上 下
51 / 657
冒険者編

半年

しおりを挟む
――エルフ王国との会談から数か月が経過し、ルノがこの世界に訪れてから半年近くが経とうとしていた。現在の彼は先日の護衛の件で帝国から支払われた報酬金を利用し、この際に大きな屋敷を購入する。西の森に暮らしていたロプスやルウ、それと他の黒狼種も呼び寄せて楽しく気ままに魔獣達と戯れながら暮らしていた。


「そろそろお前達にも名前を付けないとな。でも、これだけいると名前を付けるのも大変だな……」
『クゥ~ンッ?』


屋敷の庭にて横一列に並んだ黒狼種の子供達に対し、ルノは適当に名前を付ける事に決めた。但し、数が30匹近くもいるので覚えやすいように簡単な名前を付ける事にする。


「よし、こうなったら数字の名前を付けよう。お前がイチ、お前がニイ、お前がサンだ」
『ウォンッ!!』


複雑な名前だと覚えられない可能性があるため、ルノは黒狼種たちに分かりやすく覚えやすい名前を次々と付ける。全ての黒狼種の名付けを終えると、屋敷の中から大量のドックフードを山積みにした皿を抱えたロプスが姿を現した。


「キュロロッ」
「お、もう餌の時間か。いつもありがとうねロプス」
「キュロッ」


屋敷の家事の手伝いはロプスも行っており、彼は主にルウや他の狼たちの世話をしている。最初の頃は人間用の屋敷に慣れずに何度も天井に頭をぶつけたり、力加減を間違えて扉を破壊する事もあったが、現在では慣れて普通に暮らしている。


「ぷるぷるっ」
「ウォオンッ!!」
「お、スラミン達も帰ってきたか」


屋敷の出入口から2匹の声が聞こえ、ルノが向かうと頭にスラミンを乗せたルウの姿があり、2匹の散歩を任せておいたコトネの姿もあった。


「……ただいま」
「お帰り、散歩はどうだった?」
「楽しかった……任務完了」
「はい、それならお駄賃」


自分の代わりに散歩に付き合ってくれたコトネにルノは彼女の頭を撫でながら銅貨を差し出し、彼女は満足そうに受け取る。最近はよくコトネにルウ達の散歩を任せており、彼女も屋敷に泊まる事が多く、魔獣達もコトネに大分懐いていた。


「じゃあ、俺たちもご飯にしようか。今日は何処で食べようかな」
「ルノ、途中でギルマスと出会った……そろそろ冒険者ギルドにも顔を出してほしいと言ってた」
「あ~……そういえば最近行ってなかったな」


Aランクの冒険者でありながらルノは滅多に冒険者ギルドには訪れず、最近は屋敷の中で過ごすことが多い。帝国から多額の補助金を受けているので特に金銭面に困ることはないため、冒険者の仕事を引き受ける事もない。だが、ギルド側としてはルノの実力を知っている以上、彼の力を有効活用したいと考えており、実際に最強の初級魔術師の噂を聞きつけて彼に依頼を指名しようとする人間も多い。


「今日はどうしても来て欲しいと言ってた」
「う~んっ……そういう事なら仕方ないな。スラミンも一緒に行こうか」
「ぷるぷるっ」
「家の事は任せたよ」
「キュロロッ」


屋敷の事はロプスに任せ、ルノはコトネとスラミンと共に久々に冒険者ギルドに向かう。この帝都に暮らすようになってから半年以上も経過しているため、城下町の住民とも交流している。


「お、ルノさんじゃないか!!今日は彼女と一緒かい?」
「彼女だってスラミン」
「ぷるぷるっ(照れてる)」
「解せぬっ」
「はははっ!!相変わらずだねあんた達はっ!!」
「ルノさん!!今日はうちの魚を買ってくれよ!!」
「う~んっ……ルウ達は魚より肉が好きだからなぁっ」


街道を移動するだけで住民に声を掛けられ、適当に彼等の相手をしながらルノは途中でドルトンの質屋を通り過ぎ、ギルドに立ち寄る前に彼に顔を見せる事にした。


「ドルトンさ~ん」
「ああ、ルノさんですか?すいません、少し待ってください」
「……いっぱい人がいる」


ドルトンの質屋には以前と比べて大量の客が訪ねており、その殆どが普通の住民ではなく、冒険者が多かった。その理由は硝子のケースに並べられた大量の経験石が原因であり、ルノが討伐して入手した大量の魔物の経験石を一般でも販売するようにしたら連日のように経験石目当ての冒険者が訪ねるようになった。


