最弱職の初級魔術師 初級魔法を極めたらいつの間にか「千の魔術師」と呼ばれていました。

カタナヅキ

文字の大きさ
上 下
221 / 657
外伝 〈一人旅〉

絶滅種

しおりを挟む
「それにしてもこんなに大きい昆虫がいるなんて……これも魔物なのかな?」
「分からない……こんな魔物を見たのは初めてだ」
「昆虫型の魔物など見た事も聞いた事もない」


全員が海に浮かんだ巨大蟷螂に視線を向け、外見は完全に蟷螂であり、魔物だとは思われるが正体が掴めない。だが、ここで調べる暇はなく、ルノは兵士達を安全な場所へ移動させるために氷船を操作する。


「とりあえず、島に上陸しますよ」
「ま、待ってくれ!!あの島は囚人が支配しているんだろう!?兵士の俺達が向かえばとんでもない事に……!!」
「だからといってここに残ってもしょうがないでしょ」
「……分かった。だが、その前にあんたの正体を教えてくれ。一体何者なのだ?こんな魔法、見た事も聞いた事もないぞ」


隊長の言葉に他の人間も頷き、彼等はルノの正体を尋ねる。仕方なく、ルノは彼等に改めて自己紹介を行う。


「俺の名前はルノ、帝国に召喚された異世界人です」
「ルノ?それってもしかして……」
「あの帝国の英雄か!?幾度も竜種を単独で討伐を果たしたという……!!」
「驚いたな……しかし、噂通りに奇怪な魔法を使う」


ルノの言葉に全員が納得したように自分達が乗り込んでいる氷の船に視線を向け、外国でもルノの武勇伝が伝わっているらしく、誰も見た事がない魔法を扱うという噂が広がっていた。


「じゃあ、島に移動するけど俺から離れないで下さい。囚人の人達に見つからない場所まで移動しますから」
「移動?どうやって……うおおっ!?」
「こうやって」


兵士達が乗り込んでいた氷船が変形し、船から飛行機へと変形させる。ルノは飛翔術を利用して先導し、複数の氷飛行機を引き連れて彼は囚人も滅多に訪れない島の山岳地帯へ向けて移動を開始した――




――数分後、ルノは兵士達を安全ァ場所へ降ろすと今度は彼等の食料を確保するために街へ引き返し、ついでにリディアの元へ訪れて彼女に飛行船から現れた魔物の正体を問う。魔物使いの彼女ならば魔物に関する知識が豊富であると判断し、食料と引き換えに情報を聞き出す。


「巨大な蟷螂みたいな魔物……?変な事を聞くのね」
「何か知らない?」
「知ってるわよ。多分、そいつは昆虫種ね」
『シャアッ?』


ルノから受け取った果物を齧りながらリディアは説明を行う。彼女によると昆虫種とは既に何百年も前に絶滅した魔物らしく、その強さは並の魔物の比ではなく、一時期は竜種に迫るほどの危険種として恐れられていたらしい。


「昆虫種の起源は色々な説があるけど、一番有力だと信じられてるのは過去に召喚された異世界人が人工的に生み出したと言われているわ。理由は聞かないでよ、私も知らないんだから」
「え?じゃあ、あんな化物を異世界人が作り出したの!?」
「まあ、あくまでも一説に過ぎないけどね。もしかしたら突然変異で生まれたかもしれないし、あるいは歴代の魔王軍が作り出した種かもしれない。でも、昆虫種は生態系を狂わせる程に危険な魔物だと言われているわ。実際に幾つかの国が昆虫種に滅ぼされる寸前だったらしいわ」


リディアによると昆虫種は非常に危険で厄介な魔物らしく、過去に幾つかの国家が昆虫種によって甚大な被害を受けたという。しかし、それほど強大な力を持つ昆虫種が絶滅した理由は未だに解明されていないという。


「でも、それほど脅威的な力を持っていた昆虫種が絶滅した理由も誰も分からないのが一番の謎ね。ある時期を境に昆虫種が活発的に動かなくなり、大量の死骸が発見されたみたいだけど、どうして急に昆虫種が絶滅したのか誰も理由が分からないのよ。だけど、一番信憑性が高い説として冬を迎えた事で昆虫種が生きにくい環境に変化したからと言われているわ」
「え?それだけで絶滅したの?」
「他に理由が考えられないのよ。昆虫種が活発的に行動していた時期は短いし、基幹的には半年程度しか存在しなかったらしいわ」


リディアの説明にルノは考え込み、彼女の話が事実ならば数百年前に既に絶滅していた魔物がルノ達を襲い掛かった事になる。しかも移送船に運ばれていた荷物のなかに昆虫種が入っていたと思われる卵が入っていた事も気にかかり、何者かが作為的に飛行船を襲撃させたとしか考えられない。


