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冒険者編
緑死病
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――ルノとリーリスは客間に案内され、この旅館の女将であり、そして今回の依頼者の奥方である女性が深々と頭を下げる。
「先程は取り乱して申し訳ありません……折角ここまで訪れた冒険者様に失礼な真似をしました」
「いえいえ、お気になさらずに」
「あの……旦那さんに何かあったんですか?」
「………」
ルノの質問に女性は黙り込み、彼女は意を決したように理由を説明する。ちなみに彼女のは前は「オカミ」であり、名前通りに女将に相応しい人物だった。
「実は私の夫、ガインは重い病に侵されています」
「病?」
「どんな病ですか?状態は?意識はありますか?」
病という言葉に薬師でもあるリーリスが反応し、忘れがちだが彼女は医療に携わる人間である。オカミは商人の格好をしながら病の詳細を問い質すリーリスに戸惑いながらも、夫の状態を話す。
「実は先日、夫は仕事から戻ってくると唐突に倒れたんです。慌ててこの街の治療院に運んだのですが、どうやら緑死病と呼ばれる病気らしく、この街の治療院では治せないというのです……」
「緑死病?」
「魔物の毒で発症する病気の事ですよ。正確には病気とは言い切れないんですけど……皮膚が緑色に変色し、意識が混濁して真面に動けなくなります。この病気は全身の皮膚の半分以上が変色した場合、死に至ります」
「そんな……」
「だけど緑死病は不治の病ではありませんよ。身体に毒が完全に侵される前に解毒薬を飲用すれば治せるはずですよ。特に一流の冒険者ならば常に回復薬と解毒薬の類は用意して行動するはずです」
「それが……どうやら夫は毒に侵された事も知らずに戻ってきたようなんです。毒耐性のスキルを持っていたので自分が毒に侵される事はないと思い込んでいたようなんですが……」
「馬鹿じゃないですかっ!?毒耐性はあくまでも耐性が付くだけで毒を無効化する効果はありませんから!!」
「も、申し訳ありません……」
オカミの返事にリーリスは心底呆れた表情を浮かべるが、既に今回の依頼人は市販の解毒薬だけでは治療は不可能な程に身体に毒が進行しており、あと数日の命らしい。
「夫は倒れる前に新人のS級冒険者様を呼び寄せる依頼を出したそうですが、今はもう意識を失って起き上がる事も出来ません。ここまでご足労を掛けておきながら申し訳ありませんが、今の夫は話すことも出来ません」
「リーリス、何とかならないの?」
「そういわれましても……既に身体の隅々まで毒に侵されている状態なら普通の解毒薬ではどうしようも出来ませんよ。それでも治療するというのならちょっと特殊な解毒薬を調合しないといけませんし」
「今は持ってないの?」
「ありませんね。一応は調合器具も持ち込んでいるので素材さえあれば作れなくもないですけど……」
「そ、それは本当ですか!?」
リーリスの言葉にオカミは自分の夫を助ける事が出来るのかと顔を輝かせるが、当のリーリスは困ったように頭を掻く。
「市販の解毒薬を作り出す素材は「青葉草」と呼ばれる薬草なんですけど、今回必要とするのは青葉草よりも貴重な青樹の実です」
「青樹?」
「青葉草が何十年の時を掛けて成長すると全身が青色の樹木になります。その樹木の名前を青樹と呼ばれているんです。だけど、この青樹を管理できるのは森人族だけです。少なくとも帝国領土には存在しませんね」
「そんな……!!」
希望を抱いたオカミはリーリスの言葉に口を抑え、涙を流す。遂に夫を助ける手段が見つかったと思ったのに解毒薬の生成が不可能と言われ、彼女は落ち込んでしまう。だが、そんな彼女にリーリスはあっさりと言葉を告げる。
「だから運が良かったですね。このルノさんなら旦那さんを助ける事が出来ますよ」
「……え?」
「すいませんけど、この旅館の庭に案内してくれませんか?物凄い事を仕出かしますので」
「に、庭ですか?それは構いませんが……何をする気ですか?」
「魔法ですよ」
オカミはリーリスの言葉に戸惑いながらも二人を旅館の裏庭に案内すると、ルノは腕を軽く振り回しながら地面の様子を確認し、リーリスに頷く。
「よし、準備はいいよ」
「じゃあ、お願いします。これが青葉草です」
「ブモォッ」
リーリスはミノに預けていた荷物の中から青葉草を取り出し、ルノに手渡す。その様子をオカミは他の従業員と共に不思議そうに見つめるが、彼は青葉草を握りしめながら土塊の魔法を発動させ、軽く地面を掘り起こす。
「こんな感じかな?」
「そんなもんですよ。じゃあ、皆さんは危ないですから少し下がってください」
「あ、あの……何をする気ですか?」
「見ていれば分かりますよ」
全員を安全な距離まで下がらせると、ルノは掌を青葉草に構え、光球の魔法を発動させる。そしてステータス画面を開き、強化スキル「浄化」を発動させた。
「上手く行ってよ……それっ!!」
「な、何が起きているのですか!?」
「いいから危ないから下がっててくださいよ」
