上 下
84 / 657
冒険者編

いざ、日の国へ

しおりを挟む
――無事に隠れ里に帰還した捕縛した魔王軍と思われる少女をヒカゲに引き渡し、一先ずは里に存在する牢屋に閉じ込める。精霊魔法を利用して逃走する可能性もあるため、少女には常に監視を付け、念のためにルノも連れ出してきたイチ、ニイ、サンにも見張りを任せる。


「頼んだよ皆、もしも逃げようとしたら引き留めてね」
「ウォンッ!!」
「後で餌も持ってきますよ~」
「クゥンッ」
「まあ、ここはあたしに任せな」


牢屋の中に黒狼の子供達も待機させ、更に副頭領が見張りを行う。彼女以外にも複数人の忍者が待機しており、牢屋の中で鎖で四肢を拘束された少女が横たわり、一先ずは目を覚ますまで放置する事にした。


「リディアの時みたいにまた魔物が連れ去ろうとしないかな?」
「大丈夫、この里の人間は全員が感知系のスキルを習得してる。だから魔物が近づいてきても必ず気付く」
「もしもこいつが逃げようとしたら、悪いけどその時はうちで処理させて貰うよ。それとずっと目を覚まさないようなら無理やりに起こしてあたしらが尋問するからね」
「その辺は全部任せます。本当は帝国に連れ帰りたいですけど、大分離れてしまったんで簡単には戻れないんですよ」


帝都の日の国はルノの氷車でも移動するのに半日はかかる距離が存在するため、引き返すにしても時間が掛かる。そのため、ここは日影の里の人間に任せ、ルノとリーリスは予定通りに日の国に向かう事にした。


「じゃあ、私達は予定通りに日の国に行きましょうか。楽しみですね~寿司、天ぷら、芸者!!」
「いいのかな……こんな時に観光なんて」
「今の私達は有給で旅行しているようなもんですよ。だから今のうちに楽しみましょう。それにルノさんも日の国が気になっているんでしょう」
「それはそうだけど……」


過去に転移した地球の人間が作り出した日の国はルノも興味があり、現在の日影の隠れ里も日本の田舎を想像させるが、日の国は更に文化が発展しているらしい。少女の事は日影の里の人間に任せ、ルノ達はヒカゲの案内の元で日の国に向かう事にした。


「じゃあ、出発する。私の馬車で向かう」
「ルウさんじゃいけないんですか?」
「ここの里は魔獣を育てているけど、日の国では魔獣は育てていない。住民が怯えるから駄目」
「じゃあ、ミノも連れていけないんですか?」
「ブモォッ……」


ヒカゲの説明によると日の国では日影の里と違い、魔獣を育てる事はなく、普通の動物しか生息していないという。だからこそルウやミノを連れて移動すると目立つため、彼女が用意した馬車で向かう。


「辿り着くまでに簡単に日の国の説明もする。二人は日の国がどんな場所か知ってる?」
「いえ、あんまり……」
「私も噂ぐらいしか聞いた事がありませんね。でも、確か侍と呼ばれる特別な剣士の職業の人がいっぱいいるんでしょう?」
「そう。だけど、侍と言っても昔と比べると数が減ってる。それに良い人ばかりじゃない、中には乱暴者もいる。だから私から離れないようにして」


馬車に乗り込んだルノとリーリスにヒカゲは注意を施し、決して自分の傍から離れないように忠告する。また、日の国の決まり事も伝える。


「日の国では法律で魔法を使う事が禁止されている。だから間違っても魔法は使っちゃ駄目」
「え?何でですか?」
「日の国に住む人間の殆どは魔法を使う事が出来ない。だから魔法よりも武芸を重んじている」
「あれ?そうなんですか?でもヒカゲさんは普通に使ってますよね」
「忍者は闇属性の魔法だけを使う事は許されている。だけど、観光客だろうと日の国に訪れた人間は魔法が禁止されてるから気を付けて」
「ですってルノさん」
「魔法が禁止か……まあ、別に問題ないかな」


予想外の日の国の法律にルノとリーリスは驚くが、特に二人に不満はない。別に魔法を使わずとも観光する事は可能であり、要は地球に居た時のように過ごせばいいだけだと判断する。だが、ヒカゲはそんな二人に念入りに注意を施す。


