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外伝 〈一人旅〉
飛行船の到着
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――更に数日後、海獄島に遂に飛行船が到着した。農場にてルノは他の囚人達と農作物の回収を行っていると、ニオとロナクが慌てた様子で駆けつけてきた。
「た、大変です兄貴!!」
「どうしたの?」
「ひ、飛行船が……!!」
「え?新しい囚人が運び込まれてきたの?」
飛行船という言葉にルノは海獄島に新たな囚人を送り込む飛行船が到着したのかと思ったが、二人の様子がおかしく、尋常ではない汗を流していた。そんな二人の態度に疑問を抱いたのはルノだけではなく、彼の隣で農作物を乗せる荷車を轢いていたキジンが尋ねる。
「おい、どうした?何をそんなに慌ててやがる?」
「つ、墜落したんです!!飛行船が空の上でぶっ壊れて海に沈んだんですよ!!」
「何だと!?」
「どういう事!?」
「お、俺達も何が起きたのか分からなくて……と、とにかく砂浜に来てくださいよ!!」
「……分かった」
墜落した飛行船を確認するため、ルノは飛翔術を利用して他の人間を置いて超音速で海獄島の砂浜に向かう。ニオとロナクの言葉通り、海獄島の砂浜の上空まで移動すると海の中に沈む飛行船の残骸を発見し、飛行船内に存在したと思われる人間の死体や物資が海に流されていた。
「何だっ……どうしてこんな事に」
何が起きているのかは不明だが、ルノは急いで飛行船の残骸へ接近し、生存者を探す。幸いにも海竜は先日の一件で懲りたのか現れる様子はなく、ルノは海面に浮かんでいる人間達に話しかける。
「あのっ!!生きてますかっ!?」
「お、お~い!!助けてくれ!!」
「俺達はここだっ!!」
飛行船の墜落の際に大勢の人間が死亡したようだが、それでも何人かが生き残っているらしく、船に積み込まれた木箱にしがみついて救援を求める人間も存在した。ルノは急いで彼等の元へ向かい、氷塊の魔法で氷の船を作り出す。
「これに乗って!!早くっ!!」
「す、すまない……」
「こ、氷の船?あんたは一体……いや、今は良い!!すぐにここから離れてくれ!!」
「ま、待ってくれ!!俺も乗せてくれ!!」
生き残っていた人間は十数人程存在したが、死体の数はその数倍は存在し、墜落の衝撃で大部分の搭乗者が死亡したらしい。ルノは彼等を氷塊の魔法で作り出した複数の小船に乗せ、砂浜に向けて移動させる。
「他に生きている人間は居ないの?」
「多分、もういない……俺達だけだ」
「そう……怪我をしている人は?」
「だ、大丈夫だ……全員、無傷とは言えないが重傷者はいない。一応は常備していた回復薬を飲んでいる」
「あんた達は……獣人族?」
ルノが助けた人間は全員が獣耳を生やしており、人間ではなく獣人族だった。海に浮かんでいる木箱には獣人国の紋様である「爪跡」が記されており、救助された獣人族の中の一番の年長者と思われる中年安静が答えた。
「ああ、俺達は獣人国の移送船の護衛部隊だ。そういうあんたは何者なんだ?囚人とは思えないが……」
「漂流者……いや、今はそんな事はどうでもいいよ。何が起きたの?」
「分からない。俺達もどうして飛行船が墜落した理由を知らないんだ。仮眠室で休んでいるときに急に船が傾いたと思ったら沈んで……」
「ここに居るのは全員兵士?」
「いや……そいつは違う」
船に乗り込んできた獣人族の多くは武装しており、囚人の移送を任された護衛兵だった。しかし、その中で一人だけ囚人服を着こんだ囚人が存在し、何かを恐れるように身体を丸めていた。
「おい、お前!!どうしたんだ?」
「ひ、ひいっ……!!」
「おい、辞めろ……なあ、お前は何か知っているのか?」
怯えている囚人に若い兵士が怒鳴りつけようとしたが、護衛隊長は兵士を黙らせて囚人が何に怯えているのかを尋ねる。囚人はゆっくりと顔を上げ、何かを警戒するように周囲に視線を向ける。そんな彼の態度に全員が訝しみ、ルノが出来る限り驚かせないように優しく語り掛ける。
「あの……何か知っているんですか?」
「お、俺……俺は、知ってる。飛行船が落ちた、理由」
「何だと!?本当なのか?」
「隊長、こいつは囚人ですよ。真に受けない方が……」
「この状況で囚人も何もあるか!!答えてくれ、何が起きたんだ?」
隊長の質問に囚人は怯えた表情を浮かべながら顔を見上げ、自分の正体を話す。
「あ、あの……俺、清掃を任されていた模範囚……だった。だから、飛行船の中を掃除してた」
「え?死刑囚に飛行船の中を清掃させてたんですか?」
「いや、飛行船に乗り込んだ囚人全員が死刑囚とは限らない。途中、別の監獄に送り込む予定の囚人も多いからな。その中には普段の態度が真面目な人間には良質な食事と引き換えに仕事を与える事もある」
「そ、そう……だから俺、仕事頑張ってた!!でも……」