全員の目の前で光球が銀色に光り輝き、地面に埋め込んだ青葉草が急速的に成長を始める。本来は数十年の月日を掛けて成長するのだが、光球から発せられる大量の魔力を吸い上げる事で青葉草は生命力を活性化し、やがては青色の葉で覆われた樹木に変化を果たす。
「先程は取り乱して申し訳ありません……折角ここまで訪れた冒険者様に失礼な真似をしました」
「いえいえ、お気になさらずに」
「あの……旦那さんに何かあったんですか?」
「………」
ルノの質問に女性は黙り込み、彼女は意を決したように理由を説明する。ちなみに彼女のは前は「オカミ」であり、名前通りに女将に相応しい人物だった。
「実は私の夫、ガインは重い病に侵されています」
「病?」
「どんな病ですか?状態は?意識はありますか?」
病という言葉に薬師でもあるリーリスが反応し、忘れがちだが彼女は医療に携わる人間である。オカミは商人の格好をしながら病の詳細を問い質すリーリスに戸惑いながらも、夫の状態を話す。
「実は先日、夫は仕事から戻ってくると唐突に倒れたんです。慌ててこの街の治療院に運んだのですが、どうやら緑死病と呼ばれる病気らしく、この街の治療院では治せないというのです……」
「緑死病?」
「魔物の毒で発症する病気の事ですよ。正確には病気とは言い切れないんですけど……皮膚が緑色に変色し、意識が混濁して真面に動けなくなります。この病気は全身の皮膚の半分以上が変色した場合、死に至ります」
「そんな……」
「だけど緑死病は不治の病ではありませんよ。身体に毒が完全に侵される前に解毒薬を飲用すれば治せるはずですよ。特に一流の冒険者ならば常に回復薬と解毒薬の類は用意して行動するはずです」
「それが……どうやら夫は毒に侵された事も知らずに戻ってきたようなんです。毒耐性のスキルを持っていたので自分が毒に侵される事はないと思い込んでいたようなんですが……」
「馬鹿じゃないですかっ!?毒耐性はあくまでも耐性が付くだけで毒を無効化する効果はありませんから!!」
「も、申し訳ありません……」
オカミの返事にリーリスは心底呆れた表情を浮かべるが、既に今回の依頼人は市販の解毒薬だけでは治療は不可能な程に身体に毒が進行しており、あと数日の命らしい。
「夫は倒れる前に新人のS級冒険者様を呼び寄せる依頼を出したそうですが、今はもう意識を失って起き上がる事も出来ません。ここまでご足労を掛けておきながら申し訳ありませんが、今の夫は話すことも出来ません」
「リーリス、何とかならないの?」
「そういわれましても……既に身体の隅々まで毒に侵されている状態なら普通の解毒薬ではどうしようも出来ませんよ。それでも治療するというのならちょっと特殊な解毒薬を調合しないといけませんし」
「今は持ってないの?」
「ありませんね。一応は調合器具も持ち込んでいるので素材さえあれば作れなくもないですけど……」
「そ、それは本当ですか!?」
リーリスの言葉にオカミは自分の夫を助ける事が出来るのかと顔を輝かせるが、当のリーリスは困ったように頭を掻く。
「市販の解毒薬を作り出す素材は「青葉草」と呼ばれる薬草なんですけど、今回必要とするのは青葉草よりも貴重な青樹の実です」
「青樹?」
「青葉草が何十年の時を掛けて成長すると全身が青色の樹木になります。その樹木の名前を青樹と呼ばれているんです。だけど、この青樹を管理できるのは森人族だけです。少なくとも帝国領土には存在しませんね」
「そんな……!!」
希望を抱いたオカミはリーリスの言葉に口を抑え、涙を流す。遂に夫を助ける手段が見つかったと思ったのに解毒薬の生成が不可能と言われ、彼女は落ち込んでしまう。だが、そんな彼女にリーリスはあっさりと言葉を告げる。
「だから運が良かったですね。このルノさんなら旦那さんを助ける事が出来ますよ」
「……え?」
「すいませんけど、この旅館の庭に案内してくれませんか?物凄い事を仕出かしますので」
「に、庭ですか?それは構いませんが……何をする気ですか?」
「魔法ですよ」
オカミはリーリスの言葉に戸惑いながらも二人を旅館の裏庭に案内すると、ルノは腕を軽く振り回しながら地面の様子を確認し、リーリスに頷く。
「よし、準備はいいよ」
「じゃあ、お願いします。これが青葉草です」
「ブモォッ」
リーリスはミノに預けていた荷物の中から青葉草を取り出し、ルノに手渡す。その様子をオカミは他の従業員と共に不思議そうに見つめるが、彼は青葉草を握りしめながら土塊の魔法を発動させ、軽く地面を掘り起こす。
「こんな感じかな?」
「そんなもんですよ。じゃあ、皆さんは危ないですから少し下がってください」
「あ、あの……何をする気ですか?」
「見ていれば分かりますよ」
全員を安全な距離まで下がらせると、ルノは掌を青葉草に構え、光球の魔法を発動させる。そしてステータス画面を開き、強化スキル「浄化」を発動させた。
「上手く行ってよ……それっ!!」
「な、何が起きているのですか!?」
「いいから危ないから下がっててくださいよ」
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