最弱職の初級魔術師 初級魔法を極めたらいつの間にか「千の魔術師」と呼ばれていました。

カタナヅキ

文字の大きさ
上 下
191 / 657
帝都防衛編

魔王の能力

しおりを挟む
「……螺旋氷弾」
『またそれか。それは見飽きたぞ』
「うるさい」


ルノは氷塊の魔法を発動させ、氷塊の砲弾を生み出す。それを見た魔王は落胆したような声を上げるが、ルノはある事を試すため、空中に滞空させた螺旋氷弾を放つ。


「喰らえっ!!」
『くだらん』


魔王は撃ち込まれた氷塊に対して片腕を突き出し、正面から受け止める。高速回転する物体を受け止める握力と膂力は凄まじいが、他の魔法と違い、吸収する様子は見えない。それを確認したルノは魔王の能力の秘密を見抜く。


(まさか……物体は取り込めないのか?)


白雷、黒炎槍、風圧の魔法はどれもが実体を持たない攻撃魔法であり、魔王の肉体に触れた瞬間に吸収された。しかし、氷の塊を生み出して物理攻撃を行う氷塊の魔法だけは魔法を吸収する様子は見られず、ルノは戦法を変えて接近する。


「氷鎧!!」
『……なんのつもりだ?』


鬼武者を模倣して作り出した氷の鎧を身に付け、ルノは魔王に接近する。この状態ならば攻撃も防御も同時に行え、魔王が魔法を出したとしても直撃は避けられる。仮に黒炎を出して来たら強化スキルを発動させて氷鎧を強化させる準備を整え、ルノは魔王に殴りつけた。


『どりゃっ!!』
『ちっ』


迫りくる拳に対して魔王は鬱陶しそうに両腕を交差して防ぐが、それを確認したルノは魔王が魔法を吸収出来ないと確信し、全身の力を込めて殴りつける。


『ぶっ飛べ!!』
『ぬうっ!?』


魔王の肩に拳が衝突し、水晶のような肉体に亀裂が走る。予想よりも頑丈ではあるが、レベル99を超えたルノの身体能力ならば損傷を与えられるようだった。


『おらぁっ!!』
『むうっ……』


今度は両手で魔王の首筋に手刀を叩きつけると、魔王も煩わしそうに氷鎧を両手で押しのける。単純な膂力は魔王もルノに引けは取らず、巨体であるために動作が鈍い氷鎧の弱点を突いて攻撃を仕掛ける。


『いい加減に出てこい』
『うわっ!?』


関節技も心得ているのか魔王はルノの右腕を掴み、そのまま「脇固め」のように抑えつける。しかし、咄嗟にルノは氷鎧を浮上させ、魔王の肉体ごと空中に移動して体勢を反転させ、逆に地面に叩きつけた。


『このっ!!』
『うおっ!?』


ルノの氷鎧の下敷きになる形で魔王の肉体が地面に衝突し、地面に埋もれる。それを確認したルノは無我夢中に殴りつけて水晶の肉体の破壊を試みる。


『うおおおおおっ!!』
『ぐうっ……!?』


子供の喧嘩のように馬乗りになった氷鎧が何度も拳を叩きつけ、魔王は両腕を交差して防ぐが、徐々に全身に罅割れが生じ始める。しかし、殴る途中でルノは違和感を抱き、何故か魔王が魔法を使用しない事に疑問を抱く。


『離れろっ!!』
『うわっ!?』


振り下ろされた右腕を掴み、腕を掴んだ状態から回転して魔王はルノを横転させると、今度は反対に自分が馬乗りになって手刀を繰り出す。


『今度はこちらの番だ』
『うわっ!?』


氷鎧の頭部の部分に魔王の手刀が衝突し、氷塊に亀裂が走る。慌ててルノは氷鎧を浮上させ、自分に乗り込んでいた魔王の両足を掴み、再び地面に叩きつけた。


『このっ!!』
『ちぃっ!!』


しかし、流石に学習したのか魔王は地面に叩きつけられる前に両腕を頭部の後ろに回し、最低限の受身を行う。だが、それを確認したルノは魔王の肉体を掴んだまま振り回す。


『行くぞぉおおおっ!!』
『おおおっ……!?』


プロレス技の「ジャイアントスイング」のように魔王の肉体を振り回し、十分に加速した時点でルノは魔王を投擲する。狙いは砦の周囲に取り囲んでいる防壁であり、魔王の肉体が衝突した瞬間に激しい振動と土煙が発生する。


