力も魔法も半人前、なら二つ合わせれば一人前ですよね?

カタナヅキ

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ゴノ闘技場編

確かな成長

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「隙あり」
「あがぁっ!?」


一瞬の間に男の背後へ移動したネココは首筋に短刀を叩き込むと、男は白目を剥いて地面に倒れ込む。相棒が倒された事で隙を作ったのが敗因であり、ネココは短刀を鞘に戻すとドリスに振り返る。


「……ドリス、大丈夫?」
「え、ええっ……問題ありませんわ。でも……」
「でも?」
「……私、こんな風に魔法剣を瞬時に発動したのは初めてですわ」


ドリスは自分の持つ剣に対して信じられない表情を浮かべ、これまでに抜き身の状態で魔法剣を発動する機会は何度かあった。これまでの場合は魔石から魔力を引き出すのに時間が掛かり、鞘に納めた状態でなければ瞬時に魔法剣を発動する事は出来なかった。

しかし、先ほどの攻撃の際はドリスは魔法剣を瞬時に発動させる事に成功し、見事に敵を倒す事が出来た。こんな事は生まれて初めてであり、以前よりも確実に武器に魔力を送り込む技術が向上していた。これはレノの指導である事は間違いない。


(自分の魔力を使いこなせるようになれば、こんなにも早く魔法剣を発動出来るなんて……我ながら信じられませんわ)


ほんの数日の鍛錬だけで魔法剣の発動時間を短縮化出来た事にドリスは動揺を隠せないでいた。それと同時に今までの自分がどれほど未熟なのかを思い知らされる。


(レノさんと比べれば私の魔力操作の技術などまだまだ未熟……ですけど、確実に成長していますわ。この調子ならいつかはきっとあの女にも……!!)


自分が成長した事を実感したドリスは嬉しく思う一方、自分に適切な指導を授けてくれたレノに感謝する。この調子で訓練を続けていけばいつかは自分を見下すセツナにも追いつくと彼女は確信を抱く。


(レノさんに感謝しなければなりませんわね。その前にこの男達の素性を調べなければ……)


ドリスは急に襲ってきた男達を捕まえ、とりあえずは街の警備兵に引き渡そうかとネココと相談しようとした時、彼女は振り返るとそこにはネココが鞘に戻したはずの短刀に手を伸ばしていた。

何事かと彼女はネココの前方に視線を向けると、そこには眼帯で片目を追った獣人族の女性が立っていた。その女性は背中に二つの剣を抱え、向かい合ったネココは冷や汗を流す。


「全く、こんなガキ共にやられるとは……未熟者共が」
「な、何ですの貴女は!?」
「くっ……気を付けてドリス、こいつは危険」
「ネコか、久しぶりだな……お前とまさかここでやり合う事になるとは思わなったがな」


女性はどうやらネココと顔見知りらしく、彼女が背中の剣に手を伸ばすとネココは冷や汗を流す。その様子を見てドリスも剣を構えようとした時、後方から物音を耳にして振り返ると、そこにはいつの間にか老人の男性が立っていた。


「ひょひょひょっ……なんじゃ、まだ終わってなかったのか?」
「なっ!?いつの間に背後に……」
「……その薄気味悪い笑い声、まさか蛇使いのジャドク?」
「おうおう、久しぶりじゃな小娘。あのネズミ婆は元気にしているか?」


どうやら老人の方もネココの顔見知りらしく、彼女は嫌そうな表情を浮かべた。いったい何者なのかとドリスが尋ねる前にジャドクという男性は身体に纏った漆黒のローブを広げると、直後に腕の部分から数匹の蛇が飛び出す。


『シャアアアッ!!』
「ひいっ!?へ、蛇!?」
「ドリス、気を付けて!!そいつは毒蛇を使役している!!」
「よそ見とは随分と余裕だな、ネコ!!」


ジャドクの身に付けているローブから出現した毒蛇に対してドリスは表情を引きつらせ、そんな彼女にネココは注意すると、剣を抱えた女性が彼女の元に向かう。

咄嗟にネココは短刀を引き抜こうとしたが、女性は剣を引き抜くと刃同士を重ね合わせ、まるで「鋏」の如く重ねた刃を広げてネココに放つ。その攻撃に対してネココは短刀では防ぎきれないと判断し、腰に差していた蛇剣を引き抜く。


「ドリス!!こっち!!」
「きゃあっ!?」
「何!?」
「ぬおっ!?」


ネココはドリスの身体を片腕で抱き上げると、彼女は蛇剣を天に抱えると刀身を伸ばす。突如として刃が伸びた魔剣を見てジャドクと女性は驚愕して動きが止まると、刀身が伸びた蛇剣は建物の屋根へと突き刺さり、それを利用してネココはドリスを抱えた状態で刀身を戻す。

刃が刺さった場所に向けてドリスを抱えたネココは移動すると、隣の小さな建物の屋根の上に向けて跳躍し、蛇剣の回収も忘れずに行う。その様子を見て地上のジャドクと女性は呆気に取られるが、その間にネココはドリスの腕を掴んで屋根の上を駆け出した。


「早く逃げる!!」
「で、ですが……」
「いいから早くして!!」
「は、はい!!」


ドリスはネココの言葉に戸惑いながらも従い、その声を聞きつけたジャドクは舌打ちし、女性の方は面白そうな表情を浮かべて屋根の上を駆ける二人の後を追う。
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