最弱職の初級魔術師 初級魔法を極めたらいつの間にか「千の魔術師」と呼ばれていました。

カタナヅキ

文字の大きさ
上 下
90 / 657
冒険者編

青空組三人衆

しおりを挟む
「なるほど……つまりあんた等はここでこいつを斬ると店の人の迷惑だから辞めてくれと言ってるんだな?」
「まあ、そういう事ですね。この国の事はよく知りませんけど、いくら何でも店の中で殺人なんて不味いでしょう?」
「トシゾウ、そこの人の言うとおりだ」
「しかし隊長……」
「話を最後まで聞け。お二人さん、こいつが罪を犯したのは事実だ。この国で許可もなく帯刀する事は許されない事だ……だが、確かに店中で殺そうとしたのはやりすぎたな。こいつは俺達が連れて行く、それで文句はないな?」
「ええ、別にそれでいいですよ。別にその人の事を庇うわけじゃないですから」


イサムの言葉にリーリスは頷き、ルノとしてもガリュウを庇うつもりはない。事情はどうであれ彼が他の人間に迷惑を掛け、帯刀という罪を犯した事は間違いなく、後は彼等に任せる事にした。


「ソウシ、こいつを屯所まで連れていけ」
「え~?なんで僕が……」
「てめえだけずっと座って何もしてなかったからだよ。ほら、文句を言わずに年上のいう事は聞け」
「ちぇっ……ほら、行きますよ」
「ま、まっへくれ……鼻血が……」
「うるさいな……そらっ!!」
「ぎゃああっっ!?」


鼻血を垂らしているガリュウを蹴り飛ばし、ソウシと呼ばれた少年は彼を連れて出ていく。その光景を確認した客は安心した表情を浮かべるが、トシゾウとイサムは険しい表情を保ったままルノに視線を向ける。


「なあ、兄さん……あんた等は何者だ?このトシゾウという男は俺の中でも2番か3番目を誇る剣の達人だぞ」
「ちょっと待ってください。隊長、それなら1番目はあんただって言うのか?」
「あん?この間のの試合は俺の勝ちで終わっただろ?」
「あんときは腹の調子が悪かったんだ!!今やったら俺が勝つに決まってんだろ!!」
「ああん?」
「ああっ!?」
「何か勝手に喧嘩を始めたけど……」
「今のうちに行きましょうか」


何故か会話の最中にイサムとトシゾウはお互いの袖を掴み、睨み合う。その間にルノとリーリスは席を立とうとしたが、慌ててトシゾウがルノの肩を掴む。


「おい、待てよ!!まだ話は終わって……おわぁっ!?」
「あ、ごめんなさい」


トシゾウは力尽くでも引き留めようとしたが、予想外にもルノの方が力が強く、肩を掴んだはずのトシゾウの方が転んでしまう。慌ててルノが彼に手を伸ばすと、頬を赤くしたトシゾウが手を振り払う。


「大丈夫ですか?」
「う、うるせえっ!!お前、一体何者だ!?」
「おいおい、トシゾウ。一般人相手に何で喧嘩腰で話してんだ。悪いね兄さん、こいつは俺よりも血の気が多くてな……ほら、さっさと起き上がれ」
「いててっ!?自分で立てるわっ!!」


イサムがトシゾウの首を掴み、自分よりも長身の相手を片腕のみで持ち上げる。別にこの程度の芸当は高レベルの人間ならばそれほど驚くような事ではないが、長袖から露わになったイサムの腕の筋肉は見事な物だった。


「そういえばまだ名前を名乗っていなかったな。俺の名前はイサム、こう見えても青空組の一番隊の隊長を務めている。こいつは俺の隊の副隊長のトシゾウ、そんでさっき出て行ったのが隊員のソウシだ」
「青空組の一番隊!?」
「それってあの有名な……暴れん坊隊!?」
「あれが噂の三人か……初めて見たぜ」


店の中に居た客がイサムの言葉に驚きの声を上げ、どうやら日の国ではかなり有名な人物らしく、イサムは自分達の事を囁かれる事に照れ臭そうに鼻を掻く。


「今日は非番だったんで遊楽にでもいくつもりだったんだが、このトシゾウがどうしても鰻を食いてえというからここに立ち寄ったんんだが……まさかこんな場所で異国の武芸者と出会えるとはな」
「武芸者?」
「何を惚けてやがる。素人に俺の刀が止められるはずがないだろ!!名前を名乗りやがれ!!」


トシゾウは自分の刀を指だけで止められたことが気に入らないらしく、イサムはルノを相当な腕前の武人と勘違いしていた。しかし、当のルノ本人は別に武芸を学んだ事はなく、一応は名前を告げた。


「えっと、名前は霧崎ルノです」
「ついでに私はリーリスで~す」
「霧崎……?この国の人間だったのか?」
「いえ、そういうわけじゃないんですけど……」
「あ、私の事は無視ですか。別にいいですけどね……」


日の国では帝国地方と違い、日本人のように誰もが苗字を持っている。最も日の国では特に珍しくもない苗字らしく、少なくともイサムの知識の中では霧崎の苗字で有名な武芸者は居ない。


「あんたは異国人なのに苗字持ちなのか?いや、別に苗字ぐらいは珍しくはないが、霧崎という苗字はうちの国の人間ぐらいしかいないと思うんだが……」
「そりゃそうですよ。ルノさんは異世界人ですから」
「異世界人だ?それってあの……?」
「おい、そんな事はどうでもいいだろ隊長!!お前、霧崎とか言ったな?てめえはどこの流派だ?誰に武術を学んだ?」
「流派って……」


トシゾウは完全にルノを武芸者と思い込んでいるらしく、詳しく彼の扱う武術を問い質す。しかし、幾ら質問されようとルノが武芸を学んでいない事実は覆らない。
しおりを挟む
感想 1,841

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

Sランク昇進を記念して追放された俺は、追放サイドの令嬢を助けたことがきっかけで、彼女が押しかけ女房のようになって困る!

