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外伝 〈一人旅〉
海獄島との別れ
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「で、でも親分だって言っていたじゃないですか!!こいつを逃したら俺達はもう終わりだって……」
「ああ?誰がそんな事を言った?てめえの聞き違いだ!!」
「そ、そんな……!?」
キジンの言葉に騒ぎ出していた囚人達は黙り込み、そんな彼等の反応を見て蔑むようにキジンは視線を向ける。
「ふんっ……つくづくこの島は悪党の集まりだな。数日前は救世主のように褒めたたえた癖に、いなくなると知ったら偽善者呼ばわりか?この、カス共が!!」
「親分……」
「どうしてそこまで……」
ルノを庇うように怒鳴りつけるキジンに対し、ニオとロナクも戸惑うが、そんな彼等を見てキジンは頭を掻きながら説明する。
「言っておくが俺はこいつの事を認めたわけじゃねえ。勝手に来て、自分のやりたい事をやって勝手に抜け出すような奴なんて知った事じゃねえ。だがな、こいつがいなければ俺達は今年の冬で全滅していたかもしれねえ……その事だけは感謝している。しかし、てめえはやりすぎなんだよ!!」
「え?」
「食料を作り出すまでは分かる。だけどな、あの海竜に一人で喧嘩を売り続けるなんて何を考えてやがる!?」
「え!?あ、あの化物に!?」
「兄貴がっ!?」
キジンの言葉に囚人達は驚き、ルノも海竜との戦闘をキジンに見られていた事に驚くが、彼の話によると海獄島の付近でルノと海竜が戦闘する場面を目撃していたという。
「お前のせいでこの島での俺の行き場はなくなっちまったからな……何もする事がないからそこの馬鹿共の代わりに1人で砂浜を見張っていたら、お前があの化物と戦う姿を見た」
「あ、そうだったんですか……」
「正直、身体が震えたぜ。あの化物を相手に一進一退の攻防を繰り広げていてよ。しかも最終的には勝っちまうんだからよ……あれを見て俺は思ったんだよ。こいつには逆らえねえってな」
自嘲気味の笑顔を浮かべながらキジンは溜息を吐き出し、自分の掌を覗き込む。
「……巨人族は力こそが絶対なんだ。それが腕力であろうと魔法であろうと寒けない。あの時、俺はお前にもう勝てないと思った。心が折れちまったんだよ……この島では力こそがぞ絶対だ。だから一番強い奴の言う事は誰も逆らえねえ!!そうだろうお前等!?」
「うっ……」
「そ、それは……」
今まで力で従えさせていたキジンの言葉に囚人達は黙り込み、ここで文句を告げた所でルノやキジンに敵う存在はおらず、彼等にはルノを引き留める権利はない。
「ほら、さっさと行けよ!!お前ならその気になればこんな島なんて簡単に脱出出来るんだろ?」
「キジンさん……」
「ちっ!!早く行けよ!!その面を二度と見せるな!!」
「兄貴……お世話になりました!!」
「俺達の事を忘れないで下さいね!!」
キジン、ニオ、ロナクの言葉にルノは笑顔を浮かべ、彼等との間に奇妙な友情を感じながらもルノは頭を下げ、立ち去る前に大切なことを伝える。
「墜落した飛行船の物資は全部砂浜の方に移動させている。その中に存在した薬草の類は畑の方に植えて成長させているから、負傷人が出たら遠慮なく使ってね。それと、夜の間だけなら海竜に襲われる事はないから漁業も出来るよ!!」
「えっ!?」
「それはどういう……」
「じゃあね!!色々とありがとう!!」
言いたいことを伝えるとルノは飛翔術を利用して浮上し、全員に手を振って飛び立つ。その光景に囚人達は呆然と見送るが、キジンは鼻をすすりながら呟く。
「へっ……余計な真似をしやがって」
「兄貴……無事に戻れるんですかね?」
「さあな……おら!!お前等ボケっとしてんじゃねえ!!あいつが居なくなった以上は俺がボスだ!!さっさと働きやがれ!!」
『は、はい……!!』
キジンの言葉に囚人達は慌てて農作業を再開し、ニオとロナクは肩をすくめて砂浜に向かう。結果的にルノの行動が海獄島にどんな影響を与えたのかは不明だが、それでも彼等はこの年だけは食料確保が困難な冬を乗り越え、誰も死ぬことはなく平和に過ごしたという――
――囚人達と盛大な別れを告げた後、ルノは山岳地帯に戻る前に街に戻り、リディアが暮らす倉庫に訪れる。彼女とも最後の別れを告げねばならず、同時に話も聞かなければならない。
「リディア?居る?」
『シャアアッ!!』
「うわっ!?何っ!?」
敷地内に入った瞬間、ガーゴイルの怒声が鳴り響き、ルノは何事かと庭の方に出向く。するとルノの視界にはガーゴイルが巨大蟷螂と向き合い、戦闘を繰り広げる光景が広がっていた。
「蟷螂!?どうしてここに……!?」
「ちょ、ちょっと!!あんた、助けてよ!?」
「リディア!?」
『シャアッ!!』
『ギルルッ!!』
ガーゴイルの背後には腰を抜かしたリディアが存在し、蟷螂が彼女に襲い掛かろうとするとガーゴイルが必死に止める。しかし、頑丈な石の肉体を持つガーゴイルですらも蟷螂の研ぎ澄まされた刃物のような鎌を受けた瞬間、肉体に切り傷が生じ、苦悶の表情を浮かべる。