『ぐうっ……この程度の攻撃など……』
『いや、これで終わりだ』
『なんだと?』


壁に身体が減り込んだ魔王は即座に抜け出そうとしたが、ルノは氷鎧を解除して飛翔術を利用し、防壁に両手を触れる。この砦の防壁は元々は硬い岩石をルノが土塊の魔法を利用して作り出した物であり、土塊の魔法を発動させてルノは防壁の形状を変化させた。


「固まれ!!」
『これは……!?』


壁が粘土のように変形して魔王の身体を内部へと取り込み、魔王の肉体を壁の中へ移動させる。遂には魔王の肉体は完全に閉じ込める事に成功した。


「……さあ、どう動く?」


壁から十分な距離に離れたルノは魔王の様子を伺い、壁に閉じ込めた程度で倒せる相手ではない事は理解している。しかし、重要なのはどうやって魔王が抜け出すかであり、ルノは両手を構える。


『……くだらんっ!!』


防壁に亀裂が発生し、魔王の右腕が出現する。内側から力尽くで壁を破壊して外へ脱出し、流石に苛立ちを隠せずに魔王はルノに怒鳴りつけた。


『いい加減にしろ!!真面に戦えないのか!!』
「……頭上に注意した方が良いよ」
『何だと?』
「落石注意!!」


壁から抜け出してきた魔王に対し、ルノは右手を構えると螺旋氷弾を打ち込む。接近してきた氷塊の砲弾に対して魔王は咄嗟に両手を構えるが、ルノの狙いは魔王ではなく、彼の背後に存在する防壁に向けて撃ち込み、砲弾で壁の一部を破壊して瓦礫を魔王の頭上に衝突させた。
しおりを挟む
感想 1,841

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

【書籍化進行中、完結】私だけが知らない

綾雅(ヤンデレ攻略対象、電子書籍化)
ファンタジー
書籍化進行中です。詳細はしばらくお待ちください(o´-ω-)o)ペコッ 目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。 優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。 やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。 記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2024/12/26……書籍化確定、公表 2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位 2023/12/19……番外編完結 2023/12/11……本編完結(番外編、12/12) 2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位 2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」 2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位 2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位 2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位 2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位 2023/08/14……連載開始

【一話完結】断罪が予定されている卒業パーティーに欠席したら、みんな死んでしまいました

ツカノ
ファンタジー
とある国の王太子が、卒業パーティーの日に最愛のスワロー・アーチェリー男爵令嬢を虐げた婚約者のロビン・クック公爵令嬢を断罪し婚約破棄をしようとしたが、何故か公爵令嬢は現れない。これでは断罪どころか婚約破棄ができないと王太子が焦り始めた時、招かれざる客が現れる。そして、招かれざる客の登場により、彼らの運命は転がる石のように急転直下し、恐怖が始まったのだった。さて彼らの運命は、如何。

〈完結〉遅効性の毒

ごろごろみかん。
ファンタジー
「結婚されても、私は傍にいます。彼が、望むなら」 悲恋に酔う彼女に私は笑った。 そんなに私の立場が欲しいなら譲ってあげる。

【完結】『飯炊き女』と呼ばれている騎士団の寮母ですが、実は最高位の聖女です

葉桜鹿乃
恋愛
ルーシーが『飯炊き女』と、呼ばれてそろそろ3年が経とうとしている。 王宮内に兵舎がある王立騎士団【鷹の爪】の寮母を担っているルーシー。 孤児院の出で、働き口を探してここに配置された事になっているが、実はこの国の最も高貴な存在とされる『金剛の聖女』である。 王宮という国で一番安全な場所で、更には周囲に常に複数人の騎士が控えている場所に、本人と王族、宰相が話し合って所属することになったものの、存在を秘する為に扱いは『飯炊き女』である。 働くのは苦では無いし、顔を隠すための不細工な丸眼鏡にソバカスと眉を太くする化粧、粗末な服。これを襲いに来るような輩は男所帯の騎士団にも居ないし、聖女の力で存在感を常に薄めるようにしている。 何故このような擬態をしているかというと、隣国から聖女を狙って何者かが間者として侵入していると言われているためだ。 隣国は既に瘴気で汚れた土地が多くなり、作物もまともに育たないと聞いて、ルーシーはしばらく隣国に行ってもいいと思っているのだが、長く冷戦状態にある隣国に行かせるのは命が危ないのでは、と躊躇いを見せる国王たちをルーシーは説得する教養もなく……。 そんな折、ある日の月夜に、明日の雨を予見して変装をせずに水汲みをしている時に「見つけた」と言われて振り向いたそこにいたのは、騎士団の中でもルーシーに優しい一人の騎士だった。 ※感想の取り扱いは近況ボードを参照してください。 ※小説家になろう様でも掲載予定です。

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。