上 下
186 / 657
帝都防衛編

職業切り替え

しおりを挟む
「さてと……そこの君達も逃げないでね」
「ひっ!?」
「き、気付かれたよお姉ちゃん……」


戦闘の最中に忍び足で離れようとしていた双子に対してルノは注意すると、彼は倒れているカイに近づく。両腕を確認すると、腕の部分に「黒蛇」を想像させる紋様が刻まれており、禍々しい魔力を滲みだしていた。


「黒影とか言っていたけど……ヒカゲさんと何か関係があるのかな?後で聞いてみよう」


腕の部分以外は触れても問題はないらしく、ルノはカイの身体を持ち上げようとするが、予想よりも重くて彼の身体を落としてしまう。レベル1に低下した事で身体能力も低下しており、このままでは運び込む事が出来ない。


「参ったな……これだと変える事も出来ないよ」


魔法の効果も低下している事は間違いなく、氷塊の魔法の類で乗り物を作り出して移動するにも時間が掛かるだろう。そう考えたルノはステータス画面を開き、どうにか出来ないのか探していると、新しい項目が追加されている事に気付く


―――――――――――――

職業:治癒魔術師

予備職:初級魔術師

状態:普通

SP:100

レベル:1 (99)

―――――――――――――


「何だ……予備職?あ、もしかしてリーリスが言っていた二重職になったのかな?でも、なんだろうレベルの隣に存在する「(99)」のって……」


ステータス画面に追加されていた「予備職」とレベルの項目に「(99)」が追加されており、考えられるとしたら予備職は名前の通りに覚えている他の職業を示し、レベルに関しては予備職のレベルを現しているのかも知れない。


「でも、何でSPが100なんだろう?SPだけは引き継がれたとしても100にはならないはずなのに……ボーナスでも入ったのかな?」


SPに関してはいくつかスキルを覚えていた時に消費したにも関わらず、何故か数値は100に変化していた。考えられるとしたらレベルを限界値まで上昇させたことで大幅にSPを獲得した可能性が高く、ルノは画面の職業の項目に視線を向ける。


「どうにかこれを初級魔術師に戻せないかな……押せば変わるとか?」
「……あの人、何をやってるんだろう」
「さあ……どっちにしろ、緊張感がなくなったわね」


ルノの行動に双子は訝し気な表情を浮かべ、今の彼からは先程までの威圧感を感じられず、双子は戸惑う。一方でルノは予備職である初級魔術師の職業に戻れないのかを試すが、職業の項目に指を触れると文章が表示された。


『別の職業に変更しますか?』
「お、やった。戻れるのかな?」
『SPを5消費しますが、よろしいですか?』
「ええっ……ただじゃないのか。まあ、別にいいか」


職業を切り替えるだけでもSPを消費するらしく、少々勿体ない気はしたがルノはSPを消費して元の職業へと切り替えた。特に肉体に変化はないが、試しにルノはカイの身体を持ち上げると、今度は片腕だけで身体を担ぎ上げる事に成功する。


「やった。元に戻った!!じゃあ、君たちも一緒に来てもらうよ」
「ううっ……分かったわよ」
「は、はい……」


カイを担ぎ上げながらルノは双子に近づくと、どちらも観念したように抵抗を放棄し、彼の元に近づこうとした時、唐突に周囲から突風が発生した。


「きゃあっ!?」
「わあっ!?」
「何だっ!?」


ルノ達を中心に渦を描くように強風が発生し、3人は身体を吹き飛ばされないように地面に伏せる。何が起きているのかは不明だが、更に周囲から霧が誕生する。霧がルノ達の周囲を取り囲み、視界を奪う。1メートル先も見えない程の濃霧にルノは戸惑いながらも掌を伸ばす。


「いやぁっ!!」
「や、止めて!!」
「えっ?」


だが、彼が魔法を使う前に双子の悲鳴が響き渡り、慌てて二人が存在した位置に顔を向けるが、霧で覆われているため何も見えない。


「もう用無しなんですよ……貴方達は」
「誰だ!!」


霧の中から男性の声が聞こえ、ルノは咄嗟に掌を振り払い、風圧の魔法で周囲の霧を吹き飛ばす。そして地面に倒れている双子に気付き、目を見開く。


「ううっ……おねえ、ちゃん……」
「あ、がぁっ……!!」
「そんなっ!!」


倒れているエルミナの頭部に短剣が突き刺さり、アリシアは胸元に短剣が突き刺さっていた。慌ててルノはカイを放り捨てて二人の元に駆け付け、治療を施そうとするが既にどちらも致命傷だった。


