最弱職の初級魔術師 初級魔法を極めたらいつの間にか「千の魔術師」と呼ばれていました。

カタナヅキ

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帝都防衛編

カイ

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「それよりもお姉ちゃん……本当に来るのかな?」
「大丈夫よ!!あの手紙を置いてくればいいってクズノの奴が言ってたじゃない?」
「そうだけど……私、あの人は嫌い」
「私もよ。でも、しょうがないじゃない。命令なんだから……」


二人がルノの屋敷に入り込み、残してきた手紙は彼女達が用意した者ではなく、魔王軍の組織の中で2人しか存在しない最高幹部の1人の「クズノ」という男から命令を受けていた。彼は双子を帝都に送り込む際、ルノの屋敷に忍び込んで彼の飼育している魔獣を拘束し、この場所にまで誘導するように命じていた。


「でも、本当に私達だけになっちゃったね……いっぱい居た幹部の人も居なくなっちゃったし……」
「そうね……あのデブ大臣にリディアの婆も死んじゃったし、ラティも捕まったままだし、残ったのは私とあんたとガイアだけね。あれ?そういえばあと一人だけ誰か変な奴もいなかった?」
「あ、忘れてた……そういえば変な服を着たお兄さんも居たね」


エルミナの言葉にアリシアは黒装束で身を包んだ少年の事を思い出し、幹部の一人ではあるが他の人間と比べると影が薄かったので忘れていた。最も少年の方とはどちらも1、2回しか顔を合わせた事はなく、彼が捕まったという情報は聞いていない。


「あのお兄さんは無事なのかな?えっと……カイと言ってたよね」
「もう捕まっているんじゃない?どっちにしろ、これでガイアが戻ってこなかったら私達だけが幹部なのね!!」
「勝手に人を殺すな」
「あうっ!?」
「きゃんっ!?」


双子の頭部に衝撃が走り、驚いてどちらも振り返ると、そこには呆れた表情を浮かべたカイの姿が存在した。今回は普段の黒装束ではなく、この世界の冒険者らしい服装に着替えており、その腰には日の国の刀を差していた。唐突に現れた彼に双子は驚く中、カイは周囲を見渡して拘束された魔獣達の様子を伺う。


「どうやら無事に捕まえてきたようだな。一応は褒めてやる」
「ちょ、ちょっと!!あんた、何時からここに居たのよ!?」
「ついさっきだ。クズノから命令が届いた……お前達の役目は分かっているな?」
「は、はい……ここに来た人を火山の噴火口に転移させればいいんですね?」
「そうだ。油断するなよ」


カイの言葉に慌ててアリシアが事前に伺っていた作戦を確認すると彼は頷くが、ロプス達に視線を向けて眉を顰める。


「だが、どうしてこいつ等が良きている。それにこれは魔王様の神器じゃないのか?何故これがここに……」
「そんなの決まってるでしょ?この子達を捕まえるために持ってきたのよ」
「クズノさんも必要になるかもしれないからって……」
「ちっ……まあいい、解放されると厄介だ。ここで殺してしまおう」
「キュロロッ!?」
「ブモォッ……!!」
「ガアアッ!!」


刀に手を伸ばしてカイは白銀の鎖で拘束されているロプス達の元へ向かい、始末するために刃を引き抜く。しかし、それを見たエルミナが慌てて彼を後ろから引き留めた。


「や、止めなさいよ!!この子達は何も悪くないじゃない!?」
「そ、そうだよ!!殺すのは可哀そうだよ……」
「何を今更……退け!!」
「止めてっ!!」


双子を振り払い、カイは魔獣の中でも厄介なロプスから仕留めるために刀を握りしめると、エルミナが咄嗟に庇うために杖を向けて転移魔法を発動させる。


「このっ……止めなさい!!」
「ちっ……何の真似だ!?」


刀を握りしめたカイの目の前に魔法陣が出現し、視界を塞ぐ。それを見たカイは苛立ちながらエルミナを睨みつけると、彼女は一瞬だけ後退ったが、即座に言い返す。


「この子達は後で野生に帰すのよ!!それに英雄をここに呼び出すにはこの子達が必要なんでしょ!?」
「ああ、そうだ。奴をここに連れ出すにはこいつ等は必要だ。だからこそ辿り着いた奴がこいつらの死体を見たらどうなる?間違いなく動揺し、大きな隙を見せるはずだ!!その隙に止めを刺す……理解したのなら魔法を解除しろ!!」
「嫌よ!!そんな可哀そうな事、出来るわけないでしょ!!」
「貴様等……!!」
「ま、待って!!」


エルミナとカイが睨み合い、我慢できずに二人がお互いの武器を構えようとした時、怯えた表情を浮かべたアリシアが上空を指差す。


「な、何かが……何かがここに落ちてくる!!」
「何っ!?」
「アリシア、あんたまさか……」


未来視の能力で危険を察知したのか、アリシアは顔面蒼白になりながら頭上を指さす。それを見たカイとエルミアは上空に視線を向けると、そこには風の魔力を纏わせながら地面に向けて隕石のように落下する人間の姿が存在した。



「いかんっ!?」
「ちょ、何……わああっ!?」
「きゃあああっ!?」



地上に激しい衝撃が走り、地面にクレ―ターが誕生する。そして帝都から音速を超えた速度で移動してきたルノが姿を現し、静かな怒りを宿しながら3人を睨みつける。
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