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外伝 〈一人旅〉
海竜の恐怖
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『アガァアアアアッ……!?』
『うわっ、ととっ……!!』
海竜の口内から海水と胃液と共に吐き出されたルノは空中に放り出され、即座に胃液塗みれの氷鎧を解除し、飛翔術を利用して上空へ移動を行う。海竜は苦しみ悶えるようにしばらくは体内に水分を吐き出し、やがて収まると海中へと再び沈む。
「大分参っているようだな……でも、まだまだこれからだからな」
ルノは時間を置いて再び海中に潜り込む事を決めると、海獄島に帰還する。この日から囚人達を守るという名目の海竜への「調教」が始まった――
――数時間後、再びルノは飛翔術を利用して海獄島付近の海域に着水し、氷塊の魔法で生み出したサーフボードに乗り込みながら海上を移動する。今回の目的は海上に居ても海竜が出現するのか調査する事が目的であり、しばらくの間は海の上を移動し続ける。
「流石に今日は現れないかな……おっ?」
サーファーのように波を乗りこなしていると、唐突に波が荒れ狂い始め、海竜の頭部が出現した。位置的にはルノの正面から出現した形となり、海竜は頭部だけを露出して咆哮を放つ。
『オアアアアッ……!!』
「なるほど、海中と比べると海上に存在する人間は探知するのは時間が掛かるのか」
数時間前は海獄島から10キロも離れた海域に潜り込んだルノを数分程度で見つけ出した海竜だが、今回は海獄島の付近のルノを見つけ出すのに十数分も経過しており、ルノは海竜の探知能力の特性を知る。海中ならば瞬時に人間の位置を把握できるが、海上ならば探知するまでにある程度の時間を要する事が把握できただけでも大きな成果である。
『オオオオオッ!!』
「おっと、今回は遊んでられないよ!!」
大口を開いて飲み込もうとしてきた海竜に対し、ルノは両手を向けて口内に向けて「暴風」の強化スキルを発動した状態で風圧の魔法を放つ。
「ゲップに注意!!」
『オゲェッ!?』
強烈な風の塊が口内に押し込まれた海竜は身体を仰け反らせ、海中に沈む。それを確認したルノは飛翔術を利用して上空へと移動すると、海中で海竜が暴れくるっているのか嵐のように波が荒ぶる光景を確認する。
「まだ人間を狙うのか……でも、最初に現れるときに警戒していたな」
これまでの海竜ならば海上に存在するルノを確認する暇もなく飲み込もうとしたが、今回は事前に海上に出現して様子を伺う素振りを見せた。この事から海竜も警戒心を強めている事は間違いなく、ルノはもう一度だけ挑む事を決めた――
――更に数時間後、完全に日が暮れる前にルノは海獄島の海岸から海中に潜り込む。今回は氷塊の魔法は利用せず、自力で泳ぎながら沖を目指す。
「ふうっ……普通に泳ぐなんて久しぶりだな。バカンスだったら楽しかったのに……」
海獄島は海竜が存在しなければリゾート地として向いているかも知れず、島には美しい自然が広がり、山岳部には温泉も存在する。しかし、囚人の監獄として利用されているので一般人が観光で訪れるわけがないのだが、ルノは地球に居た頃に家族と共に海で泳いだことを思い出す。
「皆はどうしてるかな……そういえば佐藤君達は無事に地球に戻れたのかな?」
背泳ぎをしながら空を覗き、夕焼けに染まった赤色の空を見ながらルノは地球での日々を思い出す。この世界に訪れてから大分月日が経過しているが、今更ながらにルノは地球の家族がどうしているのかが気になる。
「今頃あっちはどうなってるのかな……仮に元に戻れても高校は大丈夫かな?留年は避けられないかも……はあっ」
地球に戻れる日が訪れるのかは分からないが、ルノは地球に戻った場合、家族や友達にこの世界の事をどのように説明すればいいのか思い悩む。しかし、名案は思い付かず、そもそも地球に戻る方法があるのかも不明のままである。
「そういえば皇帝陛下は俺達を召喚するのに「召喚石」とかいう物を使ったとか言ってたけど……それを使えば元の世界に戻れるのかな?帝国に戻ったらリーリスに聞いてみるか……お、やっと来たか?」
海面に浮かんでいるとルノは波が荒れ始めた事に気付き、ルノが海を泳ぎ始めてから数十分後、遂に海面に海竜が姿を現した。
「出てきたか……しつこい奴だな」
『オオオッ……』
海上に海竜の頭部が出現し、海面に浮かんでいるルノに視線を向け、観察するように視線を向ける。今までならば姿を見た瞬間に襲い掛かったが、三度も痛い目に遭わされた効果が出てきたのか襲い掛かる様子はない。それを確認したルノは敢えて隙を見せるように両腕を広げる。
「ほら、食べないの?」
『………………』
人語を理解できるのかは不明だが、ルノが挑発している事を察したのか海竜は目元を鋭くさせるが、その視線に対してルノは正面から睨み返し、一言だけ告げた。
「人間を……舐めるなよ」