「ええい!!いくら払えばあの店の前の火竜の経験石を売却するのだ!!」
「申し訳ありませんがあれは非売品でして……お売りする事は出来ないのです」
「この儂を誰だと思って居る!?」
「はいはい、それはもちろん存じております。ですが、あの経験石は私の友人である初級魔術師殿から受け取った大切な代物……我が家の家宝と言っても過言ではありません」
「むむむっ……お、覚えておけよ!!」


恰幅の良い偉そうな男性がドルトンの怒鳴りつけながら立ち去り、そんな彼の後ろ姿を見送ったルノは店の前で硝子のケースに収められた火竜の経験石に視線を向ける。結局、ドルトンはルノから受け取った火竜の経験石を売却せず、客の注意を引くように店の前で飾ってしまう。そのせいで火竜の経験石を欲しがる商人や冒険者が殺到するようになったが、ドルトンは頑なに売却を拒む。


※新作「貧弱の勇者は生き抗う」を投稿しました!!
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?

闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。 しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。 幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。 お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。 しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。 『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』 さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。 〈念の為〉 稚拙→ちせつ 愚父→ぐふ ⚠︎注意⚠︎ 不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

冤罪をかけられ、彼女まで寝取られた俺。潔白が証明され、皆は後悔しても戻れない事を知ったらしい

一本橋
恋愛
痴漢という犯罪者のレッテルを張られた鈴木正俊は、周りの信用を失った。 しかし、その実態は私人逮捕による冤罪だった。 家族をはじめ、友人やクラスメイトまでもが見限り、ひとり孤独へとなってしまう。 そんな正俊を慰めようと現れた彼女だったが、そこへ私人逮捕の首謀者である“山本”の姿が。 そこで、唯一の頼みだった彼女にさえも裏切られていたことを知ることになる。 ……絶望し、身を投げようとする正俊だったが、そこに学校一の美少女と呼ばれている幼馴染みが現れて──

【完結】6歳の王子は無自覚に兄を断罪する

土広真丘
ファンタジー
ノーザッツ王国の末の王子アーサーにはある悩みがあった。 異母兄のゴードン王子が婚約者にひどい対応をしているのだ。 その婚約者は、アーサーにも優しいマリーお姉様だった。 心を痛めながら、アーサーは「作文」を書く。 ※全2話。R15は念のため。ふんわりした世界観です。 前半はひらがなばかりで、読みにくいかもしれません。 主人公の年齢的に恋愛ではないかなと思ってファンタジーにしました。 小説家になろうに投稿したものを加筆修正しました。

断腸の思いで王家に差し出した孫娘が婚約破棄されて帰ってきた

兎屋亀吉
恋愛
ある日王家主催のパーティに行くといって出かけた孫娘のエリカが泣きながら帰ってきた。買ったばかりのドレスは真っ赤なワインで汚され、左頬は腫れていた。話を聞くと王子に婚約を破棄され、取り巻きたちに酷いことをされたという。許せん。戦じゃ。この命燃え尽きようとも、必ずや王家を滅ぼしてみせようぞ。

勝負に勝ったので委員長におっぱいを見せてもらった

矢木羽研
青春
優等生の委員長と「勝ったほうが言うことを聞く」という賭けをしたので、「おっぱい見せて」と頼んでみたら……青春寸止めストーリー。

「お姉様の赤ちゃん、私にちょうだい?」

サイコちゃん
恋愛
実家に妊娠を知らせた途端、妹からお腹の子をくれと言われた。姉であるイヴェットは自分の持ち物や恋人をいつも妹に奪われてきた。しかし赤ん坊をくれというのはあまりに酷過ぎる。そのことを夫に相談すると、彼は「良かったね! 家族ぐるみで育ててもらえるんだね!」と言い放った。妹と両親が異常であることを伝えても、夫は理解を示してくれない。やがて夫婦は離婚してイヴェットはひとり苦境へ立ち向かうことになったが、“医術と魔術の天才”である治療人アランが彼女に味方して――

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。