き、ルノも海竜との戦闘をキジンに見られていた事に驚くが、彼の話によると海獄島の付近でルノと海竜が戦闘する場面を目撃していたという。
「お前のせいでこの島での俺の行き場はなくなっちまったからな……何もする事がないからそこの馬鹿共の代わりに1人で砂浜を見張っていたら、お前があの化物と戦う姿を見た」
「あ、そうだったんですか……」
「正直、身体が震えたぜ。あの化物を相手に一進一退の攻防を繰り広げていてよ。しかも最終的には勝っちまうんだからよ……あれを見て俺は思ったんだよ。こいつには逆らえねえってな」
自嘲気味の笑顔を浮かべながらキジンは溜息を吐き出し、自分の掌を覗き込む。
「……巨人族は力こそが絶対なんだ。それが腕力であろうと魔法であろうと寒けない。あの時、俺はお前にもう勝てないと思った。心が折れちまったんだよ……この島では力こそがぞ絶対だ。だから一番強い奴の言う事は誰も逆らえねえ!!そうだろうお前等!?」
「うっ……」
「そ、それは……」
今まで力で従えさせていたキジンの言葉に囚人達は黙り込み、ここで文句を告げた所でルノやキジンに敵う存在はおらず、彼等にはルノを引き留める権利はない。
「ほら、さっさと行けよ!!お前ならその気になればこんな島なんて簡単に脱出出来るんだろ?」
「キジンさん……」
「ちっ!!早く行けよ!!その面を二度と見せるな!!」
「兄貴……お世話になりました!!」
「俺達の事を忘れないで下さいね!!」
キジン、ニオ、ロナクの言葉にルノは笑顔を浮かべ、彼等との間に奇妙な友情を感じながらもルノは頭を下げ、立ち去る前に大切なことを伝える。
「墜落した飛行船の物資は全部砂浜の方に移動させている。その中に存在した薬草の類は畑の方に植えて成長させているから、負傷人が出たら遠慮なく使ってね。それと、夜の間だけなら海竜に襲われる事はないから漁業も出来るよ!!」
「えっ!?」
「それはどういう……」
「じゃあね!!色々とありがとう!!」
言いたいことを伝えるとルノは飛翔術を利用して浮上し、全員に手を振って飛び立つ。その光景に囚人達は呆然と見送るが、キジンは鼻をすすりながら呟く。
「へっ……余計な真似をしやがって」
「兄貴……無事に戻れるんですかね?」
「さあな……おら!!お前等ボケっとしてんじゃねえ!!あいつが居なくなった以上は俺がボスだ!!さっさと働きやがれ!!」
『は、はい……!!』
キジンの言葉に囚人達は慌てて農作業を再開し、ニオとロナクは肩をすくめて砂浜に向かう。結果的にルノの行動が海獄島にどんな影響を与えたのかは不明だが、それでも彼等はこの年だけは食料確保が困難な冬を乗り越え、誰も死ぬことはなく平和に過ごしたという――
――囚人達と盛大な別れを告げた後、ルノは山岳地帯に戻る前に街に戻り、リディアが暮らす倉庫に訪れる。彼女とも最後の別れを告げねばならず、同時に話も聞かなければならない。
「リディア?居る?」
『シャアアッ!!』
「うわっ!?何っ!?」
敷地内に入った瞬間、ガーゴイルの怒声が鳴り響き、ルノは何事かと庭の方に出向く。するとルノの視界にはガーゴイルが巨大蟷螂と向き合い、戦闘を繰り広げる光景が広がっていた。
「蟷螂!?どうしてここに……!?」
「ちょ、ちょっと!!あんた、助けてよ!?」
「リディア!?」
『シャアッ!!』
『ギルルッ!!』
ガーゴイルの背後には腰を抜かしたリディアが存在し、蟷螂が彼女に襲い掛かろうとするとガーゴイルが必死に止める。しかし、頑丈な石の肉体を持つガーゴイルですらも蟷螂の研ぎ澄まされた刃物のような鎌を受けた瞬間、肉体に切り傷が生じ、苦悶の表情を浮かべる。
「ああ?誰がそんな事を言った?てめえの聞き違いだ!!」
「そ、そんな……!?」
キジンの言葉に騒ぎ出していた囚人達は黙り込み、そんな彼等の反応を見て蔑むようにキジンは視線を向ける。
「ふんっ……つくづくこの島は悪党の集まりだな。数日前は救世主のように褒めたたえた癖に、いなくなると知ったら偽善者呼ばわりか?この、カス共が!!」
「親分……」
「どうしてそこまで……」
ルノを庇うように怒鳴りつけるキジンに対し、ニオとロナクも戸惑うが、そんな彼等を見てキジンは頭を掻きながら説明する。
