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冒険者編

特別編 もしもルノが「不遇職」の主人公だったら……

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※本編とは一切関係ありません。


――同級生の足元に現れた魔法陣の謎の光に巻き込まれたルノ、それでも「成長」の異能のお陰で様々な技能と魔法を習得し、頼りになる仲間たちと共に生活を過ごす。だが、ある日に彼が目を覚ますと見知らぬ天井が広がっていた。それだけではなく、身体が思うように動かず、自分が赤ん坊が入るような揺り籠の中に存在する事に気付く。


「あぶぅっ……ばぶぅっ!?」


声を上げようとすると何故か上手く発音できず、それだけではなく身体の手足も上手く動かせない。それでもルノは必死に首を動かして身体を確かめようとすると、何故か赤ん坊のように小さな手足が視界に映し出される。


「ばぶぶっ!?(な、何だこれ!?)」


彼は自分が「赤ん坊」になっている事に気付き、しかも見知らぬ部屋の中にいる事に気付く。まるで高級ホテルのような豪勢な部屋の中に存在し、ルノは何が起きているのか理解できない。


「何だこれはっ!!」
「お、落ち着いて貴方!?」
「ばぶぅっ?」


部屋の中に怒声が響き渡り、ルノは何事かと顔を向けると部屋の中に自分以外に二人の男女が存在する事に気付き、男性の方は王冠を身に着けていた。どこかで見覚えのあるデザインであり、ルノはバルトロス帝国の皇帝が身に着けていた物だと見抜く。


「初級魔術師だと!?しかも職業が一つだけ……固有職シングルだと!?」
「あ、貴方……」
「あぶぶっ……(何だこの人?)」


髭を生やした男性が鬼気迫る表情でルノに迫り、それを後ろから美しい女性が抑えつける。そんな二人の行動にルノは不安を抱いていると、男性は表情を一変させてルノを持ち上げる。


「素晴らしい!!よくやったぞアイラ!!よくぞ生んでくれた!!」
「ばぶぅっ!?(うわわっ!?)」
「お、落ち着いて貴方!!レナが驚きますよっ!?」
「……れぇなっ?」


男性は喜色満面な表情でルノを抱き上げ、狂喜乱舞する。そんな彼を落ち着かせようと女性が後ろから抑え、ルノは何が起きているのか理解できない。


「まさか最高職の初級魔術師の職業を覚えるとは……しかも固有職!!この子はきっと英雄になるぞ!!」
「もう、貴方ったら……職業など関係ないでしょう?この子は私達の愛する子供なんだから」
「おお、それはそうだな……ほらほらレナよ。私が父親だぞ~」
「ばぶっ……(髭が痛い)」


ルノは男性に頬ずりされて嫌そうな表情を浮かべるが、そんな彼を今度はアイラと呼ばれた女性が抱き上げ、優しく撫で上げられる。


「よしよし、私がお母さんよ~?」
「むううっ……(お母さん?いや、俺のお母さんはこんなに若くて美人じゃないぞ)」


アイラの言葉にルノは首を傾げ、すぐに自分の身体の異変を思い出し、自分が赤ん坊でこの二人の子供になっている事に気付く。


(ど、どうなってるんだ?どうして俺、赤ん坊なんかに……それにあの王冠、もしかしてこの人……バルトロス帝国の皇帝陛下?)


男性の王冠に視線を向け、ルノは自分の知っている帝国の皇帝に似ている事に気付く。もしかして自分が過去の時代にタイムスリップして皇帝の子供に生まれ変わったのかと思ったが、どうにも様子がおかしい。


(でもこの人、皇帝さんとは雰囲気が違うな。それに皇帝さんの子供って娘さんだけじゃ……どうなってるんだ?)


