上 下
219 / 657
外伝 〈一人旅〉

飛行船襲撃

しおりを挟む
「お、俺が掃除していた時、急に悲鳴があがった。一つじゃない……いっぱい、悲鳴が聞こえた」
「悲鳴?」
「気になって、調べに言ったら……見た事もない虫に兵士が襲われてた」
「虫?何を言っている!?」


虫に襲われたという言葉に全員が戸惑いの表情を浮かべるが、模範囚の話によると彼が見つけた虫とは普通の大きさではなく、異常なまでに大きな虫だったという。


「虫、とても大きかった。俺よりも大きかった……そいつらに兵士が殺されてた」
「馬鹿な……虫如きに我が軍の兵士が敗れるものか!!」
「落ち着け!!おい、その虫というのはどんな姿をしていた?」
「み、緑色で、刃物ような大きな鎌を生やしてた」
「それって……蟷螂?」


囚人の言葉にルノが思いついたのは「蟷螂」であり、彼の話によると飛行船内に人間と同程度の大きさの巨大蟷螂が出現し、兵士達を襲ったという。状況的に考えて飛行船が墜落したのも兵士を襲った蟷螂が原因である可能性が高い。


「その蟷螂は何処にいる?」
「し、知らない……俺も襲われそうになったけど、飛行船が傾いて、俺は窓から落ちて助かった」
「なるほど」
「隊長!!こんな奴の言う事など当てになりません!!」
「むうっ……」


囚人の言葉に全員が半信半疑であり、この状況下で囚人が嘘を吐く理由はない。だが、いくら何でも巨大蟷螂が現れて兵士を襲ったという話を信じろというのも無理な話である。


「蟷螂か……そいつはまだ飛行船の中に居るのかな」
「おい、あんたこんな奴の話を信じるのか!?」
「……ちょっと探してみる」


兵士の言葉を無視してルノは足元に氷板を作り出し、飛行船の残骸に向けて接近する。他に生存者も居るかも知れず、他の人間の捜索を行いながらも海に沈んだ残骸を調べる。


「改めて見ると酷い状況だな……でも、確かに普通じゃない死に方をしている人たちもいる」


飛行船がどのように墜落したのかは不明だが、海に浮かんでいる死体の中には墜落の衝撃で死亡したとは思えない死に方をした人間も多数存在し、刃物のような物で肉体を傷つけられて浮かんでいる死体も存在した。


「この人、上半身だけの状態で死んでる……どうやって切ったんだ?」


上半身と下半身が分かれた状態で死亡している兵士を発見し、ルノは口元を抑えながらも海に浮かぶ残骸と死体を調査する。吐き気が催す光景だが、それでも他に生存者がいるとしたら救い出さなければならず、飛行船の墜落の理由も調べるために入念に調査を行う。


「ん?これは……何だ?」


大きな木箱が浮かんでいる事に気付き、近づいてみると蓋が開いており、中身を見てルノは眉を顰める。内部に存在したのは緑色の卵のような物であり、その大きさが普通ではなく、1メートル以上は存在した。


「もしかしてこれって魔物の卵?じゃあ、さっきの人が話していた巨大蟷螂はこの中から生まれたのか?」


木箱を覗き込みながらルノは動揺を隠せず、卵の様子を調べるとまだ中身の粘液が垂れており、中の生物が生まれてから間もない事は間違いない。


「昆虫型の魔物が眠っていたのか……でも、どうして兵士を襲ったんだ?護衛の人達は何も知らないようだけど……」


魔物の卵を移送していたのならば護衛部隊の人間が知らないはずがなく、囚人の言葉を聞いても信じようとしなかった事に違和感を抱き、ルノは木箱を持ち上げて彼等の元に戻る事にした。しかし、木箱に手を伸ばそうとした瞬間、兵士達を乗せた氷船の方角から悲鳴が響き渡る。


「う、うわぁあああっ!!」
「ば、化物だぁっ!!」
「くそっ!!戦え、戦うんだっ!!」


兵士の悲鳴と隊長の怒声が響き、ルノは瞬時に木箱を手放して彼等の元へ戻るために飛翔術を発動させる。空を飛んで氷船の場所にまで戻ると、そこには船の上に乗り込んで兵士達に襲い掛かろうとする巨大蟷螂の姿が存在した。


『ギルルルルッ……!!』
「ひいっ!?ち、近寄るなっ!!」


先程から囚人の言葉に反発していた若い兵士が松明を振り回して蟷螂を威嚇するが、火を向けられても蟷螂は特に反応は示さず、兵士に向けて鎌を振り下ろす。


『ギルッ!!』
「伏せろっ!!」
「うわぁっ!?」


鎌が横薙ぎに振り払われ、隊長の言葉に従って兵士は身体を屈めると、伏せる際に頭から離れた兜が空中で切断される。恐らくは鋼鉄製と思われる兜を一刀両断した蟷螂の鎌の切れ味と鋭さに全員が目を見開き、若い兵士は悲鳴を上げる。


「た、助けてくれぇっ!!」
「了解!!」
『ギルッ!?』


兵士の言葉にルノは蟷螂の背後から接近し、勢いをつけて蟷螂の背中にドロップキックを食らわせる。体勢を崩された蟷螂は危うく海中に落ちそうになったが、寸前で近くに流れ着いていた木箱に飛び移り、ルノと向かい合う。
しおりを挟む
感想 1,841

