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外伝 〈一人旅〉
海獄島の起源
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――海獄島は元々は大きな島国であり、数百年前はもっと島の規模も大きく、大勢の人間が住んでいたという。周囲に海に囲まれている事から海産物が豊富であり、外敵から襲われる事もなかった。大陸の国家とも交易が盛んだったため、一時期は帝国に匹敵する国家として各国と友好関係を築いていた。
しかし、それほどの一大国家は一夜にして滅んでしまう。言葉の比喩ではなく、たった一晩で大陸の諸国にも劣らぬ国家は滅亡した。その原因が宇宙から落ちてきた「隕石」であり、隕石の落下によって島の8割近くが沈没し、大勢の人々が死亡する。
辛うじて生き残った人間達も壊滅した島に住む事は出来ず、大陸に移る。それでも諦めきれずに島に残って国を再興しようとした人間も居たが、隕石が落ちた影響なのか海中の魔物の一部が異常なまでに成長し、巨大生物と化して海の支配権を争いあった。
島の周辺に発生した巨大生物の中には「海竜」も含まれており、最終的に海竜が縄張り争いに勝利を果たす。その結果、島の周辺の海域は海竜の住処と化し、船を用いても島に訪れる事が出来なくなる。元々、隕石のせいで島の殆どが沈没したので島の価値は低く、誰もが島を見放す。
この後に過去に召喚された勇者から「飛行船」を開発する技術が大陸に広まり、空を移動して島に安全に移動する手段が確保された。ある時から囚人の隔離施設として利用されるようになり、送り込まれた囚人達は隕石の墜落前から存在した廃墟に住み、貧しい自給自足の生活を強いられているという。
「なるほど……そんな事があったのか。でも、どうしてわざわざこの島に囚人を送り込むの?わざわざこんな遠い場所に囚人を運び込むだけでも大変な労働なのに……」
「それは……」
「俺達が餌だからだよ」
「お、親分!?」
何時の間にか目を覚ましていたのか、雑炊が入った鍋を片手に持ったキジンが会話に割り込む。頭に大きなたん瘤がある事以外は特に怪我はなく、キジンが変わりにルノに事情を説明していた囚人の話を続ける。
「この島に囚人だけを送り込む本当の理由は海竜に餌を与えるためだよ」
「餌って……」
「この島に送り込まれる人間は全員が死刑囚だ。そして飛行船が島に着地せずに囚人を海に放り込む理由は海竜に餌をやるためだ」
「そんな馬鹿なっ!?」
キジンの言葉にルノは動揺を隠せず、そんな彼の反応を見てキジンは鼻で笑う。しかし、それはルノを馬鹿にしたわけではなく、どちらかというと自嘲に近い笑い方だった。
「普通の人間はそういう反応をするよな?だが、各国は海竜が大陸方面に訪れる事を恐れているんだ。だから奴に定期的に餌を与えて住処を離れさせないようにしているんだよ」
「どうしてそんな事を……そもそも人間を餌に与えるなんて信じられない」
「……魔物が人間を襲う理由を分かるか?あいつらは俺達と違って他の魔物を倒す事で力を手に入れているわけじゃねえ。他の生物を喰う事で力を身に付けているんだ。そして人間は最も効率の良い餌なんだよ」
――キジンの説明によると各国が死刑囚を海獄島に送り込む本当の理由は海竜の抑制であり、海竜が大陸方面まで住処を広げないように定期的に死刑囚を送り込み、海竜の餌として与えているという。魔物にとって人間とは栄養満点の餌でしかなく、一定の周期で数十人単位の人間を海竜に与えれば大人しくなり、海獄島周辺から離れる事はないという。
非人道的な方法ではあるが、実際に海獄島が設立されるまでは海竜は大陸方面の海域に進出し、甚大な被害を与えた。そのため、各国の協力の元で死刑判決が下された死刑囚のみを飛行船に詰め込み、海獄島に送り込む。表向きは死刑囚を監獄に送り込む行為として世間に知らしめているが、実際の所は海竜という存在を大陸に近づかせないようにしているだけに過ぎない。