何が起きているのかは不明だが、ルノはこの日からこの二人に大切に育てられ、何不自由のない生活を送る事になる――




――1年後、ルノは自分の現在の状況を完全に把握する。まず、彼が存在する時代は既にバルトロス帝国が滅びてから数百年後の世界であり、彼は帝国の代わりに建国された「バルトロス王国」の第一王子である事が判明した。どうして帝国が滅びたのかまでは分からなかったが、少なくともルノが存在した帝国の時代から100年後程に滅びたらしい。


(まさか帝国が滅びたなんて……しかも、俺の事が英雄として歴史に名前が刻まれてるし)


ルノは赤ん坊の状態でありながら部屋の中に存在した書物を読み耽る。ちなみに赤ん坊の状態でも「翻訳」と「初級魔法」の能力は健在のままであり、ルノは風圧の魔法でふよふよと自分の体を風の魔法で浮揚しながら移動を行う。


「んしょ、んしょっ……よっこいしょ」


棚の中に入っていた書物を必死に小さな手で引き抜き、ルノは床の上に書物を置いて中身を確認する。彼が1人で自由に行動できる時間は限られており、誰かが来る前に本を戻さなければならない。


(うわ、皆の名前が描かれている。あ、リーリスの名前もあるや!!えっと、世紀のマッドサイエンティスト……何やらかしたんだろう)


自分の知り合いの名前が歴史の書物に刻まれている事にルノは違和感を拭えず、本当に自分が数百年後の世界の赤ん坊に生まれ変わったことを実感する。ちなみにこの世界でのルノの名前は「レナ」であり、王国の第一王子として生活している。


(これが転生という奴なのかな……でも、普通に魔法は使えるんだ)


ルノは自分の掌に視線を向け、試しに書物に向けて初級魔法の風圧を放つ。


「ふぅあつっ」


未だに上手く発音は出来ないが、ルノが言葉を発した瞬間に彼の掌から風の塊が放たれ、そのまま書物を浮き上げて見事に棚の方に戻す。魔法の威力だけではなく、正確に棚の中に戻すだけの技術力も健在であり、ルノは転生前の能力を所持したまま赤ん坊に転生していた。


「とうっ!!」


風圧の魔法を利用すればルノは身体を浮き上げさせ、そのまま自由に部屋の中を探索する。真面に走る事も出来ないのに魔法を使用すれば自由に空を飛ぶことも可能であり、特に不自由はない。


「う~んっ……眠くなってきたな」


赤ん坊の肉体では魔力の消費量が異なるのか、精神を消耗したルノはベッドの上で眠りにつこうとした時、不意に出入口の扉が音もなく開く。


(んっ……誰だ?)


部屋の掃除をするために使用人が訪れたのかと思ったが、ルノは薄目で扉を確認すると、そこには給仕服姿の女性が存在した。だが、普段からルノの身の回りの世話を行っている森人族の使用人ではなく、初めて見る顔であり、彼女はルノがベッドに眠っている事を確認すると不敵な笑みを浮かべる。


(何だこの人……なにかやばそう)


眠っているふりをしながらもルノは使用人の行動に警戒していると、相手は懐から短剣を取り出し、そのままルノのベッドに目掛けて飛び込む。


「死ねっ」
「ふぅあちゅっ!!(ちょっと噛んだ)」
「えっ――ぎゃああっ!?」


短剣を突き刺そうとしてきた女性に対し、ルノは掌を構えて風属性の初級魔法で吹き飛ばす。使用人は派手に壁際まで吹き飛ばされ、そのまま白目を向いて倒れこむ。


「なんだこのひと……」
「な、何の音ですかっ!?」
「あ、ありあ……」


部屋の外から森人族の使用人が入り込み、ルノの身の回りの世話を行っているアリアという名前の使用人である。アリアは倒れている女性に驚き、しかもその手に短剣が握りしめられている事を知って更に目を見開く。


「こ、これは……坊ちゃま!!大丈夫ですか?」
「だいじょうぶ~」
「ああ、良かった……え?この人、確か王妃に仕えている……」
「おうひ?」
「いえ、何でもありません。無事でよかったです」


アリアはルノの身体を抱き寄せ、倒れている女に視線を向けて首を傾げる。この場で何が起きたのかを知っているのはルノだけであり、彼女は不思議に思いながらもルノを抱えて部屋を立ち去った――




――後にルノは自分を襲った使用人が王国の王妃の命令を受けて暗殺を試みたことを知り、彼は第一王子という立場がどれほど危険な存在なのかを知る。それでも生まれ変わろうと初級魔術師の能力が健在の彼ならばどんな困難も乗り越えるだろう。



※とりあえずはここで終わります。こちらではルノは王子として裕福に育てられていますが、本来の不遇職の主人公は生まれた時点で父親に追放とかされています。その理由は不遇職の本編で明かされますのでどうか興味を抱いた方はお読みください。もしもこの話の続きが気になるという方がいればいつか続編を書きたいと思います。






