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冒険者編
1人目のS級冒険者
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「まあ、付いてきちゃったのはしょうがないけど……まずは誰から会いに向かえばいいの?」
「そうですね、帝都から一番近い地域に住んでいるS級冒険者の元へ向かいましょう。というか、氷車や氷竜に乗り込めば一瞬で辿り着けますよ」
「旅を楽しみたいんだよ」
「クゥンッ」
ルノは膝の上に乗っているイチの頭を撫でやり、この世界に訪れてから面倒事ばかりに巻き込まれているため、今回の旅は帝都以外の場所のゆっくりと観光しながら楽しむつもりだった。仕事として依頼を引き受けているといっても日にちは指定されていないため、この際に色々な街を訪ねる予定である。
「最初の冒険者は何処にいるの?」
「めっちゃ近いですよ。帝都から2つほど離れた「セカン」と呼ばれている街に居ます」
「え?そんなに近いの?」
「この街に訪れる前にファストと呼ばれる街もありますけど、ここは特に名産品があるわけでもないですし、一泊したらすぐにセカンに向かいましょう」
「なんでリーリスが旅の行き先を決めてるの……別にいいけどさ」
案内役のリーリスの意見を受け入れ、ルノ達はルウが引く馬車に揺られながらもS級冒険者が存在する街に向かう――
――翌日、ファストの街に立ち寄って宿屋で宿泊したルノ達は早朝からセカンの街に向かい、昼を迎える前に辿り着く。ファストの街は特に名産品は存在しなかったが、セカンの街には有名な温泉宿があり、ルノ達は警備兵にルウを預けて街の中に入る。
「ルウも一緒に入れたら良かったのにな」
「ただでさえミノさんと一緒に行動しているだけで目立つんですから諦めてください。というか、あんな大きい黒犬が入り込んで来たら街が大混乱になりますよ」
「ブモォッ」
「「クゥ~ンッ」」
現在のルノ達は行商人を装っており、ミノタウロスは大量の荷物を背中に抱えながら二人の後に続く。ちなみにイチ、ニイ、サンは首輪を付けてルノ達から離れないように行動する。別に魔獣を飼育する事は珍しくはないので街の住民たちもイチ達を見ても特に反応はしないが、流石に魔人族のミノタウロスを見た人間は驚く。
「うわっ!?な、何だ!?」
「ミノタウロス!?凄い奴を引き連れているな……」
「行商人か……という事は魔物使いか?」
「貴族じゃねえの?あの姉ちゃんは凄い指輪付けてるぜ」
仮にミノタウロスが何も荷物を所持していない状態でルノ達の後を付けていたら住民たちも街に魔物が入り込んだと勘違いしたかもしれないが、現在のリーリスはこれ見よがしに黄金製の指輪を取り付けており、貴族が扱いそうなセンスを握りしめながら歩いていた。
「おほほほっ……駄目ですね、私のキャラじゃないです」
「そこまで演技しないでいいよ。ミノ君、荷物は重くない?」
「ブフゥッ」
軽いもんだとばかりにミノタウロスは頷き、実は彼が背中に抱えている物はドルトンの質屋が処分に困っていた不良品を詰め込んでおり、本当に大切な荷物はルノの「アイテムボックス」の中に収納されている。仮に何者かにミノが所有している荷物を奪われても問題ないように配慮した結果、ドルトンの店で不具合を起こした道具を只で受け取り、木箱に詰め込んでミノに運ばせている。
「あ、ここですよ。この宿屋が依頼書に書き込まれた住所です」
「宿屋っていうか……旅館だね」
「旅館ですね。恐らく、過去に召喚された勇者が残した文化が伝わっているようです」
ルノ達が辿り着いたのは日本の旅館を想像させる和風の宿屋であり、依頼人の冒険者はこの宿に住んでいるという。ルノは新しく渡された「黄金製」のギルドカードを取り出し、まずは宿屋の主人に話を通すために入り込む。
「ブモォッ」
「あら、いらっしゃいませぇえええっ!?」
「あ、駄目でしょミノ君!!お店の人を驚かせたら、めっ!!」
「いや、悪気はなかったと思いますけど……」
先に入り込んだミノタウロスに出迎えようとした女性が驚きの声を上げ、何事かと他の従業員たちが駆け込み、大量の荷物を背負ったミノタウロスに激しく動揺する。
「な、何なんですか貴方達は!?」
「見ての通り、行商人です。あ、こちらの方は召使いですけど」
「誰が召使いだ。怒るよもうっ……冒険者のルノと申します。こちらにS級冒険者のガインさんはいますか?」
「ガインはうちの夫です」
ルノが冒険者のギルドカードを差し出し、依頼書を見せると駆けつけてきた従業員の中から着物姿の女性が現れ、どうやら今回の依頼人の妻らしい。外見はまだ20代後半の和服美人であり、髪の毛もこちらでは珍しい黒髪だった。
「うちの夫になにか用ですか?」
「あ、奥方さんでしたか。私達は……というかこの人はガインさんの依頼を引き受けてここに訪れた冒険者ですが……」
「出て行ってください!!」
『えっ』
冒険者という言葉を聞いた途端に女性は血相を変えてルノ達に怒鳴りつけ、怒りの表情を浮かべながらルノが握りしめていた依頼書を取り上げ、その場で引き千切る。彼女の行動にルノ達は驚くが、女性は涙目を浮かべながら怒鳴りつける。
