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冒険者編

帰国に向けて

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「黒兵衛がアダマンタイトの銅像を売り払った相手、話を聞く限りだと森人族の少女だったらしい」
「森人族?それってもしかして……」
「そう、少し前に私達が捕まえた森人族の女の子……多分、年は私達よりも上だと思うけど、この子の似顔絵を見せたら黒兵衛からアダマンタイトの銅像を買い取った商売相手で間違いないと言ってた。黒兵衛の話だと名前はラディだと名乗ってたみたい」
「じゃあ、魔王軍も関与していたんですか?」


クロガネから奪い取ったアダマンタイトを黒兵衛から買い取ったのが先日にルノ達に襲撃を仕掛けた森人族だと判明し、黒兵衛の話によると名前は「ラディ」と名乗っていたという。


「じゃあ、今回の事件も魔王軍が仕組んだんですか?」
「そこまでは分からない。だけど、殺されたクロガネは魔王軍の幹部と関わりがあったのは間違いない。それに結果的に魔王軍の元に貴重なアダマンタイトが渡ったことになる」
「結局、一番得をしたのは魔王軍になるわけですか……」


今回の事件の犠牲者であるクロガネがこれまでに魔王軍が使用した魔道具の器の制作者なのは間違いなく、日の国のアダマンタイトが大量に彼らの手に渡ったことは間違いない。クロガネが生きていれば魔王軍の手掛かりを掴めたかもしれないが、既に殺されている以上はどうしようもない。


「これから日の国は大変なことになる。殺されたクロガネは殿様が気に入っていた刀匠、きっと日の国も本格的に魔王軍の調査に乗り込む」
「むしろやっと動き出すんですか」
「正直に言えば魔王軍の活動範囲は帝国領内だけだった。だから日影も大々的には調査できなかった」
「まあ、確かに他国のテロ組織を大々的に調査できるはずがありませんね」


今後は日の国も魔王軍の調査に力を注ぐらしく、ヒカゲは今しばらくは日の国に留まり、まずは国内から調査を行うという。魔王軍がクロガネと接触していた事は間違いなく、彼等の活動の痕跡が残っていれば帝国にも情報提供する事を約束する。


「それじゃあ、私達も帝国に戻りましょうか。何だかんだで一か月ぐらいは旅をしてましたし」
「え、戻るの?」
「観光はもう十分に楽しみましたし、これ以上に日の国に留まる理由はありませんからね。お土産をいっぱい買って帝都に戻りましょうか」
「待って、日の国の上層部が事件解決に導いた二人を歓迎したいと言ってる」
「お断りします。これ以上の面倒事は御免ですから」
「そうだね。ルウ達も心配だし、もう帰ろうか」
「……それなら上の方へ報告しておく」


二人の言葉を聞いたヒカゲは立ち上がり、部屋を抜け出そうとした時、不意に彼女はルノが所持している刀に気付く。この国では帯刀が禁じられている事を説明したにも関わらずにルノが刀を所持している事に疑問を抱き、問い質す。


「その刀……何処で手に入れたの?」
「あ、しまった。そういえばこれも持ってきちゃった」
「そういえばずっと持ったままでしたね。これが黒兵衛が使用していた刀ですよ。恐らく、七大魔剣に名を連ねている月光で間違いありません」
「……あの有名な?」


ルノから刀を受け取ったヒカゲは信じられない表情を浮かべ、刀身を抜いて蛍光色に光り輝く刃を確認し、目を見開く。日影の頭領である彼女は刀に関する知識も豊富であり、刀身から滲み出る魔力の輝きに珍しく動揺を露わにする。


「この刀が、本当に魔剣……!?」
「そうですよ。相手を切りつける事で傷口から血液に毒のような魔力を流し込んで血液を操作するんです。場合によっては刀身から血液を吸い上げる事でミイラのように干乾びさせたり、血液を凝固化させて止血の役割も行えるようです」
「だけど握っているだけで凄く魔力を奪われるんだよねそれ。でも、今は普通に触っても平気だけど……」
「……これは預からせてもらう」


冷や汗を流しながらヒカゲは月光を受け取り、そのまま急ぎ足で部屋を立ち去る。そんな彼女の行動に不思議に思いながらもルノは身体を伸ばし、今日は色々とあったので身体が疲れていた。


「ふうっ……流石に突かれた。帰るのは明日にしようよ」
「そうですね。それなら私は外に出てますので先に夕食を食べていてください」
「あれ、何処か行くの?」
「さっきも言ったじゃないですか。土産を買ってくるだけですよ。まあ、ルノさんなら心配いらないと思いますけど気を付けてくださいね。まだ魔王軍の残党がこの国に待機している可能性もありますから」
「リーリスの方が危険じゃないの?」
「大丈夫です。私、逃げ足だけは自信がありますから」


リーリスは冗談を口にしながら部屋から抜け出し、残されたルノは身体を横たわらせる。数日の間に色々な出来事が起きたせいか妙に身体が疲れてしまい、睡魔に襲われる。


「んっ……ちょっと寝ようかな」


夕食の時間までまだ猶予はあるため、ルノは座布団を枕代わりにして眠りに就こうとした時、朝に部屋を出る時には存在しなかった紫色の花の花瓶が机に存在する事に気付いた。


「……あれ、この花……あったっけ……?」


花瓶に視線を向けながらルノは妙に甘い匂いを感じ取り、何時の間にか部屋の中で花瓶に飾られた紫の花の香りが充満している事に気付く頃には時すでに遅く、ルノは瞼を閉じて夢の世界へ旅立ってしまう。



※余分に書き終えたので投稿しました。
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