注意:ここから先は没にしたルートです。



~原作通りに主人公が王様に追放された場合~


「何だこのクズは!!出来損ないではないかっ!!」
「いやっ!!止めてっ!!その子は私達の子なのよ!?」


赤ん坊のルノを抱えた国王が怒鳴りつけると、そのまま地面に叩きつけようとする。それをアイラが必死に止めようとするが、クズ呼ばわりをされたルノは怒りを抱いて魔法を放つ。


「むぅっ……ふうあちゅっ!!」
「ぐはぁあああっ!?」
「あ、貴方っ!?」


国王の肉体に強烈な衝撃が走り、壁際まで吹き飛ばされる。その光景を目にしたアイラは驚愕するが、ルノは風圧の衝撃波を利用して上手くベッドに着地し、鼻息を鳴らす。


「う、嘘っ……今の魔法、この子が?」
「ぐふっ……ば、馬鹿なっ……がくっ」
「貴方!?」
「ばぶぅっ……?」


血反吐を吐きながら国王は倒れこみ、その光景にルノはやりすぎたかと首を傾げた――






――数年後、王家から追放されたルノは母親のアイラと共に森の中に存在する屋敷に隔離される。屋敷の周囲に広がる森には魔物が生息しており、屋敷の中の住民は決して外に出る事は許されない。仮に一流の冒険者だろうと単独で赴けば死は免れない程の危険な森なのだが、ルノは5歳を迎えると森の中を遊びまわっていた。


「わ~いっ!!こっちだよ~!!」
「ブモォオオオッ!!」


森の中を元気よく駆け回りながらルノは後方から接近してくる「ミノタウロス」に話しかけ、相手は獲物を見つけたとばかりに鼻息を荒くして戦斧を片手に追い掛け回すが、一行に追いつけない。5歳児とは思えない脚力を誇り、更に巧みに樹木の枝を飛び回り、逃げ続ける。


「ここまでおいで~」
「ブフゥッ……!?」


森の主であるミノタウロスは全く追いつけない子供に対して動揺を隠せず、遂には体力切れを起こして跪いてしまう。それを確認したルノは彼の頭に向けて跳躍し、角を掴んで身体を支える。


「お~!!高い高い!!」
「ブモォオオッ!?」


自分の頭に張り付いたルノにミノタウロスは必死に引き剥がそうとするが想像以上の握力で角を握りしめられ、力尽くでは引き剥がせない。


「ブモッ、ブフゥッ!!」
「あわわっ」


必死に頭を振って振りほどこうとしてもルノは笑い声を上げながら肩車を楽しみ、遂にはミノタウロスは近くに存在する樹木に彼の身体を叩きつけようとした。


「ブモォッ!!」
「うわ、危なっ」
「ブヒィッ!?」


樹木にルノを叩きつけようとしたミノタウロスだが、寸前で彼が頭から離れてしまい、見事に自分の頭部を樹木に叩きつけてしまう。牛というよりは豚のような鳴き声を上げて蹲り、頭を抑える。


「あららっ……大丈夫?」
「ブフゥウウウウッ……!!」


遂には目を血走らせたミノタウロスがルノに向けて戦斧を構え、振り下ろそうとした時、ルノは掌を構えて先に魔法を放つ。


「風圧」
「プギィイイイイッ!?」


強烈な風の衝撃波がミノタウロスに襲い掛かり、そのまま彼は遥か彼方まで吹き飛ばされた――





――十数年後、大人になったルノは屋敷を抜け出し、実は暗殺者として潜伏していたメイドを返り討ちにすると、森の中で友達になった白毛の狼とミノタウロスと共に旅に出ることにした。


「じゃあ、お母さん。たまには帰ってくるから心配しないでね」
「え、ええっ……気を付けてね」
「ウォンッ!!」
「ブモォッ……」


ルノは母親に見送られながら狼とミノタウロスを連れて旅立つ。母親はその背中を見送り、本来ならば親である彼女はルノの事を止めなければならないのだが、自分がどう足掻いても彼を止められる気はしなかった。


「じゃあ、行ってきま~す」
「い、行ってらっしゃ~い……気を付けてね~」


――ここからルノの自由気ままな旅が始まり、後に彼を巻き込んで王国が崩壊しかねない程の大きな事件に発展する事を知っている人間は誰もいない。
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