最弱職の初級魔術師 初級魔法を極めたらいつの間にか「千の魔術師」と呼ばれていました。

カタナヅキ

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外伝 〈一人旅〉

巨大蟷螂戦

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『ギルルルッ……!!』
「あれ、結構強く蹴ったと思ったんだけど……意外とタフだな」
「お、おい!!あんた魔術師なんだろう!?早く魔法で何とかしてくれ!!」
「うわ、しがみつかないでよ!?」


氷船に降り立ったルノに若い兵士が抱き着き、追撃を邪魔されてしまう。その様子を確認した蟷螂は木箱から跳躍し、ルノに向けて両腕の鎌を振り下ろす。


『ギルルッ!!』
「普通の蟷螂はそんな鳴き声しないよ!!」
「ギルゥッ!?」


鎌が振り下ろされる前にルノは両手を構えて氷盾を発動させ、雪の結晶を意識して作り出された氷塊の盾が鎌を弾く。鋼鉄を切断する切れ味はあるが、ルノの氷塊の魔法で作り出す氷の強度は鋼鉄の比ではなく、攻撃を仕掛けた鎌の先端が食い込む程度が限界だった。


「ちょっと正体は気になるけど……仕方ないか」
『ギリリリッ……!!』


必死に氷盾から抜け出そうとする蟷螂に対し、ルノは掌を構えて止めを刺そうとした瞬間、別の小船から悲鳴があがる。


「ぎゃああっ!?」
「た、助けてくれぇっ!!」
「えっ……!?」


ルノが振り返ると他の人間が乗り込んでいる船の上にも別の蟷螂が存在し、兵士の一人の肩に鎌を突き刺していた。同じ船に乗り込んでいた兵士が必死に救い出そうとするが、海に落ちた際に武器の類を失っていたので身に付けていた兜を振り回す事しか出来ない。


「この、離れろっ!!」
「いだいっ!!いだいよぉっ!?」
「喚くなっ!!それでも獣人国の誇り高き兵士か!!」
『ギルッ!?』


護衛隊長が見ていられずに別の船から飛び込み、兵士の身体を引き寄せながら蟷螂の頭を蹴りつけて鎌を引き離す。傷は深いが致命傷ではないようであり、ルノは蟷螂が離れた瞬間に魔法を放つ。


「白雷!!」
『ギァアアアッ……!?』


白色の電撃が蟷螂を貫き、黒焦げと化した死体が海に沈む。それを確認したルノは安心したが、その間にも氷盾から鎌を引き抜いた蟷螂が跳躍し、羽根を広げて飛び立つ。


『ギルルルルッ!!』
「しつこい奴だな……ちょっと離れて!!」
「うわっ!?」


しがみついていた兵士を軽く突き飛ばすと、ルノは頭上から接近してきた蟷螂に向けて両手を構え、振り下ろされた鎌に対して人差し指と親指で掴み取る。


『ギルゥッ……!?』
「おっと、昆虫の癖に結構力が強いな……でも、魔王と比べたら赤ん坊同然だよ!!」
『ギァッ!?』


ルノは蟷螂の鎌を引き寄せて海面に向けて叩きつける。幾ら水の上に落ちたと言っても超高速で叩きつけられれば無事では済まず、蟷螂の肉体から両腕の鎌が引き千切られ、胴体は海に沈む。


「あ、取れちゃった……結構切れ味が良さそうだし、剣の代わりにはなるかな?」
「あ、あんた……魔術師じゃないのか?」
「魔術師ですよ。レベル99の初級魔術師ですけど」


呆然とした表情で若い兵士がルノを見上げ、当の本人は引き千切った蟷螂の鎌に視線を向け、捨てるのも勿体なく感じたのでアイテムボックスのスキルを利用して異空間に回収する。その一方で負傷した兵士を隊長が必死に止血を行っていた。


「おい、しっかりしろ!!傷は浅いぞ!?」
「ううっ……死にたくない」
「くそっ……このままでは不味い。誰か回復薬の予備はないのか!?」
「す、すいません……船から落ちた時の怪我を治すのに全部使い切ってしまいまして……」
「あ、俺持ってますよ」


隊長の言葉にルノはアイテムボックスから回復薬を取り出して手渡すと、隊長は礼を告げて兵士に治療を施す。


「す、すまない……ほら、薬だぞ!!」
「ううっ……」


傷口に回復薬が振りかけられ、怪我の治療が終えると全員が安堵する。しかし、すぐに隊長は苛立ちを隠せないように回復薬を海に放り捨てる。


「くそっ!!何なのだこいつらは!?こんな魔物がどうしてここにいる!!」
「こ、こいつ!!こいつが船に現れた!!」
「ということはこの魔物に襲われて飛行船が墜落したのか?」
「あの……さっき、この魔物が出てきたと思う卵があっちの方にありました。木箱の中に入っていたんですけど……」


囚人の発言とルノが発見した木箱の中身を考えても、現れた2体の巨大蟷螂は飛行船の内部に保管されていた卵から誕生したとしか考えられず、ルノは隊長に尋ねる。


「魔物の卵を移送していた事を知らなかったんですか?」
「当たり前だ!!そもそも卵の状態の魔物を移送する事は法律で禁じられている!!どうしてこんな物が飛行船の中に……」
「あの、隊長……俺達はこの人に救われたんですよ。そんな言い方は……」
「むっ……これはすまない、協力感謝する」


怒りを隠せずに怒鳴り散らした隊長に先ほどルノに抱き着いていた兵士が注意すると、少しは冷静さを取り戻したのか謝罪する。しかし、未だに興奮は収まらないのか海の上を浮かぶ黒焦げと化した蟷螂の死体に視線を向け、唾を吐く。
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