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冒険者編
日影の隠れ里
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「この人たちは私の客……失礼な真似は許さない」
『はっ!!』
「……ヒカゲさんは偉い人なの?」
「さあ……この人に事に関しては私もあんまり知らないんですよね。まあ、女性同士ですから他の四天王の中でもよく話す方ですが」
「そんなに大したものじゃない」
ヒカゲの指示に忍者達が森の中に姿を消し、彼女の案内でルノ達は森の中を移動する。日の国の忍者は「日影」と呼ばれるらしく、彼等は日の国の近くに存在する森の中に里を作りだし、暮らしているという。
「ここからは徒歩で移動する。馬車はこの娘達に任せて先に行く」
『はっ!!』
馬車からルノ達が降りると、尾行していたのか周囲の木陰から女性の忍者が再び現れ、馬車を彼女達に預ける。ルウの事も彼女に任せ、ルノ達はイチ、ニイ、サンとミノを連れて日影の先導で森の中を突き進む。
「あの、この人たちは何なんですか?くの一?」
「くの一の事を知っている?珍しい……でも、この娘たちは只の見習い、森の中の警備を任されている新米」
「新米……」
「全然気配とか感じませんでしたけど、あれで新米なんですか?」
「全員が新米でもない。付き添いの指導者もいる」
森の巡回は主に新米の忍者が行わされるらしく、彼女達の殆どは未だに訓練を受けている半人前の忍者らしい。それでも普通の人間よりも高レベルで感知系の能力を持つリーリスやルノさえも気づかず、嗅覚が鋭いルウが気付かなければあのまま森の中を進んでいただろう。
「ヒカゲさんはこの日の国の出身だったんですね。もしかしてさっきの人たちの態度を見ると、実はお偉いさんだったりするんですか?」
「そうでもない。私の家は普通……だけど、忍者の世界は実力が重視される。私は日の国の殿様の側近として仕えていたから、それなりに有名。今日は指導者として仕事を引き受けていた」
「殿様?」
「日の国の85代目のダイチ様の事ですね。私も名前ぐらいしか聞いた事がないですけど」
「ダイチ……」
「客人、いくら異国の方とは言え、我等が殿を呼び捨てにするのはお辞め頂きたい」
ルノの呟きに即座に周囲の女性忍者が敵意を剥き出しにするが、そんな彼女達にヒカゲは叱りつける。
「貴方達も態度を改めた方が良い……この人は帝国の英雄、初級魔術師のルノ」
「ルノ……!?あの噂の……」
「たった一人で王城に乗り込んで四天王を打ち倒したという……!?」
「こ、これは失礼しました!!」
「あ、いえ……こちらもすいません」
ヒカゲの言葉に慌てて彼女達は平伏し、この地方でもルノの名前は知れ渡っているらしく、帝国の重要人物である彼の気分を損ねる訳にはいかない。そして話している間にも目的地である隠れ里に到着した。
「ここが日影の隠れ里……ゆっくりしていくといい」
「おお~」
「日本のど田舎ですね」
リーリスの言葉通り、ルノの視界には地球の日本の田舎を想像させる光景が広がる。最初に視界に入ったのは田んぼであり、藁の屋根の建物が存在した。住んでいる人間も普通の衣服ではなく着物を纏っており、中には人間以外の種族もちらほらと見える。
田舎というよりは過去の日本にタイムスリップしたような光景が広がり、ルノとリーリスは時代が違うとはいえ、元の世界に戻ってきたかのような感覚を味わいながら里の中に入る。住民はルウやミノを見ても特に驚く様子はなく、子供の何人かが興味を抱いたように近づいてきた。
「ヒカゲ様、お帰り~!!」
「あれ~?その人達は誰?」
「ただいま……この人達は私のお客さん」
「わあ~!!おっきい犬さんだぁっ!!」
「ウォンッ」
「クゥ~ンッ……」
子供達がルウやイチ達の前に集まり、嬉しそうに彼等の身体に抱き着く。帝国の民は大人でもルウ達を見ると恐怖するのだが、この里の子供達は臆せずに魔獣であるルウ達に懐く。その光景にルノはヒカゲに振り返ると、彼女は何事もないように告げる。
「この里にも色々な魔獣を飼育している。この里の人間は子供の頃から魔獣と触れ合って生きている」
「なるほど、だから怖がらないんですね」
「ペロペロ……」
「あはは、くすぐった~い」
ルウ達もルノの教育のお陰で人間を無暗に襲わないように調教されており、群がる子供達を嘗め回す。ミノに対しても興味を抱いた男の子が彼を見上げ、魔人族でありながらその筋骨隆々とした肉体に感動したように尊敬の眼差しを向けていた。
「おおっ!!筋肉ムキムキだ……格好いい!!」
「ブモォッ!!」
意外とコミュニケーション能力が高いのか、男の子に対してミノは両腕の力瘤を見せつけ、ボディービルダーのようにポーズを取る。その光景を後目にルノは自分にも視線を向けている少女が居る事に気付き、顔を向けると彼女は小さな袋を差し出す。
「あげる」
「え、あ、ありがとう……」
「外の人には優しくしろとお母さんに言われた……私もその子達と遊んでいい?」
「いいよ」