「ここにいる奴等は俺を含めて死んでも誰も困らねえからな。だから国の奴等にとっては都合のいい存在なんだよ」
「じゃあ、これまでに海竜の餌になった人間はどれくらいいるの?」
「さあな……毎年、最低でも数百人が殺されている。最近では送り込まれる死刑囚の数は減ったがな」
「…………」
海獄島は何百年も前から存在する事を考えると海竜の被害者の総数は想像できず、下手をしたら数万人の人間が犠牲になっている可能性も高い。海獄島の真実を知ったルノは国家が下した判断に怒りを抱く一方、このまま自分が何もせずに戻るべきか悩む。
(海竜を殺せば少なくとも死刑囚が殺される事はなくなるのかな?でも、そんな事をしても今度は死刑囚がこの島を抜け出そうとするかもしれない)
この島に送り込まれるのは大罪を犯した人間だけであり、仮にルノが海竜を討伐したとしても今度は生き延びた死刑囚が島から脱出を計る可能性もある。もしも彼等が大陸に流れ着いたら再び犯罪に手を染める可能性もあり、安易に海竜を倒す訳にもいかない。
仮に海竜を倒し、死刑囚が島から抜け出せない方法があったとしても数多くの国家は死刑囚を海獄島に送り込むのを止めなければ現在のように死刑囚が島の資源を奪い合って殺しあう問題は残っている。今のところはルノが光球の魔法で大量の農作物を生成してどうにかなっているが、ルノが大陸に戻った後は再び囚人達の自給自足の生活が再開される。
(魔法の力じゃ解決できない問題もあるんだよな……)
ルノだけでは海獄島の問題を解決する事は出来ず、深いため息を吐く。
※感想覧でも質問はありましたが、どうしてルノが主人公なのに「外伝」というタイトルなのかを説明します。実はルノの物語は前章で完結させるつもりでした。ですが、ここまで来たらもう少し彼の話を続けたいと考えたので急遽「最高幹部」という新たな敵を設定して話を続けました。ドラゴンボ〇ルでいう所の「もうちっとだけ続くんじゃ(*´ω`)」という感じです。
しかし、それほどの一大国家は一夜にして滅んでしまう。言葉の比喩ではなく、たった一晩で大陸の諸国にも劣らぬ国家は滅亡した。その原因が宇宙から落ちてきた「隕石」であり、隕石の落下によって島の8割近くが沈没し、大勢の人々が死亡する。
辛うじて生き残った人間達も壊滅した島に住む事は出来ず、大陸に移る。それでも諦めきれずに島に残って国を再興しようとした人間も居たが、隕石が落ちた影響なのか海中の魔物の一部が異常なまでに成長し、巨大生物と化して海の支配権を争いあった。
島の周辺に発生した巨大生物の中には「海竜」も含まれており、最終的に海竜が縄張り争いに勝利を果たす。その結果、島の周辺の海域は海竜の住処と化し、船を用いても島に訪れる事が出来なくなる。元々、隕石のせいで島の殆どが沈没したので島の価値は低く、誰もが島を見放す。
この後に過去に召喚された勇者から「飛行船」を開発する技術が大陸に広まり、空を移動して島に安全に移動する手段が確保された。ある時から囚人の隔離施設として利用されるようになり、送り込まれた囚人達は隕石の墜落前から存在した廃墟に住み、貧しい自給自足の生活を強いられているという。
「なるほど……そんな事があったのか。でも、どうしてわざわざこの島に囚人を送り込むの?わざわざこんな遠い場所に囚人を運び込むだけでも大変な労働なのに……」
「それは……」
「俺達が餌だからだよ」
「お、親分!?」
何時の間にか目を覚ましていたのか、雑炊が入った鍋を片手に持ったキジンが会話に割り込む。頭に大きなたん瘤がある事以外は特に怪我はなく、キジンが変わりにルノに事情を説明していた囚人の話を続ける。