『……オオオオオオオッ!!』
ルノが呟いた瞬間、海竜は怒りの咆哮を放ちながら大口を開いた――
『うわっ、ととっ……!!』
海竜の口内から海水と胃液と共に吐き出されたルノは空中に放り出され、即座に胃液塗みれの氷鎧を解除し、飛翔術を利用して上空へ移動を行う。海竜は苦しみ悶えるようにしばらくは体内に水分を吐き出し、やがて収まると海中へと再び沈む。
「大分参っているようだな……でも、まだまだこれからだからな」
ルノは時間を置いて再び海中に潜り込む事を決めると、海獄島に帰還する。この日から囚人達を守るという名目の海竜への「調教」が始まった――
――数時間後、再びルノは飛翔術を利用して海獄島付近の海域に着水し、氷塊の魔法で生み出したサーフボードに乗り込みながら海上を移動する。今回の目的は海上に居ても海竜が出現するのか調査する事が目的であり、しばらくの間は海の上を移動し続ける。
「流石に今日は現れないかな……おっ?」
サーファーのように波を乗りこなしていると、唐突に波が荒れ狂い始め、海竜の頭部が出現した。位置的にはルノの正面から出現した形となり、海竜は頭部だけを露出して咆哮を放つ。
『オアアアアッ……!!』
「なるほど、海中と比べると海上に存在する人間は探知するのは時間が掛かるのか」
数時間前は海獄島から10キロも離れた海域に潜り込んだルノを数分程度で見つけ出した海竜だが、今回は海獄島の付近のルノを見つけ出すのに十数分も経過しており、ルノは海竜の探知能力の特性を知る。海中ならば瞬時に人間の位置を把握できるが、海上ならば探知するまでにある程度の時間を要する事が把握できただけでも大きな成果である。
『オオオオオッ!!』
「おっと、今回は遊んでられないよ!!」
大口を開いて飲み込もうとしてきた海竜に対し、ルノは両手を向けて口内に向けて「暴風」の強化スキルを発動した状態で風圧の魔法を放つ。
「ゲップに注意!!」
『オゲェッ!?』
強烈な風の塊が口内に押し込まれた海竜は身体を仰け反らせ、海中に沈む。それを確認したルノは飛翔術を利用して上空へと移動すると、海中で海竜が暴れくるっているのか嵐のように波が荒ぶる光景を確認する。
「まだ人間を狙うのか……でも、最初に現れるときに警戒していたな」
これまでの海竜ならば海上に存在するルノを確認する暇もなく飲み込もうとしたが、今回は事前に海上に出現して様子を伺う素振りを見せた。この事から海竜も警戒心を強めている事は間違いなく、ルノはもう一度だけ挑む事を決めた――
――更に数時間後、完全に日が暮れる前にルノは海獄島の海岸から海中に潜り込む。今回は氷塊の魔法は利用せず、自力で泳ぎながら沖を目指す。
「ふうっ……普通に泳ぐなんて久しぶりだな。バカンスだったら楽しかったのに……」
海獄島は海竜が存在しなければリゾート地として向いているかも知れず、島には美しい自然が広がり、山岳部には温泉も存在する。しかし、囚人の監獄として利用されているので一般人が観光で訪れるわけがないのだが、ルノは地球に居た頃に家族と共に海で泳いだことを思い出す。
「皆はどうしてるかな……そういえば佐藤君達は無事に地球に戻れたのかな?」
背泳ぎをしながら空を覗き、夕焼けに染まった赤色の空を見ながらルノは地球での日々を思い出す。この世界に訪れてから大分月日が経過しているが、今更ながらにルノは地球の家族がどうしているのかが気になる。
「今頃あっちはどうなってるのかな……仮に元に戻れても高校は大丈夫かな?留年は避けられないかも……はあっ」
地球に戻れる日が訪れるのかは分からないが、ルノは地球に戻った場合、家族や友達にこの世界の事をどのように説明すればいいのか思い悩む。しかし、名案は思い付かず、そもそも地球に戻る方法があるのかも不明のままである。
「そういえば皇帝陛下は俺達を召喚するのに「召喚石」とかいう物を使ったとか言ってたけど……それを使えば元の世界に戻れるのかな?帝国に戻ったらリーリスに聞いてみるか……お、やっと来たか?」
海面に浮かんでいるとルノは波が荒れ始めた事に気付き、ルノが海を泳ぎ始めてから数十分後、遂に海面に海竜が姿を現した。
「出てきたか……しつこい奴だな」
『オオオッ……』
海上に海竜の頭部が出現し、海面に浮かんでいるルノに視線を向け、観察するように視線を向ける。今までならば姿を見た瞬間に襲い掛かったが、三度も痛い目に遭わされた効果が出てきたのか襲い掛かる様子はない。それを確認したルノは敢えて隙を見せるように両腕を広げる。
「ほら、食べないの?」
『………………』
人語を理解できるのかは不明だが、ルノが挑発している事を察したのか海竜は目元を鋭くさせるが、その視線に対してルノは正面から睨み返し、一言だけ告げた。
「人間を……舐めるなよ」
『……オオオオオオオッ!!』
ルノが呟いた瞬間、海竜は怒りの咆哮を放ちながら大口を開いた――
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