仁徳
ファンタジー
シロウ・オルダーは、Sランク昇進をきっかけに赤いバラという冒険者チームから『スキル非所持の無能』とを侮蔑され、パーティーから追放される。 しかし彼は、異世界の知識を利用して新な魔法を生み出すスキル【魔学者】を使用できるが、彼はそのスキルを隠し、無能を演じていただけだった。 そうとは知らずに、彼を追放した赤いバラは、今までシロウのサポートのお陰で強くなっていたことを知らずに、ダンジョンに挑む。だが、初めての敗北を経験したり、その後借金を背負ったり地位と名声を失っていく。 一方自由になったシロウは、新な町での冒険者活動で活躍し、一目置かれる存在となりながら、追放したマリーを助けたことで惚れられてしまう。手料理を振る舞ったり、背中を流したり、それはまるで押しかけ女房だった! これは、チート能力を手に入れてしまったことで、無能を演じたシロウがパーティーを追放され、その後ソロとして活躍して無双すると、他のパーティーから追放されたエルフや魔族といった様々な追放少女が集まり、いつの間にかハーレムパーティーを結成している物語!

称号は神を土下座させた男。

春志乃
ファンタジー
「真尋くん! その人、そんなんだけど一応神様だよ! 偉い人なんだよ!」 「知るか。俺は常識を持ち合わせないクズにかける慈悲を持ち合わせてない。それにどうやら俺は死んだらしいのだから、刑務所も警察も法も無い。今ここでこいつを殺そうが生かそうが俺の自由だ。あいつが居ないなら地獄に落ちても同じだ。なあ、そうだろう? ティーンクトゥス」 「す、す、す、す、す、すみませんでしたあぁあああああああ!」 これは、馬鹿だけど憎み切れない神様ティーンクトゥスの為に剣と魔法、そして魔獣たちの息づくアーテル王国でチートが過ぎる男子高校生・水無月真尋が無自覚チートの親友・鈴木一路と共に神様の為と言いながら好き勝手に生きていく物語。 主人公は一途に幼馴染(女性)を想い続けます。話はゆっくり進んでいきます。 ※教会、神父、などが出てきますが実在するものとは一切関係ありません。 ※対応できない可能性がありますので、誤字脱字報告は不要です。 ※無断転載は厳に禁じます

30年待たされた異世界転移

明之 想
ファンタジー
 気づけば異世界にいた10歳のぼく。 「こちらの手違いかぁ。申し訳ないけど、さっさと帰ってもらわないといけないね」  こうして、ぼくの最初の異世界転移はあっけなく終わってしまった。  右も左も分からず、何かを成し遂げるわけでもなく……。  でも、2度目があると確信していたぼくは、日本でひたすら努力を続けた。  あの日見た夢の続きを信じて。  ただ、ただ、異世界での冒険を夢見て!!  くじけそうになっても努力を続け。  そうして、30年が経過。  ついに2度目の異世界冒険の機会がやってきた。  しかも、20歳も若返った姿で。  異世界と日本の2つの世界で、  20年前に戻った俺の新たな冒険が始まる。

【完結】『飯炊き女』と呼ばれている騎士団の寮母ですが、実は最高位の聖女です

葉桜鹿乃
恋愛
ルーシーが『飯炊き女』と、呼ばれてそろそろ3年が経とうとしている。 王宮内に兵舎がある王立騎士団【鷹の爪】の寮母を担っているルーシー。 孤児院の出で、働き口を探してここに配置された事になっているが、実はこの国の最も高貴な存在とされる『金剛の聖女』である。 王宮という国で一番安全な場所で、更には周囲に常に複数人の騎士が控えている場所に、本人と王族、宰相が話し合って所属することになったものの、存在を秘する為に扱いは『飯炊き女』である。 働くのは苦では無いし、顔を隠すための不細工な丸眼鏡にソバカスと眉を太くする化粧、粗末な服。これを襲いに来るような輩は男所帯の騎士団にも居ないし、聖女の力で存在感を常に薄めるようにしている。 何故このような擬態をしているかというと、隣国から聖女を狙って何者かが間者として侵入していると言われているためだ。 隣国は既に瘴気で汚れた土地が多くなり、作物もまともに育たないと聞いて、ルーシーはしばらく隣国に行ってもいいと思っているのだが、長く冷戦状態にある隣国に行かせるのは命が危ないのでは、と躊躇いを見せる国王たちをルーシーは説得する教養もなく……。 そんな折、ある日の月夜に、明日の雨を予見して変装をせずに水汲みをしている時に「見つけた」と言われて振り向いたそこにいたのは、騎士団の中でもルーシーに優しい一人の騎士だった。 ※感想の取り扱いは近況ボードを参照してください。 ※小説家になろう様でも掲載予定です。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。