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冒険者編
副頭領
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『お邪魔しました』
「くしゅんっ!!ひっくしゅんっ!!く、くそっ……へっくしゅんっ!!」
『大丈夫ですか?』
老婆を抱えたルノは建物の外に抜け出し、彼女を下す。室内から溢れる煙から十分に離れると氷鎧を解除し、彼女の様子を伺う。煙から離れたお陰なのか大分くしゃみと咳も収まり、彼女は武器を地面に手放して大きなため息を吐き出す。
「はあっ……くそ、まさかこんなガキにやられるなんてね」
『ルノさ~ん!!大丈夫ですか~?』
「うん、大丈夫……誰だお前はっ!?」
『いや、私ですよ』
リーリスの声が聞こえてルノは振り返ると、彼女はガスマスクを想像させる仮面を身に着けており、背後に存在するヒカゲも覆面をした状態で近づいてくる。最初は得体の知れない敵かとルノは身構えてしまうが、二人は両手を上げて説明する。
『いやいや、私達ですよ。これは私が開発した防護マスクです。砂嵐に教われようとも大丈夫な優れものです』
「何だ、びっくりした……というか、そんな物を何処から取りだしたの?」
『その辺は気にしないで下さい。それにしても誰ですかこの人は?急に襲い掛かるなんて……』
「悪かったね、あたしの名前はハットリだよ。一応はこの日影の里を任されている副頭領さ」
老婆は身体を起き上げ、身体に纏わりついた砂を振り払い、自己紹介を行う。副頭領という言葉にルノは驚く一方、いつの間にか彼女の体に大量の砂がこびり付いている事に気付き、不思議に思って扉の内部から舞い散っている煙の正体が「砂煙」である事を知る。
『どうやら中にばらまかれたのはサンドワームが作り出す砂塵のようですね。普通の砂よりも粒子が細かくて鼻や口に入ると咳やくしゃみが止まらないようです』
「へえっ……よくわかったね。只の付き添いの人間という訳でもなさそうだね」
「ハットリ、急に襲い掛かるのは無礼」
「悪いね頭領、だけどあたしもS級冒険者の一人として新人の実力を確かめたかったのさ」
『頭領?』
副頭領と紹介されたハットリはヒカゲの言葉に頭を下げるが、ルノとリーリスは彼女の言葉に疑問を抱き、ヒカゲは二人に振り返って説明を行う。
「……実は二人に隠していた事がある。さっきは私はこの里の幹部と説明していたけど、実は違う」
「という事は……」
「そう、私が日影の頭領を務めている」
『ええええええっ!?』
「何だい、言ってなかったのかい?」
予想外すぎるヒカゲの言葉にルノとリーリスは驚愕し、その一方でハットリも二人がヒカゲの正体を知らなかった事に意外そうな表情を浮かべる。
――日の国の「日影」を統括する立場にある頭領の正体は「ヒカゲ」であり、彼女の本来の名前は別にあるが、代々の頭領は名前を「ヒカゲ」と改名する習わしが存在する。ちなみに先代の頭領に関しては既に死去しており、ハットリは先々代の頃から副頭領を任されている優秀な忍びだった。
どうしてヒカゲが頭領でありながら日の国を離れ、帝国の将軍を行っているのかというと、それは日影という組織を経営するには帝国の存在が重要だからである。日影はその優秀さ故に世界から恐れられており、中には敵対意識を持つ人間も少なくはない。そのような輩から自分達の実を守るため、日影は帝国から多額の援助金を受け取っている。
残念な事に日影は昔と比べると里の人口も減り、年月が経つ事に彼等意外の諜報組織も結成され、商売敵が増え続けている。そのために日影は帝国との関係をより深め、援助してもらう代わりに頭領であるヒカゲが帝国に滞在し、将軍として彼等に報いているという。
「なるほど、そういう事情があったんですね。どうりでヒカゲさんだけが将軍の中でも浮いていると思いましたよ」
「その事は自覚している。だけど、リーリスにだけは言われたくない」
「全くだよ」
説明を受けたルノとリーリスは今度こそ安全な建物の中に案内され、ヒカゲとハットリから日影という組織の説明を受ける。ちなみにヒカゲが頭領である事は里の人間ならば誰もが知っており、そもそも里の中では「ヒカゲ」の名前を受け継ぐ事が許されたのは頭領だけであり、彼女の名前を知らない者はいない。
「まさかヒカゲさんの名前にそんな秘密が隠されているとは驚きですね。まあ、ここに来た時から薄々と怪しいとは思っていましたけど」
「ちなみに私の本名はマイ……もしも私が頭領の座を辞めたらこの名前を名乗れる」
「マイ……舞?」
「日本人っぽい名前ですよね。まあ、日の国の方々は元々は日本人の子孫なので、日本風の名前を付けられてもおかしくはないんじゃないですか?」
