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帝都防衛編

最年少幹部

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――白原に存在する砦には既に竜種の観光目的で訪れた人間は退去しており、兵士達の姿も存在しなかった。理由はこの場所に訪れたエルミナとアリシアによって砦に存在した全員が転移の魔法で別の地域に飛ばされたからであり、彼女達の前には白銀に光り輝く鎖で拘束されたロプス達の姿が存在した。


「ブモォオオオッ!!」
「キュロロロッ!!」
「グルルルッ……!!」
「う、うるさいわね!!暴れたってその鎖は外さないわよ!!」
「お、お姉ちゃん……本当にこんな事をして大丈夫なの?」


エルミナと鎖で拘束した魔獣達を怒鳴りつけるが、アリシアは怯えた表情で彼女の背中に隠れる。鋼鉄程度の鎖ならばロプスやミノならば容易く破壊できるが、魔獣達を拘束しているのは「チェーン」と呼ばれる神器であり、初代勇者が残した聖遺物である。

白銀の鎖に拘束されたロプス達は動くこともままならず、地面に横たわった状態で双子に抗議するように鳴き声を上げる。彼等は屋敷に居た時に双子が侵入し、全員を拘束して転移魔法でここまで移動させられた。


「クゥ~ンッ……」
「ウォンッ……」
「うっ……そ、そんな目で見ても解放してあげないわよ!!ほら、餌も用意してあげたんだから大人しくしてなさいよ……」
「でも……本当に魔王様が言っていた人が来るのかな?」
「絶対に来るわよ!!」


魔獣の中では小柄なイチ達が悲しみの表情を浮かべながら双子を見つめると、エルミナも罪悪感を抱いて用意していた餌を差し出す。しかし、アリシアはそんな姉の行動を見守りながら不安そうに呟く。


「だけど、相手は帝国の英雄さんだよ?私達だけで勝てるのか……」
「問題ないわよ!!私達にはこの神器があるのよ?どんな魔法使いだろうと私達には勝てないわ!!」


アリシアの言葉にエルミナは自分達の握りしめている杖を握りしめる。二人が持っている杖も神器の一つであり、元々は一つの杖を改造して二つに分けた「転移杖」と呼ばれる特殊な魔法の杖だった。



――二人が転移魔法を扱えるのはこの杖のお陰であり、そもそも単純な魔術師としての力量では二人は転移魔法どころか砲撃魔法さえ扱えない。しかし、二人は幼いながらに同世代の人間達とは比べ物にならない膨大な魔力を所有しており、神器を扱いこなせるほどの技量は身に付けていた。



魔王軍の中でも最年少ではあるが、彼女達は幹部と同等の権限を与えられており、幼ないながらにその実力は認められている。特に妹のアリシアは未来視の能力者という事で重宝されており、姉も含めて今回の作戦の要を任せられている。


「それにしても魔王様は心配性ね。どうしてたった一人の魔術師のためにこんな大掛かりな仕掛けまで用意したのかしら?」
「駄目だよお姉ちゃん。魔王様の事をそんな風に言ったら……」
「分かってるわよ。でも、本当に魔王様って何を考えているのか分からないわよね……エルミナは話したことがあるんでしょ?」
「う、うん……話したことはあるよ」
「歯切れが悪いわね……どんな人よ?」
「……魔王様の事はお姉ちゃんにも話しちゃいけないって」


アリシアの言葉にエルミナは疑問を抱き、妹に魔王と呼ばれる人物の特徴を問う。実際に魔王と会った事があるのはアリシアだけであり、エルミナは顔を合わせた事もない。しかし、質問してもアリシアは応えようとはせず、魔王の性別や特徴さえも教えてくれない。


「何よケチ!!そんな事を言うならもう口をきいてやらないわよ!?」
「そ、そんな……」
「ね、誰にも言わないから教えなさいよ。いい加減に私も気になってしょうがないのよ……私達、姉妹でしょう?隠し事なんて駄目よ」
「ううっ……」


姉の言葉にアリシアは困った表情を浮かべるが、エルミナとしても別に興味本位だけで聞いているわけではなく、幹部の中で魔王の存在を知らないのは彼女だけである。


「ねえ、教えなさいよ!!リディアの婆やデキンの糞爺も知ってたのに私だけが知らないなんて不公平でしょ?」
「こ、困るよ~」
「ほらほら、教えなさいって……せめて男か女だけでも!!」
「う~んっ……」


必死に尋ねてくる姉に対してアリシアは困惑した表情を浮かべ、彼女としては答えたいのだが、最高幹部からの言葉を思い出す。



『――魔王様の存在は秘密。誰かに漏らしたら貴女の命はない。例え、仲間内でも話せば許されない』



冷たい瞳を向けてくる少女の姿を思い出し、アリシアは顔面蒼白となる。あの時の彼女の顔を思い出すだけでアリシアは夜も眠れず、姉に対して強く否定する。


「駄目!!絶対に言えない!!」
「え、ええっ……わ、分かったよ」


不安は大人しい妹が声を荒げた事にエルミナは驚き、不満そうな表情を浮かべながらも引き下がる。
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