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冒険者編

日の国 到着

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――馬車が移動を開始してから1時間後、遂にルノ達は日の国に到着する。日の国は周囲を木造製の防壁に囲まれた大きな都市であり、国と言っても他に街の類は存在しない。正確に言えば日影の隠れ里のように周囲に集落は存在するが、全ての国家の中でも領地はそれほど広くはない。

最も領地が少なくとも日の国が生産する食料品の類は重宝され、世界中に輸出している。特に良質な米や味噌の類の調味料は日の国でしか得られない。防壁の周囲には無数の田んぼが用意されており、大勢の「農民」の職業の人間が田植えを行っていた。


「あんれまぁっ、そこにいるのはヒカゲ様じゃねえか?」
「おお、本当だ。ヒカゲ様~!!」
「後でおらの家に寄って下さい!!今回は大収穫だべっ!!美味しいご飯を用意できます!!」
「分かった。後で訪ねる」
「人気者ですね」


馬車で移動中、田植えをしていた人間達がヒカゲに気付き、笑顔で手を振りながら見送る。意外と顔が広いらしく、ヒカゲはそんな彼等に手を振りながら田圃を抜けて防壁へと辿り着く。


「中に入りたい」
「おお、ヒカゲ様!!よくぞお越しになられました!!」
「さあ、どうぞ中へ!!」


警備兵と思われる戦国時代の武将が着込んでいたような鎧と兜を身に着けた兵士達が出迎え、既に開け放たれている城門に彼女を招く。ヒカゲは頭を下げて中に入り込み、馬車から降りる。


「ここから先は徒歩で行く。馬車で移動するよりも歩いて観光した方が楽しい」
「なるほど、では行きますかルノさん」
「はわわっ……」
「え、どうしたんですか急に?」
「いや、ここから魔法禁止だと考えると緊張してきた」
「意識しすぎですよ。ほら、落ち着いて下さい」
「大丈夫、何があっても私が守る」


この国に居る間は魔法が使えないことを改めて認識したルノは緊張し、そんな彼を落ち着かせるようにヒカゲが頭を撫でる。3人は馬車から降りると街並みを拝見し、ルノとリーリスは予想外の街の風景に驚く。


「これは……江戸時代というよりも明治ですね」
「ちょんまげの人が少ない……」
「その髪型を許されているのは一部の人間だけ。というより、よく知ってる?」


ルノとリーリスの想像では江戸時代のような時代背景の街並みが広がっていると思い込んでいたが、実際には明治時代を想像させる建物が広がっており、通り過ぎる人間の中には着物ではなく、洋風の衣服を着こんでいる人間も多かった。

少し前に遭遇したS級冒険者の一人は和風の袴にちょんまげの髪型をしていたのでルノとリーリスは勝手に江戸時代風の街並みを想像していた分、実際の日の国を見て意外に感じてしまう。最も日の国が誕生してから数百年が経過しており、文化が変化していてもおかしくはない。


「あ、見てください!!あれってもしかして機関車のレールじゃないですか?」
「本当だ。でも、機関車なんてこの世界に存在するの?」
「あれは過去に召喚された勇者が作り出した乗物。だけど、普段は使用されていない。外国からの観光客が大勢訪れた時にだけ使う」
「マジですか」


日の国に訪れた勇者が作り上げたという機関車は通常は保管されており、ヒカゲによるとあくまでも観光客を楽しませるだけの乗物らしく、普段は使用できないという。理由としては機関車が噴き出す煙を住民は嫌がり、特に獣人族や森人族が不快感を示すらしい。


「それにしても人が多いですね。あ、あそこは鰻屋ですか!?少し寄っていきません?」
「いいけど……お金は帝国の通貨で大丈夫かな?」
「問題ない。日の国は帝国の通貨で統一されている」


支払いは日本らしく小判の類ではないかとルノは不安を抱くが、ヒカゲの話によると日の国の通貨は帝国の通貨を流通しているらしく、3人は店の中に入る。昼時なので客は非常に多かったが、まだ5人分の席が空いていた。


「らっしゃい!!お、もしかしてそこにいるのはヒカゲさんかい?久しぶりだね」
「ヒカゲさん、忍者なのに顔が広すぎません?」
「むうっ……仮面でもしてくるべきだった」


ヒカゲは忍者にも関わらずに日の国でも有名人らしく、店員が3人を席に案内すると即座に鰻の蒲焼を運ぶ。正真正銘の鰻で間違いないのだが、ルノとリーリスがしっている鰻よりもかなり大きかった。


「お待たせしました!!鰻の蒲焼3人前で~す!!」
「いや、大き過ぎません?なんですかこのサイズ……」
「でかい……普通の鰻の3倍ぐらい大きくない?」
「そう?むしろ、普通よりも小さいほうだと思う」


机に並べられた巨大な鰻にルノとリーリスは戸惑うが、ヒカゲは気にした風もなく食事を始める。どうして元の地球の世界の鰻よりも大きいのかとルノは疑問を抱くと、リーリスが考察を行う。


「もしかしてですけど、地球の環境と違うから鰻の生態が変化して大きくなったのかも知れません」
「え?そんな事ってあるの?」
「さあ……私も自分で言っておいてなんですけど自信はありません。あ、でも味は間違いなく鰻ですよ」


恐る恐る巨大鰻を味わうと、どうやら味その物は鰻で間違いなく、ルノとリーリスは久しぶりの地球の食べ物を味わった。



※申し訳ありませんが明日は投稿は休ませてもらいます。母の具合が良くなったら投稿を再開します。
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