「言っておくが俺はこいつの事を認めたわけじゃねえ。勝手に来て、自分のやりたい事をやって勝手に抜け出すような奴なんて知った事じゃねえ。だがな、こいつがいなければ俺達は今年の冬で全滅していたかもしれねえ……その事だけは感謝している。しかし、てめえはやりすぎなんだよ!!」
「え?」
「食料を作り出すまでは分かる。だけどな、あの海竜に一人で喧嘩を売り続けるなんて何を考えてやがる!?」
「え!?あ、あの化物に!?」
「兄貴がっ!?」
キジンの言葉に囚人達は驚き、ルノも海竜との戦闘をキジンに見られていた事に驚くが、彼の話によると海獄島の付近でルノと海竜が戦闘する場面を目撃していたという。
「お前のせいでこの島での俺の行き場はなくなっちまったからな……何もする事がないからそこの馬鹿共の代わりに1人で砂浜を見張っていたら、お前があの化物と戦う姿を見た」
「あ、そうだったんですか……」
「正直、身体が震えたぜ。あの化物を相手に一進一退の攻防を繰り広げていてよ。しかも最終的には勝っちまうんだからよ……あれを見て俺は思ったんだよ。こいつには逆らえねえってな」
自嘲気味の笑顔を浮かべながらキジンは溜息を吐き出し、自分の掌を覗き込む。
「……巨人族は力こそが絶対なんだ。それが腕力であろうと魔法であろうと寒けない。あの時、俺はお前にもう勝てないと思った。心が折れちまったんだよ……この島では力こそがぞ絶対だ。だから一番強い奴の言う事は誰も逆らえねえ!!そうだろうお前等!?」
「うっ……」
「そ、それは……」
今まで力で従えさせていたキジンの言葉に囚人達は黙り込み、ここで文句を告げた所でルノやキジンに敵う存在はおらず、彼等にはルノを引き留める権利はない。
「ほら、さっさと行けよ!!お前ならその気になればこんな島なんて簡単に脱出出来るんだろ?」
「キジンさん……」
「ちっ!!早く行けよ!!その面を二度と見せるな!!」
「兄貴……お世話になりました!!」
「俺達の事を忘れないで下さいね!!」
キジン、ニオ、ロナクの言葉にルノは笑顔を浮かべ、彼等との間に奇妙な友情を感じながらもルノは頭を下げ、立ち去る前に大切なことを伝える。
「墜落した飛行船の物資は全部砂浜の方に移動させている。その中に存在した薬草の類は畑の方に植えて成長させているから、負傷人が出たら遠慮なく使ってね。それと、夜の間だけなら海竜に襲われる事はないから漁業も出来るよ!!」
「えっ!?」
「それはどういう……」
「じゃあね!!色々とありがとう!!」
言いたいことを伝えるとルノは飛翔術を利用して浮上し、全員に手を振って飛び立つ。その光景に囚人達は呆然と見送るが、キジンは鼻をすすりながら呟く。
「へっ……余計な真似をしやがって」
「兄貴……無事に戻れるんですかね?」
「さあな……おら!!お前等ボケっとしてんじゃねえ!!あいつが居なくなった以上は俺がボスだ!!さっさと働きやがれ!!」
『は、はい……!!』
キジンの言葉に囚人達は慌てて農作業を再開し、ニオとロナクは肩をすくめて砂浜に向かう。結果的にルノの行動が海獄島にどんな影響を与えたのかは不明だが、それでも彼等はこの年だけは食料確保が困難な冬を乗り越え、誰も死ぬことはなく平和に過ごしたという――
――囚人達と盛大な別れを告げた後、ルノは山岳地帯に戻る前に街に戻り、リディアが暮らす倉庫に訪れる。彼女とも最後の別れを告げねばならず、同時に話も聞かなければならない。
「リディア?居る?」
『シャアアッ!!』
「うわっ!?何っ!?」
敷地内に入った瞬間、ガーゴイルの怒声が鳴り響き、ルノは何事かと庭の方に出向く。するとルノの視界にはガーゴイルが巨大蟷螂と向き合い、戦闘を繰り広げる光景が広がっていた。
「蟷螂!?どうしてここに……!?」
「ちょ、ちょっと!!あんた、助けてよ!?」
「リディア!?」
『シャアッ!!』
『ギルルッ!!』
ガーゴイルの背後には腰を抜かしたリディアが存在し、蟷螂が彼女に襲い掛かろうとするとガーゴイルが必死に止める。しかし、頑丈な石の肉体を持つガーゴイルですらも蟷螂の研ぎ澄まされた刃物のような鎌を受けた瞬間、肉体に切り傷が生じ、苦悶の表情を浮かべる。
0
お気に入りに追加
11,307
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。


夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました
氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。
ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。
小説家になろう様にも掲載中です

無能なので辞めさせていただきます!
サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。
マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。
えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって?
残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、
無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって?
はいはいわかりました。
辞めますよ。
退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。
自分無能なんで、なんにもわかりませんから。
カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

【一話完結】断罪が予定されている卒業パーティーに欠席したら、みんな死んでしまいました
ツカノ
ファンタジー
とある国の王太子が、卒業パーティーの日に最愛のスワロー・アーチェリー男爵令嬢を虐げた婚約者のロビン・クック公爵令嬢を断罪し婚約破棄をしようとしたが、何故か公爵令嬢は現れない。これでは断罪どころか婚約破棄ができないと王太子が焦り始めた時、招かれざる客が現れる。そして、招かれざる客の登場により、彼らの運命は転がる石のように急転直下し、恐怖が始まったのだった。さて彼らの運命は、如何。
【書籍化進行中、完結】私だけが知らない
綾雅(ヤンデレ攻略対象、電子書籍化)
ファンタジー
書籍化進行中です。詳細はしばらくお待ちください(o´-ω-)o)ペコッ
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。
優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。
やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。
記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。
【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2024/12/26……書籍化確定、公表
2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位
2023/12/19……番外編完結
2023/12/11……本編完結(番外編、12/12)
2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位
2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」
2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位
2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位
2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位
2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位
2023/08/14……連載開始

【完結】『飯炊き女』と呼ばれている騎士団の寮母ですが、実は最高位の聖女です
葉桜鹿乃
恋愛
ルーシーが『飯炊き女』と、呼ばれてそろそろ3年が経とうとしている。
王宮内に兵舎がある王立騎士団【鷹の爪】の寮母を担っているルーシー。
孤児院の出で、働き口を探してここに配置された事になっているが、実はこの国の最も高貴な存在とされる『金剛の聖女』である。
王宮という国で一番安全な場所で、更には周囲に常に複数人の騎士が控えている場所に、本人と王族、宰相が話し合って所属することになったものの、存在を秘する為に扱いは『飯炊き女』である。
働くのは苦では無いし、顔を隠すための不細工な丸眼鏡にソバカスと眉を太くする化粧、粗末な服。これを襲いに来るような輩は男所帯の騎士団にも居ないし、聖女の力で存在感を常に薄めるようにしている。
何故このような擬態をしているかというと、隣国から聖女を狙って何者かが間者として侵入していると言われているためだ。
隣国は既に瘴気で汚れた土地が多くなり、作物もまともに育たないと聞いて、ルーシーはしばらく隣国に行ってもいいと思っているのだが、長く冷戦状態にある隣国に行かせるのは命が危ないのでは、と躊躇いを見せる国王たちをルーシーは説得する教養もなく……。
そんな折、ある日の月夜に、明日の雨を予見して変装をせずに水汲みをしている時に「見つけた」と言われて振り向いたそこにいたのは、騎士団の中でもルーシーに優しい一人の騎士だった。
※感想の取り扱いは近況ボードを参照してください。
※小説家になろう様でも掲載予定です。

冤罪だと誰も信じてくれず追い詰められた僕、濡れ衣が明るみになったけど今更仲直りなんてできない
一本橋
恋愛
女子の体操着を盗んだという身に覚えのない罪を着せられ、僕は皆の信頼を失った。
クラスメイトからは日常的に罵倒を浴びせられ、向けられるのは蔑みの目。
さらに、信じていた初恋だった女友達でさえ僕を見限った。
両親からは拒絶され、姉からもいないものと扱われる日々。
……だが、転機は訪れる。冤罪だった事が明かになったのだ。
それを機に、今まで僕を蔑ろに扱った人達から次々と謝罪の声が。
皆は僕と関係を戻したいみたいだけど、今更仲直りなんてできない。
※小説家になろう、カクヨムと同時に投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。