「それでなんで急に昆虫種の事なんて聞いてきたのよ?何か問題でも起きたの?」
「えっと……実は――」


ルノは隠さずに飛行船が墜落した事、巨大蟷螂が現れた事をリディアに話す。他の囚人に兵士達の存在が知られると不味いので彼等を匿った事は話さなかったが、全てを聞き出したリディアは表情を暗くさせる。


「まさか……!?」
「リディア?」
「な、何でもないわ……でも、後でまたうちに寄ってくれる?頼みたいことがあるから……」
「頼みたい事って……あ、ちょっと!?」
『シャアッ?』


返事も聞かずにリディアは家の中に入り込み、扉を閉める。そんな彼女の態度に疑問を抱きながらもルノは兵士達に食料を渡すため、山岳地帯へと引き返した――
しおりを挟む
感想 1,841

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます

まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。 貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。 そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。 ☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。 ☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。

【完結】『飯炊き女』と呼ばれている騎士団の寮母ですが、実は最高位の聖女です

葉桜鹿乃
恋愛
ルーシーが『飯炊き女』と、呼ばれてそろそろ3年が経とうとしている。 王宮内に兵舎がある王立騎士団【鷹の爪】の寮母を担っているルーシー。 孤児院の出で、働き口を探してここに配置された事になっているが、実はこの国の最も高貴な存在とされる『金剛の聖女』である。 王宮という国で一番安全な場所で、更には周囲に常に複数人の騎士が控えている場所に、本人と王族、宰相が話し合って所属することになったものの、存在を秘する為に扱いは『飯炊き女』である。 働くのは苦では無いし、顔を隠すための不細工な丸眼鏡にソバカスと眉を太くする化粧、粗末な服。これを襲いに来るような輩は男所帯の騎士団にも居ないし、聖女の力で存在感を常に薄めるようにしている。 何故このような擬態をしているかというと、隣国から聖女を狙って何者かが間者として侵入していると言われているためだ。 隣国は既に瘴気で汚れた土地が多くなり、作物もまともに育たないと聞いて、ルーシーはしばらく隣国に行ってもいいと思っているのだが、長く冷戦状態にある隣国に行かせるのは命が危ないのでは、と躊躇いを見せる国王たちをルーシーは説得する教養もなく……。 そんな折、ある日の月夜に、明日の雨を予見して変装をせずに水汲みをしている時に「見つけた」と言われて振り向いたそこにいたのは、騎士団の中でもルーシーに優しい一人の騎士だった。 ※感想の取り扱いは近況ボードを参照してください。 ※小説家になろう様でも掲載予定です。

冤罪をかけられた上に婚約破棄されたので、こんな国出て行ってやります

真理亜
恋愛
「そうですか。では出て行きます」 婚約者である王太子のイーサンから謝罪を要求され、従わないなら国外追放だと脅された公爵令嬢のアイリスは、平然とこう言い放った。  そもそもが冤罪を着せられた上、婚約破棄までされた相手に敬意を表す必要など無いし、そんな王太子が治める国に未練などなかったからだ。  脅しが空振りに終わったイーサンは狼狽えるが、最早後の祭りだった。なんと娘可愛さに公爵自身もまた爵位を返上して国を出ると言い出したのだ。  王国のTOPに位置する公爵家が無くなるなどあってはならないことだ。イーサンは慌てて引き止めるがもう遅かった。

「魔道具の燃料でしかない」と言われた聖女が追い出されたので、結界は消えます

七辻ゆゆ
ファンタジー
聖女ミュゼの仕事は魔道具に力を注ぐだけだ。そうして国を覆う大結界が発動している。 「ルーチェは魔道具に力を注げる上、癒やしの力まで持っている、まさに聖女だ。燃料でしかない平民のおまえとは比べようもない」 そう言われて、ミュゼは城を追い出された。 しかし城から出たことのなかったミュゼが外の世界に恐怖した結果、自力で結界を張れるようになっていた。 そしてミュゼが力を注がなくなった大結界は力を失い……

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

私に姉など居ませんが?

山葵
恋愛
「ごめんよ、クリス。僕は君よりお姉さんの方が好きになってしまったんだ。だから婚約を解消して欲しい」 「婚約破棄という事で宜しいですか?では、構いませんよ」 「ありがとう」 私は婚約者スティーブと結婚破棄した。 書類にサインをし、慰謝料も請求した。 「ところでスティーブ様、私には姉はおりませんが、一体誰と婚約をするのですか?」

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。