少女から渡された小袋をルノは受け取り、中身はドングリを想像させる木の実が入っていた。
『はっ!!』
「……ヒカゲさんは偉い人なの?」
「さあ……この人に事に関しては私もあんまり知らないんですよね。まあ、女性同士ですから他の四天王の中でもよく話す方ですが」
「そんなに大したものじゃない」
ヒカゲの指示に忍者達が森の中に姿を消し、彼女の案内でルノ達は森の中を移動する。日の国の忍者は「日影」と呼ばれるらしく、彼等は日の国の近くに存在する森の中に里を作りだし、暮らしているという。
「ここからは徒歩で移動する。馬車はこの娘達に任せて先に行く」
『はっ!!』
馬車からルノ達が降りると、尾行していたのか周囲の木陰から女性の忍者が再び現れ、馬車を彼女達に預ける。ルウの事も彼女に任せ、ルノ達はイチ、ニイ、サンとミノを連れて日影の先導で森の中を突き進む。
「あの、この人たちは何なんですか?くの一?」
「くの一の事を知っている?珍しい……でも、この娘たちは只の見習い、森の中の警備を任されている新米」
「新米……」
「全然気配とか感じませんでしたけど、あれで新米なんですか?」
「全員が新米でもない。付き添いの指導者もいる」
森の巡回は主に新米の忍者が行わされるらしく、彼女達の殆どは未だに訓練を受けている半人前の忍者らしい。それでも普通の人間よりも高レベルで感知系の能力を持つリーリスやルノさえも気づかず、嗅覚が鋭いルウが気付かなければあのまま森の中を進んでいただろう。
「ヒカゲさんはこの日の国の出身だったんですね。もしかしてさっきの人たちの態度を見ると、実はお偉いさんだったりするんですか?」
「そうでもない。私の家は普通……だけど、忍者の世界は実力が重視される。私は日の国の殿様の側近として仕えていたから、それなりに有名。今日は指導者として仕事を引き受けていた」
「殿様?」
「日の国の85代目のダイチ様の事ですね。私も名前ぐらいしか聞いた事がないですけど」
「ダイチ……」
「客人、いくら異国の方とは言え、我等が殿を呼び捨てにするのはお辞め頂きたい」
ルノの呟きに即座に周囲の女性忍者が敵意を剥き出しにするが、そんな彼女達にヒカゲは叱りつける。
「貴方達も態度を改めた方が良い……この人は帝国の英雄、初級魔術師のルノ」
「ルノ……!?あの噂の……」
「たった一人で王城に乗り込んで四天王を打ち倒したという……!?」
「こ、これは失礼しました!!」
「あ、いえ……こちらもすいません」
ヒカゲの言葉に慌てて彼女達は平伏し、この地方でもルノの名前は知れ渡っているらしく、帝国の重要人物である彼の気分を損ねる訳にはいかない。そして話している間にも目的地である隠れ里に到着した。
「ここが日影の隠れ里……ゆっくりしていくといい」
「おお~」
「日本のど田舎ですね」
リーリスの言葉通り、ルノの視界には地球の日本の田舎を想像させる光景が広がる。最初に視界に入ったのは田んぼであり、藁の屋根の建物が存在した。住んでいる人間も普通の衣服ではなく着物を纏っており、中には人間以外の種族もちらほらと見える。
田舎というよりは過去の日本にタイムスリップしたような光景が広がり、ルノとリーリスは時代が違うとはいえ、元の世界に戻ってきたかのような感覚を味わいながら里の中に入る。住民はルウやミノを見ても特に驚く様子はなく、子供の何人かが興味を抱いたように近づいてきた。
「ヒカゲ様、お帰り~!!」
「あれ~?その人達は誰?」
「ただいま……この人達は私のお客さん」
「わあ~!!おっきい犬さんだぁっ!!」
「ウォンッ」
「クゥ~ンッ……」
子供達がルウやイチ達の前に集まり、嬉しそうに彼等の身体に抱き着く。帝国の民は大人でもルウ達を見ると恐怖するのだが、この里の子供達は臆せずに魔獣であるルウ達に懐く。その光景にルノはヒカゲに振り返ると、彼女は何事もないように告げる。
「この里にも色々な魔獣を飼育している。この里の人間は子供の頃から魔獣と触れ合って生きている」
「なるほど、だから怖がらないんですね」
「ペロペロ……」
「あはは、くすぐった~い」
ルウ達もルノの教育のお陰で人間を無暗に襲わないように調教されており、群がる子供達を嘗め回す。ミノに対しても興味を抱いた男の子が彼を見上げ、魔人族でありながらその筋骨隆々とした肉体に感動したように尊敬の眼差しを向けていた。
「おおっ!!筋肉ムキムキだ……格好いい!!」
「ブモォッ!!」
意外とコミュニケーション能力が高いのか、男の子に対してミノは両腕の力瘤を見せつけ、ボディービルダーのようにポーズを取る。その光景を後目にルノは自分にも視線を向けている少女が居る事に気付き、顔を向けると彼女は小さな袋を差し出す。
「あげる」
「え、あ、ありがとう……」
「外の人には優しくしろとお母さんに言われた……私もその子達と遊んでいい?」
「いいよ」
少女から渡された小袋をルノは受け取り、中身はドングリを想像させる木の実が入っていた。
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