最弱職の初級魔術師 初級魔法を極めたらいつの間にか「千の魔術師」と呼ばれていました。

カタナヅキ

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冒険者編

写本

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「でも写本を行うにしてもこんな場所じゃ何もできませんね。仕方ない、この日記はルノさんが預かってて下さい」
「俺が?リーリスのアイテムボックスに入れておけば?」
「いや、私のアイテムボックスはいっぱいいっぱいなんですよ。色々な機材を入れてますからね」
「しょうがないな……」


クロガネの日記に関してはルノがアイテムボックスに保管すると、ヒカゲが周囲の様子を伺い、事前に予約していた宿屋に案内する。


「二人は今日はもう宿で大人しくして、私は写本用の用紙と書き物を用意しておく」
「そういえばこの国には普通の紙とかあるんですか?今のところは和紙しか見てませんけど……」
「大丈夫、この国には色々な観光客が訪れる。その中には紙を輸入してくる人も多い」
「写本するとしたらどれくらいの時間が掛かるんですか?」
「相当に時間が掛かる……多分だけど3、4時間は必要」
「広辞苑並みの厚さの書物をそれぐらいの時間で写本できるなら十分ですよ。私達はヒカゲさんが戻るまで日記を調べておきましょうか」
「そうだね」


写本を行う前にリーリスが速読の技能スキルで中身を確認し、殺人事件の犯人に繋がる手掛かりを探す事にする。ヒカゲは二人を宿まで案内すると、一旦分かれて写本用の用紙と筆記用具を用意するために行動を開始した――




――翌日の朝、ヒカゲが用意してくれた宿屋の一室にてルノは目を覚まし、妙に圧ぐるしさを覚えて布団から身体を起き上げる。


「う~んっ……暑い」
「うへへっ……なかなかいい身体してるじゃないですか」
「うわ、びっくりした」


布団に視線を向けると何故か隣室にいるはずのリーリスが布団の中に潜り込んでいたようであり、ルノは妙な寝言を呟きく彼女から毛布を奪い取った。


「ほら、起きて」
「あふんっ……ちょ、寒っ!?寒いですからっ!!」
「何で当たり前のように人の布団の中に潜り込んでるの?」


強制的に毛布を奪われて冷気に襲われたリーリスは身体を丸めるが、そんな彼女に呆れながらもルノはリーリスの衣服が寝間着から元の衣服に戻っている事に気付く。


「あれ?服着替えたの?」
「ああ、着物だと動きにくくてしょうがないですよ。私には白衣が性に合ってますね」
「まあ、そっちの方が動きやすそうだしね。それで、どうして人の布団に潜り込んでるんの?」
「いや~……どうやら寝ぼけて部屋を間違えたようですね。昨日は夜遅くまで日記を確認してましたから」
「何か分かったの?」


日記を夜遅くまで読み耽っていたというリーリスの発言にルノは犯人の手掛かりを掴めたのかと考えたが、彼女は眠たそうに布団の傍に落ちていた用紙を指し示す。


「一応は全部読みましたけど、魔王軍の関係者らしき人物の名前と容姿を書き留めました。だけど、今回の事件の犯人はさっぱりですね」
「そっか……」
「あ、でも日記の中に記された依頼人の中には日の国に訪れる前のクロガネさんに依頼した方も多いですよ。だから日の国に訪れてから依頼された人物だけを厳選したら数はかなり減ると思いますよ」
「おおっ」


リーリスによるとクロガネの残した日記は日の国に訪れる前から書き記されているらしく、日の国に住んでいる人間の依頼数はそれほど多くはないという。仮に今回の犯人が日の国の人間だった場合、容疑者が1000人から200~300人に厳選される事に等しい。


「ところで日記はちゃんと持ってるの?まさか盗まれたとか言わないよね」
「大丈夫です。ほら、布団の下に隠してますから」
「エッチな本じゃないんだからさ……」


大切な事件の証拠を古典的な方法で隠していたリーリスにルノは呆れるが、彼女はぺらぺらと中身を確認し、途中で手を止めてルノに差し出す。


「それと気になる事があるんですよね……ほら、ここを見てください」
「ん?」
「どうやらこの人はクロガネさんが依頼を受けた人達の最後から二番目の人物なんですけど、名前と容姿を見てください」
「あれ、これって……!?」
「そうです。私達が鰻屋で遭遇したリンさんと一緒に居た人ですよ」


リーリスが指し示した日記には昨日に鰻屋で遭遇したリンが連れていた人物の容姿が描かれており、外見は少女のようにしか見えないがクロガネの資料には「男性」と記されていた。しかも何処となくルノと外見が似ており、名前は「白崎直央」と書き込まれていた。


「この人、よくよく見てみたらルノさんと似てますよね……もしかしてお知り合いですか?」
「知り合いも何も……俺の従弟だよ!!やっぱり直央君だったんだ!!」


ルノは鰻屋で遭遇したのが従弟の「直央」である事を確信し、どうして彼がこの世界に居るのか混乱する。リンと行動していた事も気にかかるが、それよりも彼もクロガネと関わりがあった事に驚きを隠せない。
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