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冒険者編
半年
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――エルフ王国との会談から数か月が経過し、ルノがこの世界に訪れてから半年近くが経とうとしていた。現在の彼は先日の護衛の件で帝国から支払われた報酬金を利用し、この際に大きな屋敷を購入する。西の森に暮らしていたロプスやルウ、それと他の黒狼種も呼び寄せて楽しく気ままに魔獣達と戯れながら暮らしていた。
「そろそろお前達にも名前を付けないとな。でも、これだけいると名前を付けるのも大変だな……」
『クゥ~ンッ?』
屋敷の庭にて横一列に並んだ黒狼種の子供達に対し、ルノは適当に名前を付ける事に決めた。但し、数が30匹近くもいるので覚えやすいように簡単な名前を付ける事にする。
「よし、こうなったら数字の名前を付けよう。お前がイチ、お前がニイ、お前がサンだ」
『ウォンッ!!』
「
複雑な名前だと覚えられない可能性があるため、ルノは黒狼種たちに分かりやすく覚えやすい名前を次々と付ける。全ての黒狼種の名付けを終えると、屋敷の中から大量のドックフードを山積みにした皿を抱えたロプスが姿を現した。
「キュロロッ」
「お、もう餌の時間か。いつもありがとうねロプス」
「キュロッ」
屋敷の家事の手伝いはロプスも行っており、彼は主にルウや他の狼たちの世話をしている。最初の頃は人間用の屋敷に慣れずに何度も天井に頭をぶつけたり、力加減を間違えて扉を破壊する事もあったが、現在では慣れて普通に暮らしている。
「ぷるぷるっ」
「ウォオンッ!!」
「お、スラミン達も帰ってきたか」
屋敷の出入口から2匹の声が聞こえ、ルノが向かうと頭にスラミンを乗せたルウの姿があり、2匹の散歩を任せておいたコトネの姿もあった。
「……ただいま」
「お帰り、散歩はどうだった?」
「楽しかった……任務完了」
「はい、それならお駄賃」
自分の代わりに散歩に付き合ってくれたコトネにルノは彼女の頭を撫でながら銅貨を差し出し、彼女は満足そうに受け取る。最近はよくコトネにルウ達の散歩を任せており、彼女も屋敷に泊まる事が多く、魔獣達もコトネに大分懐いていた。
「じゃあ、俺たちもご飯にしようか。今日は何処で食べようかな」
「ルノ、途中でギルマスと出会った……そろそろ冒険者ギルドにも顔を出してほしいと言ってた」
「あ~……そういえば最近行ってなかったな」
Aランクの冒険者でありながらルノは滅多に冒険者ギルドには訪れず、最近は屋敷の中で過ごすことが多い。帝国から多額の補助金を受けているので特に金銭面に困ることはないため、冒険者の仕事を引き受ける事もない。だが、ギルド側としてはルノの実力を知っている以上、彼の力を有効活用したいと考えており、実際に最強の初級魔術師の噂を聞きつけて彼に依頼を指名しようとする人間も多い。
「今日はどうしても来て欲しいと言ってた」
「う~んっ……そういう事なら仕方ないな。スラミンも一緒に行こうか」
「ぷるぷるっ」
「家の事は任せたよ」
「キュロロッ」
屋敷の事はロプスに任せ、ルノはコトネとスラミンと共に久々に冒険者ギルドに向かう。この帝都に暮らすようになってから半年以上も経過しているため、城下町の住民とも交流している。
「お、ルノさんじゃないか!!今日は彼女と一緒かい?」
「彼女だってスラミン」
「ぷるぷるっ(照れてる)」
「解せぬっ」
「はははっ!!相変わらずだねあんた達はっ!!」
「ルノさん!!今日はうちの魚を買ってくれよ!!」
「う~んっ……ルウ達は魚より肉が好きだからなぁっ」
街道を移動するだけで住民に声を掛けられ、適当に彼等の相手をしながらルノは途中でドルトンの質屋を通り過ぎ、ギルドに立ち寄る前に彼に顔を見せる事にした。
「ドルトンさ~ん」
「ああ、ルノさんですか?すいません、少し待ってください」
「……いっぱい人がいる」
ドルトンの質屋には以前と比べて大量の客が訪ねており、その殆どが普通の住民ではなく、冒険者が多かった。その理由は硝子のケースに並べられた大量の経験石が原因であり、ルノが討伐して入手した大量の魔物の経験石を一般でも販売するようにしたら連日のように経験石目当ての冒険者が訪ねるようになった。
「ええい!!いくら払えばあの店の前の火竜の経験石を売却するのだ!!」
「申し訳ありませんがあれは非売品でして……お売りする事は出来ないのです」
「この儂を誰だと思って居る!?」
「はいはい、それはもちろん存じております。ですが、あの経験石は私の友人である初級魔術師殿から受け取った大切な代物……我が家の家宝と言っても過言ではありません」
「むむむっ……お、覚えておけよ!!」
恰幅の良い偉そうな男性がドルトンの怒鳴りつけながら立ち去り、そんな彼の後ろ姿を見送ったルノは店の前で硝子のケースに収められた火竜の経験石に視線を向ける。結局、ドルトンはルノから受け取った火竜の経験石を売却せず、客の注意を引くように店の前で飾ってしまう。そのせいで火竜の経験石を欲しがる商人や冒険者が殺到するようになったが、ドルトンは頑なに売却を拒む。
※新作「貧弱の勇者は生き抗う」を投稿しました!!
