最弱職の初級魔術師 初級魔法を極めたらいつの間にか「千の魔術師」と呼ばれていました。

カタナヅキ

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冒険者編

ドリス

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『まだやりますか?』
「こ、降参しますわ……」


目の前に近づいた氷竜の顔面にドリスは両手を上げ、杖を地面に落とす。あまりにも自分と力の差があり過ぎるルノに彼女は降参するしかなく、ドリスの弟子達も安堵の息を吐く。


「す、凄すぎる……何だこの魔法は!?」
「竜を生み出すなんて……まさか、召喚魔法!?」
「という事は伝説の召喚魔術師!?」
「違いますよ。あれは氷塊の魔法をですね……」


驚愕している弟子達にリーリスがルノの魔法の説明を行い、ルノが扱う初級魔法の応用性の高さを語る。威力という点では砲撃魔法に劣ると思われた初級魔法だが、複数の属性を組み合わせればその魔法効果を高め、限界まで極めると単体の魔法でも恐ろしいほどの威力を生み出す事を語る。


「――と、このように初級魔法には大きな可能性があるんです。最も普通の人間がルノさんの領域に辿り着くのは不可能だと思いますけどね。少なくとも数十年は修行しないとあれほどの精密さは覚えられませんし、そもそもあれほどの巨体の氷を生み出すなんてそれこそ伝説の勇者級の魔力を持ち合わせていないと出来ませんから」
「なるほど……勉強になるな」
「まさか本当に初級魔法の組み合わせでこんなに凄い事が出来るなんて……」
「砲撃魔法は合成魔術には適していないからな。勉強になるぜ」
「興味深いですわ」


リーリスの説明に何時の間にか弟子たちと共に聞き入っていたドリスも納得し、勝手に自分の戦法を語るリーリスにルノは氷竜に乗り込みながら叱りつける。


『ちょっと、人が苦労して生み出した魔法を簡単に教えないでよ』
「ああ、すみませんね。だけどルノさんの魔法はもう規格外ですからね。この際に初級魔法という呼び方は変えませんか?」
『呼び方を変える?』
「そうですね……形態魔法というのはどうですか?形態を自由に変化させられる万能魔法という事でどうでしょうか?〈今更ながらにタイトル回収〉」
『形態魔法か……まあ、別にいいけど』
「形態魔法……!!素晴らしい響きですわ!!」


二人の会話を聞いていたドリスは感嘆した声を上げ、他の弟子達もルノだけにしか扱えない魔法に強い興味を抱き、氷竜に乗り込んでいる、というよりは内部に入り込んでいるルノに恐れながらも質問を行う。


「あ、あの!!ルノさんはどれくらいの間、魔法を扱っているんですか!?」
「その竜の魔法以外にどんな魔法が扱えるんですか!?」
「私達も練習すれば形態魔法を扱えますか!?」
『おおう……』
「初級魔術師がここまで憧れるなんて滅多にありませんね……良かったじゃないですかルノさん。モテモテですよ」


自分に群がる人間達にルノは戸惑いを隠せず、ここまで自分の魔法に興味を抱いた魔術師はドリア以来であり、彼等は必死にルノから形態魔法の事を尋ねた――




――数時間後、ルノ達はドリスが住んでいる屋敷に招かれ、豪華な夕食を味わった後に彼女から依頼の報酬金を受け取る。これで3人目のS級冒険者の依頼を果たしたことになり、既にこれまでの報酬金だけでも小さな屋敷は購入出来る程の金額が貯まっていた。


「いや~流石はS級冒険者の方々はお金持ちが多いですね」
「なんでリーリスが嬉しそうなの……でも、こんなに貰っていいんですか?」
「当然ですわ。あれほど迷惑を掛けたのですから……むしろ、この程度の報酬金しか用意できずに申し訳ないですわ」


ルノは銀貨と金貨に分けられて袋詰めにされた袋を受け取り、間違いなく日本円に換算すると数千万円は存在する報酬を受け取る。受け取った金銭はアイテムボックスに収納し、ついでに次の依頼者であるS級冒険者の話し合う。


「次の依頼人に関してなんですけど……この街の近くにある国境を越え、遂に獣人国に入ります。念のために言っておきますけど、獣人国は人間差別が強いです。流石に森人族ほどではないですが人間を軽視する傾向があります」
「そうなの?」
「獣人族は国土はそれほど広くはないですが、多数の食用の魔物を飼育しています。だから隣国の巨人族や小髭族に食料の提供を行う事で同盟を結んでいます」
「帝国との関係は正直に言えば良いとは言い切れませんわ。森人族と同様に獣人国と帝国は何度か激しい抗争を繰り広げています。ここ数年は特に大きな戦は勃発はしていませんが、民衆の中には帝国人というだけで冷遇する人間も多いでしょう。獣人国に赴くならお気をつけてください」
「なるほど……」


遂に獣人族が支配する国家に赴く事になるが、予想以上に人間には厳しい国家であるらしく、今後の旅は気を付けなけばならない。だが、残すところ依頼人は2人だけであり、もしも依頼を終える事が出来たら帰還の際は氷車や氷竜を利用して帝国領に戻れば良いと判断し、ルノ達はドリスの家に一泊だけ世話になって明日の朝に街から出発した――



※どうにか熱も下がり、今日の投稿は間に合いました。
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