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冒険者編
放火魔
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「――なるほど、それで私が来た時にはこのような事態になってたんですか」
「うん……不味かったかな」
「それは不味いでしょう。見てく下さいよこの有様」
数分後、急いで宿屋の前に訪れたリーリスにルノは何が起きたのかを説明すると、彼女は呆れたような表情を浮かべて宿屋の建物の様子を伺う。先程までは至る箇所で炎に包まれていたが、ルノが咄嗟に作り出した「水の魔法」によって消火は既に終わっていた。だが、その代わりに宿屋の屋根の一部が崩れてしまい、滝の様に流れ込んできた水のせいで中に存在した人間も外に放り出されてしまう。
「おい!!無事か!?生きてるよな!?」
「げほっ!!げほっ!!み、水が……」
「水か?水が欲しいんだな!!誰か用意してくれ!!」
「ち、違う……水に飲み込まれ、うおぇっ!!」
「うわ、吐いた!?誰か医者に運んでくれっ!!」
「何が起きたんだよ一体……」
宿屋の外には大勢の近隣の住民が駆け付け、宿に存在した人間達の介抱を行う。ルノが生み出した魔法の水によって炎は掻き消されたが、それに巻き込まれて殆どの人間が外に放り出されてしまい、危うく溺死しかけた人間もいた。最も魔法で生み出した現象は長時間は維持は出来ず、既に大量の水は蒸発するかのように消えてしまい、水に飲み込まれていた人間達も無事だった。
「はあっ……まあ、状況的にはしょうがなかったんですね。放置していたら全員が焼け死んでいたようですし、仕方ありません。全員無事なんですか?」
「まだ分からない。宿の中に入るのは危険だからって入れないけど……」
「建物が傾いてますもんね。当然ですね」
消火のためとはいえ、途轍もない水量の放水を浴びた宿屋は崩れかけており、徐々に崩壊を始めていた。中に入るのは危険のため、生存者が残っていたとしても救助には時間が掛かるだろう。
「おい、あんた!!さっきの見てたぞ!!」
「凄いわね!!あれが魔法という奴なの?初めて見たわ!!」
「この国には魔法は使える人間はいないと聞いてたんだが、凄いなあんた!!」
「あ、どうも」
「もうバレバレじゃないですか」
この国では魔法の使用は禁止されており、法律で異国人であろうと禁じられている。しかし、結果的にルノが動かなければ大勢の人間の命が失われていたのは間違いない。ルノが宿屋の上空で魔法を使用する姿は大勢の民衆が確認しており、賞賛の言葉を贈る。
「おい!!誰か医者を呼んでくれよ!!人手が足りない!!」
「くそ、何でこんな事に……お、おいあんた!!さっき魔法を使ってたやつだよな!?こいつらを救えないのか?」
「え、いや……回復魔法はちょっと」
「頼むよ!!中にはもう死にそうな奴もいるんだ!!助けてくれ!!」
「……しょうがないですね。傷を見せてください」
火災の際に既に負傷した人間も多く、火傷を負った子供を抱える男性がルノに縋り付くと、溜息を吐きながらリーリスが容態を伺う。放置すれば間違いなく死亡する程の大怪我だと判断し、彼女は両手を構えた。
「回復薬だと間に合いませんね。しょうがない……治療」
「おおっ!?」
「傷が塞がって……!?」
リーリスが呪文を唱えた瞬間、彼女の両手から白色の淡い光の球体が出現し、その光を傷跡に当てた瞬間、火傷を負った皮膚が元に戻り、傷跡が塞がる。彼女が医療魔導士だとは前から聞いてはいたが、ルノが実際に魔法を発動させる彼女の姿を観察したのは初めてかも知れない。
「それが回復魔法?」
「そうですよ。医療魔導士なら最初から覚えている魔法です。ほら、治りましたよ」
「た、助かった……ありがとう!!」
「ううっ……父ちゃん?」
「ああ、良かった……父ちゃんだぞ!!」
どうやら男性が抱えていたのは自分の子供だったらしく、治療を受けた子供を抱えながら男性はその場を立ち去り、その姿を目撃した他の人間も負傷者を連れ込む。
「お、お願いします!!どうか私の息子も……!!」
「俺の女房も頼む!!」
「うちの夫も!!」
「あ、出来れば儂の痔も……」
「はいはい、最後の方以外は治療を引き受けますよ~」
負傷者を抱えた住民の列がリーリスの前に並び、その間にルノは周囲の様子を伺う。ここに残ってもルノが手伝える事は怪我人の介抱だが、既に大勢の住民が押し寄せているので人手は足りている。
「ソウシさんは何処だろう……あの、すいません。倒れている人の中に青空組の人を見かけませんでした?」
「青空組?いや、見てないが……」
「あ、あの……俺、知ってます」
「馬鹿、無理するなっ!!まだ喋るなっ!!」