あなたにおすすめの小説

最強の職業は付与魔術師かもしれない

カタナヅキ
ファンタジー
現実世界から異世界に召喚された5人の勇者。彼等は同じ高校のクラスメイト同士であり、彼等を召喚したのはバルトロス帝国の3代目の国王だった。彼の話によると現在こちらの世界では魔王軍と呼ばれる組織が世界各地に出現し、数多くの人々に被害を与えている事を伝える。そんな魔王軍に対抗するために帝国に代々伝わる召喚魔法によって異世界から勇者になれる素質を持つ人間を呼びだしたらしいが、たった一人だけ巻き込まれて召喚された人間がいた。 召喚された勇者の中でも小柄であり、他の4人には存在するはずの「女神の加護」と呼ばれる恩恵が存在しなかった。他の勇者に巻き込まれて召喚された「一般人」と判断された彼は魔王軍に対抗できないと見下され、召喚を実行したはずの帝国の人間から追い出される。彼は普通の魔術師ではなく、攻撃魔法は覚えられない「付与魔術師」の職業だったため、この職業の人間は他者を支援するような魔法しか覚えられず、強力な魔法を扱えないため、最初から戦力外と判断されてしまった。 しかし、彼は付与魔術師の本当の力を見抜き、付与魔法を極めて独自の戦闘方法を見出す。後に「聖天魔導士」と名付けられる「霧崎レナ」の物語が始まる―― ※今月は毎日10時に投稿します。

食うために軍人になりました。

KBT
ファンタジー
 ヴァランタイン帝国の片田舎ダウスター領に最下階位の平民の次男として生まれたリクト。  しかし、両親は悩んだ。次男であるリクトには成人しても継ぐ土地がない。  このままではこの子の未来は暗いものになってしまうだろう。  そう思った両親は幼少の頃よりリクトにを鍛え上げる事にした。  父は家の蔵にあったボロボロの指南書を元に剣術を、母は露店に売っていた怪しげな魔導書を元に魔法を教えた。    それから10年の時が経ち、リクトは成人となる15歳を迎えた。  両親の危惧した通り、継ぐ土地のないリクトは食い扶持を稼ぐために、地元の領軍に入隊試験を受けると、両親譲りの剣術と魔法のおかげで最下階級の二等兵として無事に入隊する事ができた。  軍と言っても、のどかな田舎の軍。  リクトは退役するまで地元でのんびり過ごそうと考えていたが、入隊2日目の朝に隣領との戦争が勃発してしまう。  おまけに上官から剣の腕を妬まれて、単独任務を任されてしまった。  その任務の最中、リクトは平民に対する貴族の専横を目の当たりにする。  生まれながらの体制に甘える貴族社会に嫌気が差したリクトは軍人として出世して貴族の専横に対抗する力を得ようと立身出世の道を歩むのだった。    剣と魔法のファンタジー世界で軍人という異色作品をお楽しみください。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

母親に家を追い出されたので、勝手に生きる!!(泣きついて来ても、助けてやらない)

いくみ
ファンタジー
実母に家を追い出された。 全く親父の奴!勝手に消えやがって! 親父が帰ってこなくなったから、実母が再婚したが……。その再婚相手は働きもせずに好き勝手する男だった。 俺は消えた親父から母と頼むと、言われて。 母を守ったつもりだったが……出て行けと言われた……。 なんだこれ!俺よりもその男とできた子供の味方なんだな? なら、出ていくよ! 俺が居なくても食って行けるなら勝手にしろよ! これは、のんびり気ままに冒険をする男の話です。 カクヨム様にて先行掲載中です。 不定期更新です。

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

断腸の思いで王家に差し出した孫娘が婚約破棄されて帰ってきた

兎屋亀吉
恋愛
ある日王家主催のパーティに行くといって出かけた孫娘のエリカが泣きながら帰ってきた。買ったばかりのドレスは真っ赤なワインで汚され、左頬は腫れていた。話を聞くと王子に婚約を破棄され、取り巻きたちに酷いことをされたという。許せん。戦じゃ。この命燃え尽きようとも、必ずや王家を滅ぼしてみせようぞ。

うっかり『野良犬』を手懐けてしまった底辺男の逆転人生

野良 乃人
ファンタジー
辺境の田舎街に住むエリオは落ちこぼれの底辺冒険者。 普段から無能だの底辺だのと馬鹿にされ、薬草拾いと揶揄されている。 そんなエリオだが、ふとした事がきっかけで『野良犬』を手懐けてしまう。 そこから始まる底辺落ちこぼれエリオの成り上がりストーリー。 そしてこの世界に存在する宝玉がエリオに力を与えてくれる。 うっかり野良犬を手懐けた底辺男。冒険者という枠を超え乱世での逆転人生が始まります。 いずれは王となるのも夢ではないかも!? ◇世界観的に命の価値は軽いです◇ カクヨムでも同タイトルで掲載しています。

お嬢様はお亡くなりになりました。

豆狸
恋愛
「お嬢様は……十日前にお亡くなりになりました」 「な……なにを言っている?」

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。