最弱職の初級魔術師 初級魔法を極めたらいつの間にか「千の魔術師」と呼ばれていました。

カタナヅキ

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冒険者編

白崎直央

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「どうして直央君がこの世界に……」
「この直央という人は本当にルノさんの従弟なんですか?」
「間違いないよ。昔はよく遊んでたから……」
「となると……考えられるとしたらエルフ王国が何か仕出かしたんでしょうね」


地球人である直央がこの世界に存在する理由が考えられるとすれば、間違いなく異世界人を呼び出す「勇者召喚」が関わっているだろう。そして王国以外に勇者を呼び出せる国家は限られており、直央がエルフ王国の将軍であるリンと行動している時点で彼を召喚したのはエルフ王国としか考えられない。


「大方、王国はルノさんに対抗する戦力を手に入れるために異世界召喚を行ったんでしょうね」
「そんな……俺のせいで直央君がこの世界に?」
「あくまでも私の予想ですよ。まあ、エルフ王国が勇者召喚を行って直央さんを呼び出したのはほぼ確定しましたね。そうでなければリン将軍が直央さんを隠す必要はありませんから」
「直央君……」


こちらの世界に自分の従弟が訪れていた事にルノは動揺するが、その一方で帝国以外の国家も異世界人を呼び出す儀式を行えることを知る。出来れば直央と再会して話をしたいが、今はクロガネを殺害した犯人も捜さなければならない。


「まあ、直央さんの件は後回しにしましょう。私が帝国に戻り次第にこの事を報告してエルフ王国に問い合わせますから心配しないで下さい」
「……そうだね」
「ですが、エルフ王国が勇者召喚の儀式を知っていたとは驚きですね。今までの歴史上では召喚に成功しているのは帝国だけなのに……まあ、その辺も帰ったら調べてみましょう」


リーリスは日記を片手に昨夜のうちに用意した用紙を手に取り、彼女が見た限りでは怪しい人物の名前と詳細を記した資料をルノに渡す。


「これが昨日のうちにリストアップした依頼人の名前と詳細です。片方は魔王軍と関係すると思われる人物、もう片方はこの日の国に住んでいてる人達です」
「うわっ……こんなにあるの?」
「犯人に繋がる手掛かりがこれしかない以上、しょうがないですよ」


50枚近くの用紙をリーリスから受け取り、1枚につき2~3人の依頼人の資料が記されていた。だが、ここでルノはヒカゲが戻っていない事に気付き、リーリスに問い質す。


「そういえばヒカゲさんは?用紙とペンがあるという事は戻ってきたの?」
「ああ、夜のうちに帰ってきましたよ。ルノさんが寝ている用紙の用意と写本も終わってます」
「え、そうなの?起こしてくれたら良かったのに……」
「ルノさんが起きていても別に何もする事はありませんでしたから」
「酷いっ」


ルノが就寝している間にヒカゲは宿に立ち寄っていたらしく、リーリスと二人で日記の写本と依頼人の確認を終えていたという。更にヒカゲが戻った際に彼女は新しい情報も入手していた。


「それと新しい情報も入りました。青空組の取り調べでゼーニ商会が隠蔽したクロガネさんの死体の死因が発覚しました。遺体を最初に発見した人間の話によると、どうやら死因は刀傷による出血死らしいです」
「出血死……?切られて殺されたの?」
「いえ、全身に刀傷を負って血が噴き出したのか既に発見した際にはミイラのように干からびていたらしいです。だけど、この死体には奇妙な点があります」
「奇妙な点?」
「取り調べを受けたゼーニ商会の下っ端の話によると、死体を発見した時には既にクロガネの肉体には血液が一滴たりとも残っていなかったそうです。切り殺されたのは間違いないようですが、どういう事なのか現場には血液が噴き出した痕跡が存在しなかったようです。だから死体の隠蔽にはそれほど時間は掛からなかったとか……」
「そんな馬鹿な……」


刀傷が死因ならば斬られた箇所から出血するのは間違いなく、死体現場に血痕さえも存在しないというのは有り得ない。考えられるとしたら死体から血液が抜け切った後に何者かがクロガネの死体を玄関に移動させたか、あるいは証言を行った人間が虚言を告げたとしか思えない。


「取り調べは相当に荒れたようですよ。ヒカゲさんがどうにか話を聞き入れた所、未だに証言した人間は監禁されているようです。真実を離さない限りは絶対に出さないと脅されているようですが、誰も発言を覆そうとはしません」
「本当にその人達の話に嘘はないの?」
「ヒカゲさんも直接立ち合って話を聞いたそうですが、どうも嘘を言っている様子はないそうです。だけど、青空組の人は彼等を信じないで拷問紛いの方法で話を聞き出そうとしています」
「なんて人達だ……」


クロガネを発見した第一発見者の証言では彼等が見つけた時には既にクロガネは変死体として玄関に横たわって居た事になる。遂にクロガネの死因が発覚したかと思われたが、謎がさらに謎を呼ぶ結果になった。
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