「痛い……痛いよぉっ……!!」
「何でこんな……くそっ!!」
『回復魔法は現在の状態では使用できません』


ルノは先ほど自分の肉体を治療した時のように回復魔法を施そうとしたが、現在の職業では使用できないという文章が表示され、拳を地面に殴りつける。だが、今から職業を変更して治療する時間もなく、ルノに抱えられたアリシアは先に逝った姉の身体に手を伸ばして呟く。


「おねえ、ちゃ……」
「そんなっ……」


自分の胸元で最後まで姉の安否を気遣いながら息絶えたアリシアに対し、ルノは歯を食いしばりながら彼女の身体をエルミナの傍に横たわらせた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?

闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。 しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。 幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。 お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。 しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。 『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』 さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。 〈念の為〉 稚拙→ちせつ 愚父→ぐふ ⚠︎注意⚠︎ 不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。

冤罪を掛けられて大切な家族から見捨てられた

ああああ
恋愛
優は大切にしていた妹の友達に冤罪を掛けられてしまう。 そして冤罪が判明して戻ってきたが

「お姉様の赤ちゃん、私にちょうだい?」

サイコちゃん
恋愛
実家に妊娠を知らせた途端、妹からお腹の子をくれと言われた。姉であるイヴェットは自分の持ち物や恋人をいつも妹に奪われてきた。しかし赤ん坊をくれというのはあまりに酷過ぎる。そのことを夫に相談すると、彼は「良かったね! 家族ぐるみで育ててもらえるんだね!」と言い放った。妹と両親が異常であることを伝えても、夫は理解を示してくれない。やがて夫婦は離婚してイヴェットはひとり苦境へ立ち向かうことになったが、“医術と魔術の天才”である治療人アランが彼女に味方して――

【完】あの、……どなたでしょうか?

桐生桜月姫
恋愛
「キャサリン・ルーラー  爵位を傘に取る卑しい女め、今この時を以て貴様との婚約を破棄する。」 見た目だけは、麗しの王太子殿下から出た言葉に、婚約破棄を突きつけられた美しい女性は……… 「あの、……どなたのことでしょうか?」 まさかの意味不明発言!! 今ここに幕開ける、波瀾万丈の間違い婚約破棄ラブコメ!! 結末やいかに!! ******************* 執筆終了済みです。

父が死んだのでようやく邪魔な女とその息子を処分できる

兎屋亀吉
恋愛
伯爵家の当主だった父が亡くなりました。これでようやく、父の愛妾として我が物顔で屋敷内をうろつくばい菌のような女とその息子を処分することができます。父が死ねば息子が当主になれるとでも思ったのかもしれませんが、父がいなくなった今となっては思う通りになることなど何一つありませんよ。今まで父の威を借りてさんざんいびってくれた仕返しといきましょうか。根に持つタイプの陰険女主人公。

初夜に「俺がお前を抱く事は無い!」と叫んだら長年の婚約者だった新妻に「気持ち悪い」と言われた上に父にも予想外の事を言われた男とその浮気女の話

ラララキヲ
恋愛
 長年の婚約者を欺いて平民女と浮気していた侯爵家長男。3年後の白い結婚での離婚を浮気女に約束して、新妻の寝室へと向かう。  初夜に「俺がお前を抱く事は無い!」と愛する夫から宣言された無様な女を嘲笑う為だけに。  しかし寝室に居た妻は……  希望通りの白い結婚と愛人との未来輝く生活の筈が……全てを周りに知られていた上に自分の父親である侯爵家当主から言われた言葉は──  一人の女性を蹴落として掴んだ彼らの未来は……── <【ざまぁ編】【イリーナ編】【コザック第二の人生編(ザマァ有)】となりました> ◇テンプレ浮気クソ男女。 ◇軽い触れ合い表現があるのでR15に ◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。 ◇ご都合展開。矛盾は察して下さい… ◇なろうにも上げてます。 ※HOTランキング入り(1位)!?[恋愛::3位]ありがとうございます!恐縮です!期待に添えればよいのですがッ!!(;><)

美しい姉と痩せこけた妹

サイコちゃん
ファンタジー
若き公爵は虐待を受けた姉妹を引き取ることにした。やがて訪れたのは美しい姉と痩せこけた妹だった。姉が夢中でケーキを食べる中、妹はそれがケーキだと分からない。姉がドレスのプレゼントに喜ぶ中、妹はそれがドレスだと分からない。公爵はあまりに差のある姉妹に疑念を抱いた――

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。