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冒険者編

久しぶりの和食

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――日影の隠れ里に到着してから翌日、ルノ達はヒカゲが住んでいる屋敷にて宿泊する(ちなみに彼等が最初に案内された屋敷は本来は訓練用の建物らしく、本来の頭領の屋敷は別に存在する)。朝食の際に二人は久しぶりに和食を味わっていた。


「ああ、美味い……この味噌汁なら毎日でも味わえる」
「そのいい方だと料理してくれた方に告白しているようにも聞こえますよ。それにしてもまさかヒカゲさんが日影の頭領だったとは……普段は城内では仕事以外の時間は裏庭で昼寝しているのに」
「能ある鷹は爪を隠す、という奴かな」
「なるほど、私と一緒ですか」
「リーリスの場合は隠してないと思う」


朝食に用意された納豆をすすりながらリーリスは白米を味わう。米類に関しては帝国でも流通しているが、帝国産の物よりも日の国で生産されている米の方が質が良く、リーリスも満足そうに頷く。


「あ、本当に美味しいですね。帝国産のお米はちょっと地球の物と比べると味が悪いですからね……」
「肉とかの食材は美味しいんだけどね。やっぱり、日本人なら朝は美味しいお米のご飯が一番だね」
「私、どちらかというとパン派でしたけど……」
「表出ろやっ」
「なんでですかっ!!別に良いじゃないですかパンでもっ!?」
「まあ、俺も急いでいるときはパンだったけどね」
「食事を楽しんでくれているようで嬉しい」


朝食を堪能している二人の元にヒカゲが現れ、彼女は昨日のような仕事着ではなく、赤色の着物を着込んでいた。そして手元には大量の大福を乗せた皿を持っており、二人の前に差し出す。


「おやつも持ってきた」
「おお、大福ですか!!実は私の好物ですよ!!」
「いただきます」


こちらの世界では滅多に味わえない食べ物に二人は歓喜の声を上げ、朝食を急いで終わらせると大福を味わう。こちらの世界には甘味の食べ物は少なく、果物ぐらいしか存在しない。


「う~んっ……最高ですね」
「まさかこっちの世界で大福を味わえるなんて……感動だな」
「そんなに急いで食べると喉を詰まらせる。お茶も飲んで」


ヒカゲがお茶を差し出すと、二人はお礼を告げて緑茶を飲み込む。久しぶりに和食を味わえて二人も満足し、やがて皿の上の大福を食い尽くすと二人は満足したように身体を横にする。


「ふうっ……これだけの食事を味わえただけでも満足でしたね。もうここに住みたいぐらいですよ」
「俺もだよ……もう冒険者を辞めてここに移住しようかな」
「それは嬉しい。二人とも歓迎する」


冗談交じりとはいえ、二人の言葉にヒカゲは嬉しそうに応えると、そんな3人の前に慌てた様子の使用人が部屋の中に入り込んできた。


「ひ、ヒカゲ様!!大変です!!」
「……どうしたの?」
「森の巡回を行う部隊からの報告です!!森の中にて得体の知れぬ魔物が現れたと言っております!!」
「魔物?」


唐突に許可もなく入り込んできた使用人にヒカゲは眉を顰めるが、彼の報告を聞いたルノは身体を起き上げ、リーリスも興味を抱いたのか使用人の男性に尋ねる。


「その魔物というのは私達が連れてきたルウさん達の事じゃないんですよね?」
「いえ、お客人の同行した魔獣は我等の方で面倒を見ています。しかし、森の中に現れた魔物というのがどうやら魔人族の類のようでして……」
「外見はどんな感じ?」
「サイクロプスのように鱗で覆われ、それでいながら竜種のような顔面をした二足歩行の生物との事です!!」
「え?それって……」
「あの蜥蜴人間の事じゃないですか?」


少し前にエルフ王国との会談の際、帝国側の移送部隊を襲撃した魔王軍の「ガイア」の顔がルノとリーリスの頭に思い浮かび、ヒカゲは即座に自分の着物に手を伸ばし、その場で脱ぎ去ると着物の内側からいつも通りの黒装束が露わになった。


「仕方ない……私が確認してくる。二人はここに居て」
「いえいえ、そういう訳にはいきませんよ。私達も付いていきますよ」
「あいつだったらこの里の人たちが危ないからな……」
「そう?」


自ら出向いて問題解決しようとするヒカゲに対し、ルノとリーリスも同行する事を告げる。仮に森の中に現れた魔人族が二人の知っているガイアだった場合、ヒカゲとは相性が悪いかもしれない。彼女の能力は存在感を限りなく消して身体を透明化させる「擬態」と呼ばれる能力であり、戦闘では相手に自分の姿を認識させずに接近し、不意打ちで仕留めるという忍者というよりは暗殺者らしい優れた能力だが、全身が金属の鎧を想像させる鱗で覆われたガイアには生半可な攻撃は通用しない。

ルノでさえもガイアと遭遇した時は傷を負わされており、しかも彼の血液を得たガイアは力を増した事から他の生物の血液を吸い上げて肉体を強化する能力も所持している可能性も高い。ヒカゲを心配したルノとリーリスは準備を整えると、彼女と共に報告のため帰還した巡回部隊の元に向かう。
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