最弱職の初級魔術師 初級魔法を極めたらいつの間にか「千の魔術師」と呼ばれていました。

カタナヅキ

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冒険者編

日影の頭領

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「それにしてものどかな場所ですね。というか、気になってたんですけどここはどうやって魔物から守っているんですか?普通の街は外壁で周囲を取り囲んで結界石と腐敗石を設置しているはずなのに、この村には外部からの侵入を拒む柵すらないじゃないですか」
「定期的に森の中を巡回して魔物の討伐を行っている。見張り役の魔獣も飼育しているから、この里には近づこうとする存在はすぐに気づく」
「ああ、そういえば牙馬も見かけますね」
「牙馬?」
「あれの事ですよ。馬型の魔獣と言えばいいですかね」


リーリスが指さした先には馬小屋の中で身体を休ませる竜種のように獰猛な顔面をした四足歩行の生物が存在した。外見は馬と竜種を組み合わせたような生物であり、こちらの世界では馬型の魔獣として認識されている「牙馬」と呼ばれる魔物だと説明する。外見は恐ろしいが、非常に温厚な性格なので飼育する事も可能であり、上手く調教すれば番犬ならぬ番馬として優秀な魔獣らしい。


「牙馬は普通の馬よりも足も速いし、力も強いから家畜の中でも非常に人気が高い種なんですよ。だからこの里の子供達は牙馬を見慣れているからルウさん達を怖がらないんですね」
「そう。他にも色々といる」
「それにしても貴重な牙馬をここまで大量に飼育しているとは……でも、この子達って普通の馬と違って肉食のはずですけど、どうやって育てているんです?」
「日の国には牧場がある。そこで餌用のギュウモも育てているから、定期的に食料を送ってもらっている」
「ギュウモ?」
「牛型の魔獣ですよ。食用として人気が高い魔獣ですけど、主に人間用ではなく家畜用として育てられる事が多いです」


ヒカゲによると日の国には広大な牧場が存在し、そこで牙馬や他の魔獣の餌として家畜を育てているらしい。そのお陰で日の国と日影の隠れ里には大量の魔獣を飼育しており、外部からの敵の侵入を防いでいるという。


「二人とも、今日はここに泊まる。日の国には明日案内する」
「え?いや、別にいいですよ。このまま私達は日の国に向かいますから……」
「駄目、実は頭領が二人に会いたがってる。今日は歓迎の宴を開くから残ってほしい」
「頭領?」
「この里を収める一番偉い人……忍頭とも言われている」


日影を統括する人物が自分達に会いたがっているという言葉にルノは疑問を抱き、どうして自分達のために歓迎の宴まで行ってくれるのか問い質そうとすると、先にヒカゲが答える。


「二人は帝国の中でも重要人物……このまま何もしないで帰すわけにはいかない。だから頭領は直接会って話をしたいと言ってる」
「まあ、歓迎してくれるのなら有難いんですけど……その頭領という人はどういう人なんですか?」
「頭領は優しい人……だけど、この里の中で一番強いから怒らせると凄く怖い。それと二人が探しているS級冒険者の1人でもある」
「えっ!?」


予想外の言葉にルノはリーリスに顔を向け、彼女は慌てて首を振り、依頼書の中にはそのような情報は記されていなかった。そもそも残りの依頼人の二人は獣人国に存在するはずであり、依頼書に記されている内容には日の国に滞在しているなど記されていない。


「ちょっと待ってくださいよ。私が預かっている依頼書には日の国に住んでいる冒険者なんて記されていませんよ?人違いじゃないですか?」
「頭領は表向きはS級冒険者として活躍している冒険者として過ごしている。だけど、裏ではギルドを通じて色々とな情報を探っている……だから本当は獣人国で出迎えるはずだったけど、二人がここに来てくれたから予定を変更して今日会う事にした」
「ええっ……」


リーリスが取り出した依頼書の一枚をヒカゲが抜き取り、彼女の話では偶然にもルノとリーリスは次の依頼人が本拠地としている場所に尋ねてきたらしく、このまま頭領が住んでいるという屋敷に向かう。


「その頭領さんというのはどういう人なんですか?」
「さっきも言ったように優しい人、だけど起こると凄く怖い」
「いや、外見の事を聞いているんですけど……」
「見えた。あの屋敷にいる」
「おおっ」


話している間にも目的地が間近に迫っていたらしく、ヒカゲが指差す方向には屋敷というよりも神社を想像させる形状の大きな建物が存在し、既に頭領は二人を待ち構えているらしく、ルウ達をヒカゲに任せて二人は扉を潜り抜ける。


「お邪魔しま~す……あれ、誰もいない?」
「おかしいですね、ヒカゲさんは中で待っていると言ってたはずですけど……」


中に入った二人は待ち構えているはずの頭領の姿が見当たらず、殺風景な広間には誰の姿も見当たらなかった。存在するのは奥の方で飾られている大きな鎧と兜だけであり、それを目撃したルノは何処かで見覚えがある代物だと気づき、すぐに大臣が装備していた「鬼武者」と呼ばれる神器と同じ姿形をした鎧である事に気付いた


「あれ、これって大臣が来ていた鎧じゃないの?」
「え?あ、本当ですね!!これ、あの豚大臣が王国の宝物庫から引っ張り出した鎧じゃないですか」
「正確にはそれは鬼武者二式……王国に管理されている鬼武者の模造品」
「うわっ!!びっくりした!?」


背後から声を掛けられ、二人は振り向くとそこには屋敷の前で分かれたはずのヒカゲの姿があり、彼女は3人分の座布団を用意していた。
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