最弱職の初級魔術師 初級魔法を極めたらいつの間にか「千の魔術師」と呼ばれていました。

冒険者編

井戸の秘密

「まあ、これが造花というのはよく分かりましたけど、それがどうかしたんですか？」
「こうして引っ張ると分かる」


ヒカゲが造花に手を伸ばし、そのまま引き抜こうと力を籠めると、造花の地面から音が鳴り、井戸の方向から奇妙な音が響き渡る。それを確認した彼女は造花を手放し、二人に井戸を指さす。


「この中を覗く」
「どれどれ……」


ルノ達は中を覗き込むと井戸の中に横穴が存在する事に気付く。よくよく観察しなければ気付かず、井戸の岩壁にも不自然な突起が並んでおり、これを辿れば横穴に入れそうだった。


「うわ、何ですかこれ？もしかしてさっきの造花が仕掛けだったんですか？どういう仕組み何ですか」
「それを説明すると時間が掛かる。だから今は穴の中に入る」
「ヒカゲさんが居てくれて良かったですね。じゃあ、ルノさんから入って下さい」
「ええっ……まあ、いいけどさ」


リーリスの言葉にルノは井戸の中に入り込み、ロッククライミングの要領で岩壁の突起を掴み、難なく横穴に入り込む。ルノの身体能力ならばこの程度の芸当は問題はなく、彼と同様に普段から体を鍛えているヒカゲも難なく後に続く。


「かなり奥が暗いですね……魔法を使っちゃ駄目ですか？」
「大丈夫、私が明かりを持っている」
「ちょっと！！私が入るのも手伝ってくださいよ！！」
「何処から取ってきたのその命綱は？」


二人の後に腰に縄を巻き付けたリーリスが必死に岩壁に張り付きながら横穴に入り込み、魔術師の職業で特に普段からは鍛錬を行っていない彼女では突起を掴みながら移動する事も困難らしく、仕方なくヒカゲが手伝う。


「ふうっ……全く、面倒臭い仕掛けですね。普通に地下室の扉が開かれる程度の仕掛けにすればいいのに……」
「小髭族は悪戯好きの人が多い……ちょっと待って、今から照らす」


ヒカゲは自分の懐から光り輝く石の欠片が入った瓶を取り出し、それを見たリーリスが声を上げる。


「あ、それって光石じゃないですか。よく持ってましたね」
「光石……？」
「常に光り輝く鉱石の名前です。これを加工すれば発光石と呼ばれる光量が増した魔石が作り出せるんですよ」
「簡単な明かりが欲しい時には便利……気を付けて進んで」


瓶を抱えながらヒカゲは先導し、洞穴を進む。横幅と天井の高さはかなり低く、一人ずつ進まなければ移動も出来ない。更に随分と奥まで続いているらしく、移動を開始してから１分後にヒカゲが立ち止まった。


「……扉を見つけた。気を付けて」
「おお、もしかしてここが工房ですか？」
「どうしてこんな所に……」


洞穴の奥は金属製の扉が存在し、ヒカゲが扉を開こうとするが施錠されているのか押しても引いても動く様子がなく、彼女は不思議そうに扉を眺める。


「この扉、外側に鍵穴がない……内側から鍵を掛けられていたら開ける手段がない」
「え？そこは忍者パワーで何とかできないんですか？」
「忍者も万能じゃない……鍵穴さえあれば開錠の能力で開くことが出来るのに」
「ちょっといいですか？」


狭い洞穴の中でルノは扉に視線を向け、何か仕掛けがないのかと扉の周りを見てみるが特に異変は見当たらず、ヒカゲと位置を交代して扉の前に移動する。


「う～ん……何の変哲もない扉だな。魔法を使えば開けられそうだけど……」
「止めてくださいよ。こんな狭い場所で魔法をぶっ放したら岩が崩れて私達が生き埋めになりますよ」
「分かってるよ。でも、どうしたら開くのかな……」


鍵が内側からしか開くことが出来ない場合、既に中に誰かが入り込んで鍵を閉めている可能性もある。ルノは試に扉を叩き、声を掛ける事にした。


「すいません！！誰か居ませんか？」
「……返事はないですね」
「留守？」


扉越しに内部に声を掛けるが反応はなく、扉が開かれる様子はない。魔法を使えば扉を破壊する事は難しくはないだろうが、リーリスの心配通りに魔法で無理やり破壊すると岩壁が崩れて生き埋めになる可能性があり、無茶な行為は出来ない。


「どうすればいいかな……あれ、もしかしてこれって？」
「どうしました？」
「いや、何となくだけど……漫画とかではこういう扉って横にスライドしたら開かないかなと思って……ふんっ！！」


試しにルノは取っ手を握りしめて前後に動かすのではなく、左右に向けて移動させようとする。すると扉が引き戸のように動き出し、内部が露わになった。


「おおっ！！中々やるじゃないですか。素人ならではの発想ですね」
「まさか本当に開くとは……何か悔しい」
「いいから早く中に入ってよ……これ、引いていないと勝手に閉まるみたいだから」


ルノが扉を開いている間に二人が中に入り、最後にルノも後に続く。扉の内部は予想通りと言うべきか、鍛冶職人の工房が広がっており、様々な器具が並べられ、壁際には武器や防具の類が飾られていた。


「おお、どうやら本当に工房に繋がっていたようですね。ですけど、なんでこんな場所に隠すように工房を……」
「調べて見る」


工房に入り込んだ３人は即座に内部の探索を行い、どうしてクロガネがこのような場所に工房を作り出したのかを調べる。