恐怖のせいか、それとも生まれが問題なのか不明だが、囚人は途切れ途切れに言葉を区切りながら飛行船が墜落した理由を語る。
「た、大変です兄貴!!」
「どうしたの?」
「ひ、飛行船が……!!」
「え?新しい囚人が運び込まれてきたの?」
飛行船という言葉にルノは海獄島に新たな囚人を送り込む飛行船が到着したのかと思ったが、二人の様子がおかしく、尋常ではない汗を流していた。そんな二人の態度に疑問を抱いたのはルノだけではなく、彼の隣で農作物を乗せる荷車を轢いていたキジンが尋ねる。
「おい、どうした?何をそんなに慌ててやがる?」
「つ、墜落したんです!!飛行船が空の上でぶっ壊れて海に沈んだんですよ!!」
「何だと!?」
「どういう事!?」
「お、俺達も何が起きたのか分からなくて……と、とにかく砂浜に来てくださいよ!!」
「……分かった」
墜落した飛行船を確認するため、ルノは飛翔術を利用して他の人間を置いて超音速で海獄島の砂浜に向かう。ニオとロナクの言葉通り、海獄島の砂浜の上空まで移動すると海の中に沈む飛行船の残骸を発見し、飛行船内に存在したと思われる人間の死体や物資が海に流されていた。
「何だっ……どうしてこんな事に」
何が起きているのかは不明だが、ルノは急いで飛行船の残骸へ接近し、生存者を探す。幸いにも海竜は先日の一件で懲りたのか現れる様子はなく、ルノは海面に浮かんでいる人間達に話しかける。
「あのっ!!生きてますかっ!?」
「お、お~い!!助けてくれ!!」
「俺達はここだっ!!」
飛行船の墜落の際に大勢の人間が死亡したようだが、それでも何人かが生き残っているらしく、船に積み込まれた木箱にしがみついて救援を求める人間も存在した。ルノは急いで彼等の元へ向かい、氷塊の魔法で氷の船を作り出す。
「これに乗って!!早くっ!!」
「す、すまない……」
「こ、氷の船?あんたは一体……いや、今は良い!!すぐにここから離れてくれ!!」
「ま、待ってくれ!!俺も乗せてくれ!!」
生き残っていた人間は十数人程存在したが、死体の数はその数倍は存在し、墜落の衝撃で大部分の搭乗者が死亡したらしい。ルノは彼等を氷塊の魔法で作り出した複数の小船に乗せ、砂浜に向けて移動させる。
「他に生きている人間は居ないの?」
「多分、もういない……俺達だけだ」
「そう……怪我をしている人は?」
「だ、大丈夫だ……全員、無傷とは言えないが重傷者はいない。一応は常備していた回復薬を飲んでいる」
「あんた達は……獣人族?」
ルノが助けた人間は全員が獣耳を生やしており、人間ではなく獣人族だった。海に浮かんでいる木箱には獣人国の紋様である「爪跡」が記されており、救助された獣人族の中の一番の年長者と思われる中年安静が答えた。
「ああ、俺達は獣人国の移送船の護衛部隊だ。そういうあんたは何者なんだ?囚人とは思えないが……」
「漂流者……いや、今はそんな事はどうでもいいよ。何が起きたの?」
「分からない。俺達もどうして飛行船が墜落した理由を知らないんだ。仮眠室で休んでいるときに急に船が傾いたと思ったら沈んで……」
「ここに居るのは全員兵士?」
「いや……そいつは違う」
船に乗り込んできた獣人族の多くは武装しており、囚人の移送を任された護衛兵だった。しかし、その中で一人だけ囚人服を着こんだ囚人が存在し、何かを恐れるように身体を丸めていた。
「おい、お前!!どうしたんだ?」
「ひ、ひいっ……!!」
「おい、辞めろ……なあ、お前は何か知っているのか?」
怯えている囚人に若い兵士が怒鳴りつけようとしたが、護衛隊長は兵士を黙らせて囚人が何に怯えているのかを尋ねる。囚人はゆっくりと顔を上げ、何かを警戒するように周囲に視線を向ける。そんな彼の態度に全員が訝しみ、ルノが出来る限り驚かせないように優しく語り掛ける。
「あの……何か知っているんですか?」
「お、俺……俺は、知ってる。飛行船が落ちた、理由」
「何だと!?本当なのか?」
「隊長、こいつは囚人ですよ。真に受けない方が……」
「この状況で囚人も何もあるか!!答えてくれ、何が起きたんだ?」
隊長の質問に囚人は怯えた表情を浮かべながら顔を見上げ、自分の正体を話す。
「あ、あの……俺、清掃を任されていた模範囚……だった。だから、飛行船の中を掃除してた」
「え?死刑囚に飛行船の中を清掃させてたんですか?」
「いや、飛行船に乗り込んだ囚人全員が死刑囚とは限らない。途中、別の監獄に送り込む予定の囚人も多いからな。その中には普段の態度が真面目な人間には良質な食事と引き換えに仕事を与える事もある」
「そ、そう……だから俺、仕事頑張ってた!!でも……」
恐怖のせいか、それとも生まれが問題なのか不明だが、囚人は途切れ途切れに言葉を区切りながら飛行船が墜落した理由を語る。
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