最弱職の初級魔術師 初級魔法を極めたらいつの間にか「千の魔術師」と呼ばれていました。

カタナヅキ

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冒険者編

3人目のS級冒険者

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――謎の土竜を討伐してから一週間後、ルノ達は別の街に到着し、3人目のS級冒険者と対談を行う。ガインやガジの時と違い、今回は問題も起こらずに顔を合わせる事に成功する。帝国領地に住んでいる最後のS級冒険者であり、現在は冒険者稼業と同時に街の中で大量の弟子を従えながら生活している女性魔術師だった。


「くっ……やりますわね!!」
「あの、まだやるんですか?」
「当然ですわ!!私は貴方を倒し、帝国最強の魔術師の称号を取り返すのです!!」
『頑張ってください先生~!!』
「さっさと終わらせてくださいね~」
「ブモ、ブモッ……」


現在、ルノは今回の依頼人である「ドリス」という名前の魔術師と向かい合い、お互いの実力を確かめるために決闘を行っていた。砲撃魔法を得意とするドリスに対し、ルノは初級魔法を駆使して防御に専念し、彼女の攻撃を容易く防ぐ。

二人は街から離れた草原にて向かい合い、周囲にはドリスが面倒を見ている大量の弟子が存在し、リーリスがおにぎりとお茶が入った水筒を抱えながらのんびりと観戦していた。ミノタウロスは彼女の隣で同じように巨大なおにぎりを食しており、二人ともルノが負けるとは微塵も考えずに試合を楽しんでいた。


「サンダーカノン!!」
「土塊」


ドリスが杖を突きだした杖の先から魔法陣が誕生し、雷属性の上級魔法が放たれるが、ルノは冷静に土塊の魔法で土壁を作り出し、電撃を防ぐ。砲撃魔法は名前の通りに威力と速度に特化した魔法だが、初級魔法を極めたと言っても過言ではないルノにしてみれば高レベルの魔術師の砲撃魔法であろうと驚異ではない。


「ど、どうして私の砲撃魔法が初級魔法なんかに!?有り得ませんわ!!」
「む、初級魔法を馬鹿にしないで下さい」
「それならばこれでどうです!!フレイムカノン!!」
「氷壁」


今度は杖崎から熱線を繰り出したドリスに対してルノは掌を構えて雪の結晶を想像させる氷の塊を生み出し、光線を氷塊の盾で受け止める。熱線を真面に浴びても氷は溶ける様子も見せず、ドリスは焦り声を上げる。


「な、何なんですの!?どうして私の魔法が効かないのです!?」
「もう諦めてくれませんか?」
「まだですわ!!それなら……サンダーアロー!!」
「危なっ」
『ええええええっ!?』


今度は雷属性の砲撃魔法を繰り出したドリスに対し、ルノは普通に左に移動して電撃を回避した。その光景に今度はドリスだけではなく周囲の弟子たちも驚き、電撃を普通に回避したルノに動揺を隠せない。


「い、い、今何をしたのですか?」
「何って……普通に避けましたけど」
「有り得ませんわ!!雷属性ですよ!?魔法の中でも最速の攻撃魔法を回避!?」
「その思い込みは止めた方が良いですよ」


雷属性は全属性の中でも速度に特化した攻撃ではあるが、その分に攻撃自体は直線的であり、相手が攻撃する動作を見逃さなければ回避自体は容易い。最も相手の攻撃動作を見抜くなどそれこそ熟練の戦士でも難しい事なのだが、ルノは難なく行う。

あまりにも魔術師とは思えない動きを行うルノにドリスは冷や汗が止まらず、このままでは不味いと判断して攻撃手段を変更させる。単純に砲撃魔法を放つだけではルノには通じず、彼女は足元に視線を向けて魔法を撃ちこむ。


「ウィンド!!」
「うわっ……!?」


杖から強風が吹き溢れ、草原に存在する土砂を吹き飛ばし、土煙を巻き上げてルノの視界を奪う。それを確認したドリスはこの隙を逃さず、更に攻撃範囲が大きい魔法を放つ。


「喰らいなさい!!サイクロン!!」
「広域魔法!?そんな最上級魔法まで使えたんですか!?」
「やった!!先生の得意技だ!!」
「勝ったな……(確信)」


ドリスが杖を上空に突き上げた瞬間、彼女の体を中心に竜巻が誕生し、土煙で視界を覆われたルノに更に攻撃を加える。砲撃魔法を極めると「広域魔法」と呼ばれる高位の魔法が存在し、ドリスは10年費やしてこの魔法を覚えた。但し、砲撃魔法と違って発動に多少時間が掛かるため、ルノに邪魔されないように最初に視界を奪った。


「これで……私の勝ちですわ」
『それはどうですかね』
「なあっ!?」


だが、土煙を竜巻が吹き飛ばした時、その中には「氷鎧」を身に着けたルノの姿が存在し、彼は竜巻の中を何事も無く進む。ルノが氷塊の魔法で作り出した氷は彼の意思で操作する事が出来るため、吹き溢れる強風を絶え凌ぐ事は容易い。


『これで終わりですか?』
「くっ……まだまだ!!」
「せ、先生!?これ以上は我々が……わああっ!?」
「いやんっ!!風でスカートが……あ、私はズボン派でした」
「ブモォッ……!!」


サイクロンの影響で周囲の人間にも被害が及ぶが、冷静さを失ったドリスは出力を最大限に高め、ルノを吹き飛ばそうとするがびくともしない。いい加減に面倒に思えてきた彼は意識を集中させ、氷鎧の形状を変化させた。


『それならこれならどうですか!?』
「うええええっ!?」
「り、竜だぁあああああっ!?」


氷塊の形状を「氷竜」へと変化させたルノがドリスを見下ろし、外見は10メートルを超える巨大な青色の火竜は竜巻を振り払うように翼を広げた瞬間、ドリスが杖を落として魔法を解除させてしまう。
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