「もうあの人は……戦える状態じゃないんです!!」
「そうですね、帝都から一番近い地域に住んでいるS級冒険者の元へ向かいましょう。というか、氷車や氷竜に乗り込めば一瞬で辿り着けますよ」
「旅を楽しみたいんだよ」
「クゥンッ」
ルノは膝の上に乗っているイチの頭を撫でやり、この世界に訪れてから面倒事ばかりに巻き込まれているため、今回の旅は帝都以外の場所のゆっくりと観光しながら楽しむつもりだった。仕事として依頼を引き受けているといっても日にちは指定されていないため、この際に色々な街を訪ねる予定である。
「最初の冒険者は何処にいるの?」
「めっちゃ近いですよ。帝都から2つほど離れた「セカン」と呼ばれている街に居ます」
「え?そんなに近いの?」
「この街に訪れる前にファストと呼ばれる街もありますけど、ここは特に名産品があるわけでもないですし、一泊したらすぐにセカンに向かいましょう」
「なんでリーリスが旅の行き先を決めてるの……別にいいけどさ」
案内役のリーリスの意見を受け入れ、ルノ達はルウが引く馬車に揺られながらもS級冒険者が存在する街に向かう――
――翌日、ファストの街に立ち寄って宿屋で宿泊したルノ達は早朝からセカンの街に向かい、昼を迎える前に辿り着く。ファストの街は特に名産品は存在しなかったが、セカンの街には有名な温泉宿があり、ルノ達は警備兵にルウを預けて街の中に入る。
「ルウも一緒に入れたら良かったのにな」
「ただでさえミノさんと一緒に行動しているだけで目立つんですから諦めてください。というか、あんな大きい黒犬が入り込んで来たら街が大混乱になりますよ」
「ブモォッ」
「「クゥ~ンッ」」
現在のルノ達は行商人を装っており、ミノタウロスは大量の荷物を背中に抱えながら二人の後に続く。ちなみにイチ、ニイ、サンは首輪を付けてルノ達から離れないように行動する。別に魔獣を飼育する事は珍しくはないので街の住民たちもイチ達を見ても特に反応はしないが、流石に魔人族のミノタウロスを見た人間は驚く。
「うわっ!?な、何だ!?」
「ミノタウロス!?凄い奴を引き連れているな……」
「行商人か……という事は魔物使いか?」
「貴族じゃねえの?あの姉ちゃんは凄い指輪付けてるぜ」
仮にミノタウロスが何も荷物を所持していない状態でルノ達の後を付けていたら住民たちも街に魔物が入り込んだと勘違いしたかもしれないが、現在のリーリスはこれ見よがしに黄金製の指輪を取り付けており、貴族が扱いそうなセンスを握りしめながら歩いていた。
「おほほほっ……駄目ですね、私のキャラじゃないです」
「そこまで演技しないでいいよ。ミノ君、荷物は重くない?」
「ブフゥッ」
軽いもんだとばかりにミノタウロスは頷き、実は彼が背中に抱えている物はドルトンの質屋が処分に困っていた不良品を詰め込んでおり、本当に大切な荷物はルノの「アイテムボックス」の中に収納されている。仮に何者かにミノが所有している荷物を奪われても問題ないように配慮した結果、ドルトンの店で不具合を起こした道具を只で受け取り、木箱に詰め込んでミノに運ばせている。
「あ、ここですよ。この宿屋が依頼書に書き込まれた住所です」
「宿屋っていうか……旅館だね」
「旅館ですね。恐らく、過去に召喚された勇者が残した文化が伝わっているようです」
ルノ達が辿り着いたのは日本の旅館を想像させる和風の宿屋であり、依頼人の冒険者はこの宿に住んでいるという。ルノは新しく渡された「黄金製」のギルドカードを取り出し、まずは宿屋の主人に話を通すために入り込む。
「ブモォッ」
「あら、いらっしゃいませぇえええっ!?」
「あ、駄目でしょミノ君!!お店の人を驚かせたら、めっ!!」
「いや、悪気はなかったと思いますけど……」
先に入り込んだミノタウロスに出迎えようとした女性が驚きの声を上げ、何事かと他の従業員たちが駆け込み、大量の荷物を背負ったミノタウロスに激しく動揺する。
「な、何なんですか貴方達は!?」
「見ての通り、行商人です。あ、こちらの方は召使いですけど」
「誰が召使いだ。怒るよもうっ……冒険者のルノと申します。こちらにS級冒険者のガインさんはいますか?」
「ガインはうちの夫です」
ルノが冒険者のギルドカードを差し出し、依頼書を見せると駆けつけてきた従業員の中から着物姿の女性が現れ、どうやら今回の依頼人の妻らしい。外見はまだ20代後半の和服美人であり、髪の毛もこちらでは珍しい黒髪だった。
「うちの夫になにか用ですか?」
「あ、奥方さんでしたか。私達は……というかこの人はガインさんの依頼を引き受けてここに訪れた冒険者ですが……」
「出て行ってください!!」
『えっ』
冒険者という言葉を聞いた途端に女性は血相を変えてルノ達に怒鳴りつけ、怒りの表情を浮かべながらルノが握りしめていた依頼書を取り上げ、その場で引き千切る。彼女の行動にルノ達は驚くが、女性は涙目を浮かべながら怒鳴りつける。
「もうあの人は……戦える状態じゃないんです!!」
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