「そろそろお前達にも名前を付けないとな。でも、これだけいると名前を付けるのも大変だな……」
『クゥ~ンッ?』
屋敷の庭にて横一列に並んだ黒狼種の子供達に対し、ルノは適当に名前を付ける事に決めた。但し、数が30匹近くもいるので覚えやすいように簡単な名前を付ける事にする。
「よし、こうなったら数字の名前を付けよう。お前がイチ、お前がニイ、お前がサンだ」
『ウォンッ!!』
「
複雑な名前だと覚えられない可能性があるため、ルノは黒狼種たちに分かりやすく覚えやすい名前を次々と付ける。全ての黒狼種の名付けを終えると、屋敷の中から大量のドックフードを山積みにした皿を抱えたロプスが姿を現した。
「キュロロッ」
「お、もう餌の時間か。いつもありがとうねロプス」
「キュロッ」
屋敷の家事の手伝いはロプスも行っており、彼は主にルウや他の狼たちの世話をしている。最初の頃は人間用の屋敷に慣れずに何度も天井に頭をぶつけたり、力加減を間違えて扉を破壊する事もあったが、現在では慣れて普通に暮らしている。
「ぷるぷるっ」
「ウォオンッ!!」
「お、スラミン達も帰ってきたか」
屋敷の出入口から2匹の声が聞こえ、ルノが向かうと頭にスラミンを乗せたルウの姿があり、2匹の散歩を任せておいたコトネの姿もあった。
「……ただいま」
「お帰り、散歩はどうだった?」
「楽しかった……任務完了」
「はい、それならお駄賃」
自分の代わりに散歩に付き合ってくれたコトネにルノは彼女の頭を撫でながら銅貨を差し出し、彼女は満足そうに受け取る。最近はよくコトネにルウ達の散歩を任せており、彼女も屋敷に泊まる事が多く、魔獣達もコトネに大分懐いていた。
「じゃあ、俺たちもご飯にしようか。今日は何処で食べようかな」
「ルノ、途中でギルマスと出会った……そろそろ冒険者ギルドにも顔を出してほしいと言ってた」
「あ~……そういえば最近行ってなかったな」
Aランクの冒険者でありながらルノは滅多に冒険者ギルドには訪れず、最近は屋敷の中で過ごすことが多い。帝国から多額の補助金を受けているので特に金銭面に困ることはないため、冒険者の仕事を引き受ける事もない。だが、ギルド側としてはルノの実力を知っている以上、彼の力を有効活用したいと考えており、実際に最強の初級魔術師の噂を聞きつけて彼に依頼を指名しようとする人間も多い。
「今日はどうしても来て欲しいと言ってた」
「う~んっ……そういう事なら仕方ないな。スラミンも一緒に行こうか」
「ぷるぷるっ」
「家の事は任せたよ」
「キュロロッ」
屋敷の事はロプスに任せ、ルノはコトネとスラミンと共に久々に冒険者ギルドに向かう。この帝都に暮らすようになってから半年以上も経過しているため、城下町の住民とも交流している。
「お、ルノさんじゃないか!!今日は彼女と一緒かい?」
「彼女だってスラミン」
「ぷるぷるっ(照れてる)」
「解せぬっ」
「はははっ!!相変わらずだねあんた達はっ!!」
「ルノさん!!今日はうちの魚を買ってくれよ!!」
「う~んっ……ルウ達は魚より肉が好きだからなぁっ」
街道を移動するだけで住民に声を掛けられ、適当に彼等の相手をしながらルノは途中でドルトンの質屋を通り過ぎ、ギルドに立ち寄る前に彼に顔を見せる事にした。
「ドルトンさ~ん」
「ああ、ルノさんですか?すいません、少し待ってください」
「……いっぱい人がいる」
ドルトンの質屋には以前と比べて大量の客が訪ねており、その殆どが普通の住民ではなく、冒険者が多かった。その理由は硝子のケースに並べられた大量の経験石が原因であり、ルノが討伐して入手した大量の魔物の経験石を一般でも販売するようにしたら連日のように経験石目当ての冒険者が訪ねるようになった。
「ええい!!いくら払えばあの店の前の火竜の経験石を売却するのだ!!」
「申し訳ありませんがあれは非売品でして……お売りする事は出来ないのです」
「この儂を誰だと思って居る!?」
「はいはい、それはもちろん存じております。ですが、あの経験石は私の友人である初級魔術師殿から受け取った大切な代物……我が家の家宝と言っても過言ではありません」
「むむむっ……お、覚えておけよ!!」
恰幅の良い偉そうな男性がドルトンの怒鳴りつけながら立ち去り、そんな彼の後ろ姿を見送ったルノは店の前で硝子のケースに収められた火竜の経験石に視線を向ける。結局、ドルトンはルノから受け取った火竜の経験石を売却せず、客の注意を引くように店の前で飾ってしまう。そのせいで火竜の経験石を欲しがる商人や冒険者が殺到するようになったが、ドルトンは頑なに売却を拒む。
※新作「貧弱の勇者は生き抗う」を投稿しました!!
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