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外伝 〈一人旅〉

囚人の言い分

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「見えてきましたよ兄貴!!あそこが街の入口です!!」
「誰が兄貴だよ」
「まあまあ……さあ、行きましょう」


街の入口の城門に3人は辿り着き、門の見張り役と思われる男達が立ちふさがる。ニオが所有していた棍棒と同じ物を装備しており、戻ってきた二人と見知らぬルノの姿を見て警戒心を露わにして近づく。


「お前等!!見張りはどうした!?」
「おい!!誰だそいつは!?」
「す、すいません兄貴!!ですが、俺達の話を聞いて下さい!!」


ニオが慌てて棍棒を構える男達に頭を下げ、ロナクも即座に頭を地面に押し付ける。どうやら二人よりも身分が上らしく、男達は怒りの表情を抱いたまま武器を構える。


「まさか砂浜に流れ着いた奴を連れてきたのか!!キジンの親分が何者であろうと殺せと言っただろうが!!」
「で、ですが兄貴!!この人の服を見てください!!どうやら囚人ではなくて漂流者のようでして……」
「漂流者だと?」
「総いえば確かに服が違うな……」


ルノが身に付けているのは普段遠出する際に身に付ける退魔のローブに対し、この島の囚人達は灰色の囚人服を着こんでいる。男女共にデザインは全く同じであり、半袖と長ズボンで統一されていた。


「本当に漂流者なのか?いや、だとしてもそいつを生かして連れてくる必要はない!!今すぐ殺せ!!」
「ま、待ってください!!この方は魔術師なんですよ!!」
「な、何!?」
「魔術師だと……!?」


ロナクの言葉に見張り役の男達に動揺が走り、通常の囚人ならば能力を封じる魔封じの首輪が施されて魔法は使えない。しかし、漂流者であるルノの場合は首輪を装着しておらず、魔法を使用する事が出来る。相手が魔術師だと知ると見張り役の男達は慌てて距離を取り、口調を改めてルノに話しかける。


「お、お前は……いや、貴方は本当に魔術師なんですか?」
「そうですけど……」
「信じられない……まさかこの島に魔法が使える魔術師が訪れるなんて」
「出鱈目を言うな!!普通の人間がこの島に訪れるはずがない!!てめえら騙されるな……うおっ!?」
「これで信じて貰えます?」


見張りの一人が武器を構えたままルノに近づこうとした瞬間、ルノは氷塊の魔法を利用して氷の長剣を作り出し、突き付けられた棍棒を切り裂く。武道の達人のように棍棒は真っ二つに切り裂かれ、その光景を確認した男達は悲鳴をあげた。


「ひいいっ!?ほ、本当に魔法を使いやがった!!」
「馬鹿野郎!!さっさと謝れ!!」
「す、すいません!!うちの馬鹿が失礼な真似を……」
「もうそういうのはいいから、中に入れてくれない?」


慌てふためきながら謝罪を行う見張り役の男達にルノは溜息を吐き出し、街の中に入れるように催促する。しかし、男達は困ったように城門を振り返り、一番の年長者である中年男性が恐る恐るルノに話しかける。


「あ、あの……うちの親分に話を通すのでもう少し待ってくれませんか?すぐに親分を連れてきますから!!」
「親分……キジンという人?」
「そ、そうです!!おい、誰か親分を呼んで来い!!」
「は、はい!!」


ルノの返事も待たずに男の一人が走り出し、街に存在する親分を呼び出しに向かう。ルノは溜息を吐きながら親分とやらがこちらに赴くまで待機する事にしたが、不意に畑を耕している囚人達が自分の様子を見ている事に気付く。


「……あの人達もあんた達の子分?」
「いえ、あいつらは只の奴隷ですよ。飯を与える代わりに働かせているだけです」
「労働に見合った食事をさせているとは思えないけど……」
「……仕方ないんですよ。もうすぐ冬を迎えます。その前に出来る限り食料を保管しないと……」


先程のニオとロナクが説明した通り、この島は間もなく冬を迎えるため、出来る限りの農作物を回収しないといけない事を見張り役の男は説明する。ちなみにこの世界の植物の成長速度は地球とは比べ物にならず、大抵の農作物は一か月も経過しない内に完全に育つ為、年に何回も農作物を回収出来る。但し、冬の時期の場合は農作物も育たないため、温かい時期に出来る限りの農作物を作り出して長期保存を行うしかない。


「この島には何千人の囚人がいますが、全員分の食糧が手に入るわけじゃねえ……獣も魚も取れないんじゃ俺達が生きていくには畑を耕すしかない。だからこいつらも自分達が生きるために働いているんですよ」
「じゃあ、あんた達は一体何をしているの?」
「俺達はこの島を守る為に働いてるんだ!!この島はもう余裕がねえ……新しい人間なんて受け入れるわけにはいかねえ。どんな手を使ってでもこの島に近づこうとする人間を追い払う必要があるんだ!!」
「だから殺す、か……」
「悪いが俺達は間違った事をしているとは思っちゃいない。今更人殺しなんて躊躇しねえ……俺達も生き残るのに必死なんだよ」


農作業を行う囚人達は決して彼等に強制されているわけでもなく、自分達が生き残るために働いている事を見張り役の男達は説明する。実際に彼等の話を聞こえている人間もいるのだろうが、誰一人として文句を告げず、黙々と作業を繰り返していた。
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