ルノとリーリスが日影の里に訪れたのはあくまでも偶然だが、ヒカゲの正体と彼女が統括する組織の正体を知り、更に4人目のS級冒険者の依頼を果たす。
「くしゅんっ!!ひっくしゅんっ!!く、くそっ……へっくしゅんっ!!」
『大丈夫ですか?』
老婆を抱えたルノは建物の外に抜け出し、彼女を下す。室内から溢れる煙から十分に離れると氷鎧を解除し、彼女の様子を伺う。煙から離れたお陰なのか大分くしゃみと咳も収まり、彼女は武器を地面に手放して大きなため息を吐き出す。
「はあっ……くそ、まさかこんなガキにやられるなんてね」
『ルノさ~ん!!大丈夫ですか~?』
「うん、大丈夫……誰だお前はっ!?」
『いや、私ですよ』
リーリスの声が聞こえてルノは振り返ると、彼女はガスマスクを想像させる仮面を身に着けており、背後に存在するヒカゲも覆面をした状態で近づいてくる。最初は得体の知れない敵かとルノは身構えてしまうが、二人は両手を上げて説明する。
『いやいや、私達ですよ。これは私が開発した防護マスクです。砂嵐に教われようとも大丈夫な優れものです』
「何だ、びっくりした……というか、そんな物を何処から取りだしたの?」
『その辺は気にしないで下さい。それにしても誰ですかこの人は?急に襲い掛かるなんて……』
「悪かったね、あたしの名前はハットリだよ。一応はこの日影の里を任されている副頭領さ」
老婆は身体を起き上げ、身体に纏わりついた砂を振り払い、自己紹介を行う。副頭領という言葉にルノは驚く一方、いつの間にか彼女の体に大量の砂がこびり付いている事に気付き、不思議に思って扉の内部から舞い散っている煙の正体が「砂煙」である事を知る。
『どうやら中にばらまかれたのはサンドワームが作り出す砂塵のようですね。普通の砂よりも粒子が細かくて鼻や口に入ると咳やくしゃみが止まらないようです』
「へえっ……よくわかったね。只の付き添いの人間という訳でもなさそうだね」
「ハットリ、急に襲い掛かるのは無礼」
「悪いね頭領、だけどあたしもS級冒険者の一人として新人の実力を確かめたかったのさ」
『頭領?』
副頭領と紹介されたハットリはヒカゲの言葉に頭を下げるが、ルノとリーリスは彼女の言葉に疑問を抱き、ヒカゲは二人に振り返って説明を行う。
「……実は二人に隠していた事がある。さっきは私はこの里の幹部と説明していたけど、実は違う」
「という事は……」
「そう、私が日影の頭領を務めている」
『ええええええっ!?』
「何だい、言ってなかったのかい?」
予想外すぎるヒカゲの言葉にルノとリーリスは驚愕し、その一方でハットリも二人がヒカゲの正体を知らなかった事に意外そうな表情を浮かべる。
――日の国の「日影」を統括する立場にある頭領の正体は「ヒカゲ」であり、彼女の本来の名前は別にあるが、代々の頭領は名前を「ヒカゲ」と改名する習わしが存在する。ちなみに先代の頭領に関しては既に死去しており、ハットリは先々代の頃から副頭領を任されている優秀な忍びだった。
どうしてヒカゲが頭領でありながら日の国を離れ、帝国の将軍を行っているのかというと、それは日影という組織を経営するには帝国の存在が重要だからである。日影はその優秀さ故に世界から恐れられており、中には敵対意識を持つ人間も少なくはない。そのような輩から自分達の実を守るため、日影は帝国から多額の援助金を受け取っている。
残念な事に日影は昔と比べると里の人口も減り、年月が経つ事に彼等意外の諜報組織も結成され、商売敵が増え続けている。そのために日影は帝国との関係をより深め、援助してもらう代わりに頭領であるヒカゲが帝国に滞在し、将軍として彼等に報いているという。
「なるほど、そういう事情があったんですね。どうりでヒカゲさんだけが将軍の中でも浮いていると思いましたよ」
「その事は自覚している。だけど、リーリスにだけは言われたくない」
「全くだよ」
説明を受けたルノとリーリスは今度こそ安全な建物の中に案内され、ヒカゲとハットリから日影という組織の説明を受ける。ちなみにヒカゲが頭領である事は里の人間ならば誰もが知っており、そもそも里の中では「ヒカゲ」の名前を受け継ぐ事が許されたのは頭領だけであり、彼女の名前を知らない者はいない。
「まさかヒカゲさんの名前にそんな秘密が隠されているとは驚きですね。まあ、ここに来た時から薄々と怪しいとは思っていましたけど」
「ちなみに私の本名はマイ……もしも私が頭領の座を辞めたらこの名前を名乗れる」
「マイ……舞?」
「日本人っぽい名前ですよね。まあ、日の国の方々は元々は日本人の子孫なので、日本風の名前を付けられてもおかしくはないんじゃないですか?」
ルノとリーリスが日影の里に訪れたのはあくまでも偶然だが、ヒカゲの正体と彼女が統括する組織の正体を知り、更に4人目のS級冒険者の依頼を果たす。
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