「ああ?誰がそんな事を言った?てめえの聞き違いだ!!」
「そ、そんな……!?」
キジンの言葉に騒ぎ出していた囚人達は黙り込み、そんな彼等の反応を見て蔑むようにキジンは視線を向ける。
「ふんっ……つくづくこの島は悪党の集まりだな。数日前は救世主のように褒めたたえた癖に、いなくなると知ったら偽善者呼ばわりか?この、カス共が!!」
「親分……」
「どうしてそこまで……」
ルノを庇うように怒鳴りつけるキジンに対し、ニオとロナクも戸惑うが、そんな彼等を見てキジンは頭を掻きながら説明する。
「言っておくが俺はこいつの事を認めたわけじゃねえ。勝手に来て、自分のやりたい事をやって勝手に抜け出すような奴なんて知った事じゃねえ。だがな、こいつがいなければ俺達は今年の冬で全滅していたかもしれねえ……その事だけは感謝している。しかし、てめえはやりすぎなんだよ!!」
「え?」
「食料を作り出すまでは分かる。だけどな、あの海竜に一人で喧嘩を売り続けるなんて何を考えてやがる!?」
「え!?あ、あの化物に!?」
「兄貴がっ!?」
キジンの言葉に囚人達は驚き、ルノも海竜との戦闘をキジンに見られていた事に驚くが、彼の話によると海獄島の付近でルノと海竜が戦闘する場面を目撃していたという。
「お前のせいでこの島での俺の行き場はなくなっちまったからな……何もする事がないからそこの馬鹿共の代わりに1人で砂浜を見張っていたら、お前があの化物と戦う姿を見た」
「あ、そうだったんですか……」
「正直、身体が震えたぜ。あの化物を相手に一進一退の攻防を繰り広げていてよ。しかも最終的には勝っちまうんだからよ……あれを見て俺は思ったんだよ。こいつには逆らえねえってな」
自嘲気味の笑顔を浮かべながらキジンは溜息を吐き出し、自分の掌を覗き込む。
「……巨人族は力こそが絶対なんだ。それが腕力であろうと魔法であろうと寒けない。あの時、俺はお前にもう勝てないと思った。心が折れちまったんだよ……この島では力こそがぞ絶対だ。だから一番強い奴の言う事は誰も逆らえねえ!!そうだろうお前等!?」
「うっ……」
「そ、それは……」
今まで力で従えさせていたキジンの言葉に囚人達は黙り込み、ここで文句を告げた所でルノやキジンに敵う存在はおらず、彼等にはルノを引き留める権利はない。
「ほら、さっさと行けよ!!お前ならその気になればこんな島なんて簡単に脱出出来るんだろ?」
「キジンさん……」
「ちっ!!早く行けよ!!その面を二度と見せるな!!」
「兄貴……お世話になりました!!」
「俺達の事を忘れないで下さいね!!」
キジン、ニオ、ロナクの言葉にルノは笑顔を浮かべ、彼等との間に奇妙な友情を感じながらもルノは頭を下げ、立ち去る前に大切なことを伝える。
「墜落した飛行船の物資は全部砂浜の方に移動させている。その中に存在した薬草の類は畑の方に植えて成長させているから、負傷人が出たら遠慮なく使ってね。それと、夜の間だけなら海竜に襲われる事はないから漁業も出来るよ!!」
「えっ!?」
「それはどういう……」
「じゃあね!!色々とありがとう!!」
言いたいことを伝えるとルノは飛翔術を利用して浮上し、全員に手を振って飛び立つ。その光景に囚人達は呆然と見送るが、キジンは鼻をすすりながら呟く。
「へっ……余計な真似をしやがって」
「兄貴……無事に戻れるんですかね?」
「さあな……おら!!お前等ボケっとしてんじゃねえ!!あいつが居なくなった以上は俺がボスだ!!さっさと働きやがれ!!」
『は、はい……!!』
キジンの言葉に囚人達は慌てて農作業を再開し、ニオとロナクは肩をすくめて砂浜に向かう。結果的にルノの行動が海獄島にどんな影響を与えたのかは不明だが、それでも彼等はこの年だけは食料確保が困難な冬を乗り越え、誰も死ぬことはなく平和に過ごしたという――
――囚人達と盛大な別れを告げた後、ルノは山岳地帯に戻る前に街に戻り、リディアが暮らす倉庫に訪れる。彼女とも最後の別れを告げねばならず、同時に話も聞かなければならない。
「リディア?居る?」
『シャアアッ!!』
「うわっ!?何っ!?」
敷地内に入った瞬間、ガーゴイルの怒声が鳴り響き、ルノは何事かと庭の方に出向く。するとルノの視界にはガーゴイルが巨大蟷螂と向き合い、戦闘を繰り広げる光景が広がっていた。
「蟷螂!?どうしてここに……!?」
「ちょ、ちょっと!!あんた、助けてよ!?」
「リディア!?」
『シャアッ!!』
『ギルルッ!!』
ガーゴイルの背後には腰を抜かしたリディアが存在し、蟷螂が彼女に襲い掛かろうとするとガーゴイルが必死に止める。しかし、頑丈な石の肉体を持つガーゴイルですらも蟷螂の研ぎ澄まされた刃物のような鎌を受けた瞬間、肉体に切り傷が生じ、苦悶の表情を浮かべる。
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