治療を行っている人間にルノはソウシが存在しないのかを問い質すと、治療を受けている男性が起き上がり、激しくせき込みながらも宿屋で起きた出来事を説明してくれた。
「うん……不味かったかな」
「それは不味いでしょう。見てく下さいよこの有様」
数分後、急いで宿屋の前に訪れたリーリスにルノは何が起きたのかを説明すると、彼女は呆れたような表情を浮かべて宿屋の建物の様子を伺う。先程までは至る箇所で炎に包まれていたが、ルノが咄嗟に作り出した「水の魔法」によって消火は既に終わっていた。だが、その代わりに宿屋の屋根の一部が崩れてしまい、滝の様に流れ込んできた水のせいで中に存在した人間も外に放り出されてしまう。
「おい!!無事か!?生きてるよな!?」
「げほっ!!げほっ!!み、水が……」
「水か?水が欲しいんだな!!誰か用意してくれ!!」
「ち、違う……水に飲み込まれ、うおぇっ!!」
「うわ、吐いた!?誰か医者に運んでくれっ!!」
「何が起きたんだよ一体……」
宿屋の外には大勢の近隣の住民が駆け付け、宿に存在した人間達の介抱を行う。ルノが生み出した魔法の水によって炎は掻き消されたが、それに巻き込まれて殆どの人間が外に放り出されてしまい、危うく溺死しかけた人間もいた。最も魔法で生み出した現象は長時間は維持は出来ず、既に大量の水は蒸発するかのように消えてしまい、水に飲み込まれていた人間達も無事だった。
「はあっ……まあ、状況的にはしょうがなかったんですね。放置していたら全員が焼け死んでいたようですし、仕方ありません。全員無事なんですか?」
「まだ分からない。宿の中に入るのは危険だからって入れないけど……」
「建物が傾いてますもんね。当然ですね」
消火のためとはいえ、途轍もない水量の放水を浴びた宿屋は崩れかけており、徐々に崩壊を始めていた。中に入るのは危険のため、生存者が残っていたとしても救助には時間が掛かるだろう。
「おい、あんた!!さっきの見てたぞ!!」
「凄いわね!!あれが魔法という奴なの?初めて見たわ!!」
「この国には魔法は使える人間はいないと聞いてたんだが、凄いなあんた!!」
「あ、どうも」
「もうバレバレじゃないですか」
この国では魔法の使用は禁止されており、法律で異国人であろうと禁じられている。しかし、結果的にルノが動かなければ大勢の人間の命が失われていたのは間違いない。ルノが宿屋の上空で魔法を使用する姿は大勢の民衆が確認しており、賞賛の言葉を贈る。
「おい!!誰か医者を呼んでくれよ!!人手が足りない!!」
「くそ、何でこんな事に……お、おいあんた!!さっき魔法を使ってたやつだよな!?こいつらを救えないのか?」
「え、いや……回復魔法はちょっと」
「頼むよ!!中にはもう死にそうな奴もいるんだ!!助けてくれ!!」
「……しょうがないですね。傷を見せてください」
火災の際に既に負傷した人間も多く、火傷を負った子供を抱える男性がルノに縋り付くと、溜息を吐きながらリーリスが容態を伺う。放置すれば間違いなく死亡する程の大怪我だと判断し、彼女は両手を構えた。
「回復薬だと間に合いませんね。しょうがない……治療」
「おおっ!?」
「傷が塞がって……!?」
リーリスが呪文を唱えた瞬間、彼女の両手から白色の淡い光の球体が出現し、その光を傷跡に当てた瞬間、火傷を負った皮膚が元に戻り、傷跡が塞がる。彼女が医療魔導士だとは前から聞いてはいたが、ルノが実際に魔法を発動させる彼女の姿を観察したのは初めてかも知れない。
「それが回復魔法?」
「そうですよ。医療魔導士なら最初から覚えている魔法です。ほら、治りましたよ」
「た、助かった……ありがとう!!」
「ううっ……父ちゃん?」
「ああ、良かった……父ちゃんだぞ!!」
どうやら男性が抱えていたのは自分の子供だったらしく、治療を受けた子供を抱えながら男性はその場を立ち去り、その姿を目撃した他の人間も負傷者を連れ込む。
「お、お願いします!!どうか私の息子も……!!」
「俺の女房も頼む!!」
「うちの夫も!!」
「あ、出来れば儂の痔も……」
「はいはい、最後の方以外は治療を引き受けますよ~」
負傷者を抱えた住民の列がリーリスの前に並び、その間にルノは周囲の様子を伺う。ここに残ってもルノが手伝える事は怪我人の介抱だが、既に大勢の住民が押し寄せているので人手は足りている。
「ソウシさんは何処だろう……あの、すいません。倒れている人の中に青空組の人を見かけませんでした?」
「青空組?いや、見てないが……」
「あ、あの……俺、知ってます」
「馬鹿、無理するなっ!!まだ喋るなっ!!」
治療を行っている人間にルノはソウシが存在しないのかを問い質すと、治療を受けている男性が起き上がり、激しくせき込みながらも宿屋で起きた出来事を説明してくれた。
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