「この島に囚人だけを送り込む本当の理由は海竜に餌を与えるためだよ」
「餌って……」
「この島に送り込まれる人間は全員が死刑囚だ。そして飛行船が島に着地せずに囚人を海に放り込む理由は海竜に餌をやるためだ」
「そんな馬鹿なっ!?」
キジンの言葉にルノは動揺を隠せず、そんな彼の反応を見てキジンは鼻で笑う。しかし、それはルノを馬鹿にしたわけではなく、どちらかというと自嘲に近い笑い方だった。
「普通の人間はそういう反応をするよな?だが、各国は海竜が大陸方面に訪れる事を恐れているんだ。だから奴に定期的に餌を与えて住処を離れさせないようにしているんだよ」
「どうしてそんな事を……そもそも人間を餌に与えるなんて信じられない」
「……魔物が人間を襲う理由を分かるか?あいつらは俺達と違って他の魔物を倒す事で力を手に入れているわけじゃねえ。他の生物を喰う事で力を身に付けているんだ。そして人間は最も効率の良い餌なんだよ」
――キジンの説明によると各国が死刑囚を海獄島に送り込む本当の理由は海竜の抑制であり、海竜が大陸方面まで住処を広げないように定期的に死刑囚を送り込み、海竜の餌として与えているという。魔物にとって人間とは栄養満点の餌でしかなく、一定の周期で数十人単位の人間を海竜に与えれば大人しくなり、海獄島周辺から離れる事はないという。
非人道的な方法ではあるが、実際に海獄島が設立されるまでは海竜は大陸方面の海域に進出し、甚大な被害を与えた。そのため、各国の協力の元で死刑判決が下された死刑囚のみを飛行船に詰め込み、海獄島に送り込む。表向きは死刑囚を監獄に送り込む行為として世間に知らしめているが、実際の所は海竜という存在を大陸に近づかせないようにしているだけに過ぎない。
「ここにいる奴等は俺を含めて死んでも誰も困らねえからな。だから国の奴等にとっては都合のいい存在なんだよ」
「じゃあ、これまでに海竜の餌になった人間はどれくらいいるの?」
「さあな……毎年、最低でも数百人が殺されている。最近では送り込まれる死刑囚の数は減ったがな」
「…………」
海獄島は何百年も前から存在する事を考えると海竜の被害者の総数は想像できず、下手をしたら数万人の人間が犠牲になっている可能性も高い。海獄島の真実を知ったルノは国家が下した判断に怒りを抱く一方、このまま自分が何もせずに戻るべきか悩む。
(海竜を殺せば少なくとも死刑囚が殺される事はなくなるのかな?でも、そんな事をしても今度は死刑囚がこの島を抜け出そうとするかもしれない)
この島に送り込まれるのは大罪を犯した人間だけであり、仮にルノが海竜を討伐したとしても今度は生き延びた死刑囚が島から脱出を計る可能性もある。もしも彼等が大陸に流れ着いたら再び犯罪に手を染める可能性もあり、安易に海竜を倒す訳にもいかない。
仮に海竜を倒し、死刑囚が島から抜け出せない方法があったとしても数多くの国家は死刑囚を海獄島に送り込むのを止めなければ現在のように死刑囚が島の資源を奪い合って殺しあう問題は残っている。今のところはルノが光球の魔法で大量の農作物を生成してどうにかなっているが、ルノが大陸に戻った後は再び囚人達の自給自足の生活が再開される。
(魔法の力じゃ解決できない問題もあるんだよな……)
ルノだけでは海獄島の問題を解決する事は出来ず、深いため息を吐く。
※感想覧でも質問はありましたが、どうしてルノが主人公なのに「外伝」というタイトルなのかを説明します。実はルノの物語は前章で完結させるつもりでした。ですが、ここまで来たらもう少し彼の話を続けたいと考えたので急遽「最高幹部」という新たな敵を設定して話を続けました。ドラゴンボ〇ルでいう所の「もうちっとだけ続くんじゃ(*´ω`)」という感じです。
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