「もしも態度が悪い人間に絡まれても、魔法で追い払う事は駄目。その時は私に声を掛ければいい。それと、日の国には青色の袴を纏った侍がいるから、特にこの人達と関わっちゃいけない」
「青色の袴?」
「日の国の警備隊を任されている「青空組」と呼ばれている偉いお侍さん。この人達は日の国の治安を守る役目を与えられているから、無暗に関わらないように気を付けて」
「新選組みたいな感じですかね」
「治安を守るというのなら警察じゃない?」


ヒカゲの説明では日の国には青空組と呼ばれる組織が存在し、問題事が起きれば彼等を呼び出して解決するのが当たり前らしく、決して彼等に怪しまれるような行動を取らないように気を付けなければならない。


「その青空組の人達と日影はどちらが偉いんですか?」
「……任されている役目が違うだけで立場に違いはない。だけど、青空組の人たちが民衆から好かれているのは確か」
「ありゃりゃっ……」


リーリスの質問に珍しくヒカゲが拗ねたように返答し、どうやら青空組と日影の関係は複雑らしい。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

断腸の思いで王家に差し出した孫娘が婚約破棄されて帰ってきた

兎屋亀吉
恋愛
ある日王家主催のパーティに行くといって出かけた孫娘のエリカが泣きながら帰ってきた。買ったばかりのドレスは真っ赤なワインで汚され、左頬は腫れていた。話を聞くと王子に婚約を破棄され、取り巻きたちに酷いことをされたという。許せん。戦じゃ。この命燃え尽きようとも、必ずや王家を滅ぼしてみせようぞ。

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

ハズレスキル【収納】のせいで実家を追放されたが、全てを収納できるチートスキルでした。今更土下座してももう遅い

平山和人
ファンタジー
侯爵家の三男であるカイトが成人の儀で授けられたスキルは【収納】であった。アイテムボックスの下位互換だと、家族からも見放され、カイトは家を追放されることになった。 ダンジョンをさまよい、魔物に襲われ死ぬと思われた時、カイトは【収納】の真の力に気づく。【収納】は魔物や魔法を吸収し、さらには異世界の飲食物を取り寄せることができるチートスキルであったのだ。 かくして自由になったカイトは世界中を自由気ままに旅することになった。一方、カイトの家族は彼の活躍を耳にしてカイトに戻ってくるように土下座してくるがもう遅い。

放置された公爵令嬢が幸せになるまで

こうじ
ファンタジー
アイネス・カンラダは物心ついた時から家族に放置されていた。両親の顔も知らないし兄や妹がいる事は知っているが顔も話した事もない。ずっと離れで暮らし自分の事は自分でやっている。そんな日々を過ごしていた彼女が幸せになる話。

レンタル従魔始めました!

よっしぃ
ファンタジー
「従魔のレンタルはじめました!」 僕の名前はロキュス・エルメリンス。10歳の時に教会で祝福を受け、【テイム】と言うスキルを得ました。 そのまま【テイマー】と言うジョブに。 最初の内はテイムできる魔物・魔獣は1体のみ。 それも比較的無害と言われる小さなスライム(大きなスライムは凶悪過ぎてSランク指定)ぐらいしかテイムできず、レベルの低いうちは、役立たずランキングで常に一桁の常連のジョブです。 そんな僕がどうやって従魔のレンタルを始めたか、ですか? そのうち分かりますよ、そのうち・・・・

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

クラス転移したからクラスの奴に復讐します

wrath
ファンタジー
俺こと灞熾蘑 煌羈はクラスでいじめられていた。 ある日、突然クラスが光輝き俺のいる3年1組は異世界へと召喚されることになった。 だが、俺はそこへ転移する前に神様にお呼ばれし……。 クラスの奴らよりも強くなった俺はクラスの奴らに復讐します。 まだまだ未熟者なので誤字脱字が多いと思いますが長〜い目で見守ってください。 閑話の時系列がおかしいんじゃない?やこの漢字間違ってるよね?など、ところどころにおかしい点がありましたら気軽にコメントで教えてください。 追伸、 雫ストーリーを別で作りました。雫が亡くなる瞬間の心情や死んだ後の天国でのお話を書いてます。 気になった方は是非読んでみてください。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。