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ゴノ闘技場編

牙狼団の団長

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「行くぞ!!」
「ふげぇっ!?」
「畜生、こんなガキに……うわぁっ!?」
「な、何なんだこいつ!?」


瞬脚を発動させたレノはまずは剣を構えている相手に接近すると、容赦なく殴りつける。瞬脚で加速した状態で殴られた者は派手に吹き飛び、後ろに立っていた人間も巻き込む。

すぐに他の傭兵がレノを襲おうとしてくるが、それに対してもレノは剣を振り払い、相手が刃を向けられて怯んだ隙に踵に膝を叩き込む。


「てりゃっ!!」
「いでぇっ!?」


膝を蹴りつけられた男は悲鳴を上げ、その間に今度は他の人間を狙う。傭兵達はレノの動きに付いていけず、次々と倒されていく。やがて半分ほどやられた時、残りの者達は逃走を開始しようとした。


「か、敵わねえ……逃げるぞ!!」
「こんなのやってられるか!!」
「逃がすかっ!!」


出入り口の扉に向かおうとした者達に対してレノは周囲を見渡すと、最初にキバが座り込んでいた円卓型の机に視線を向け、右足に風の魔力を纏わせて蹴り込む。派手に吹き飛んだ机は扉の前に倒れ込み、逃げ道を塞ぐ。それを見た傭兵達は震え上がり、その場で武器を下ろす。


「ま、待ってくれ!!降参だ、俺達の負けだ!!」
「も、もう許してくれ!!金なら払う!!」
「……本当だろうな?」


武器を手放した傭兵達の様子を見てレノは荒正を構える腕を下ろすと、傭兵達は必死に頷き、その様子を見たレノは荒正を鞘に納める。武器を戻したレノを見て傭兵達は安堵するが、ここでレノの背後に存在する傭兵は自分が完全にレノの死角に立っている事に気付く。

位置的にレノに見えない場所に立っている傭兵はゆっくりと気づかれないようにレノの背後へと近づき、腰に隠し持っていた短剣に手を伸ばす。今ならばレノを仕留めるのではないかと思った傭兵は覚悟を決めて短剣に手を伸ばそうとした時、不意にレノが振り返って尋ねて来た。


「ねえ、聞きたいことがあるんだけど……」
「ひっ!?な、何でしょうか……」
「お前が最初に俺を連れてきた奴だろ。本当にお前等はアルトを捕まえたのか?」


レノは自分の後ろに近付いてきた男がここまで案内した男である事に気付き、アルトを本当に捕縛したかどうかを尋ねる。その質問に対して男は激しく首を横に振る。


「い、いやいや!!闘技場で揉め事なんて起こせば兵士が黙っていませんからね!!アルトというガキは……あ、いや、アルトさんは無事ですよ!!俺達は手だししてません!!」
「じゃあ、アルトは無事なのか?」
「は、はい!!それは間違いありません!!でも、今は何処にいるかまでは……」
「僕ならここにいるよ!!」


会話の際中に声が響き、驚いて全員が振り返るとそこにはネココとドリスを引き連れたアルトが酒場の奥から出てきた。その様子を見てレノだけではなく、傭兵達も驚く。


「アルト!!それにネココとドリスまで……無事だったの?」
「ああ、見ての通りさ。攫われかけた所、この二人に救って貰ったんだ」
「……闘技場を離れた跡、私達に絡んできた男達を見かけた。そいつらの様子が怪しかったら気になって尾行したら、アルトを捕まえようとしてきた」
「ちなみにこの建物にいる人間は全員気絶済みですわ」


ドリスは裏口で見張り役を行っていた傭兵を連れ出し、白目を剥いた状態の男を床に落とす。それを見て建物内の傭兵達は顔色を変え、これでもう完全に味方はいなくなった事を悟る。

ネココはレノが倒した傭兵達を従えていたキバの元へ向かい、その顔をまじまじと確認する。完全に意識を失っており、それを確認した彼女はレノに告げた。


「……レノ、この男をどうする?」
「え?もちろん、警備兵に突き出すよ。脅迫と誘拐をしようとしてきたし……」
「当然ですわね!!」
「ま、待ってくれ!!それだけは止めてくれ!!」


気絶したキバを縛り上げ、警備兵に突き出そうとするレノ達に対して傭兵達は慌てて引き留め、その場で土下座を行う。彼等の行動にレノは少し驚くが、このままキバを警備兵に突き出されるのだけはどうしても困るらしい。


「その人は牙狼団の副団長なんだ!!もしも警備兵に掴まったら牙狼団の評判はガタ落ちになる!!それだけは止めてくれ!!」
「随分と勝手な言い分ですわね!!一方的に私達に絡んできて、こんな誘拐と脅迫紛いの行動をしておきながら!!」
「そ、それは謝る!!だから、どうか許してくれ!!」
「……謝って済む問題じゃない、傭兵の立場でありながら一般人に手を出した罪は重い」
「頼む、本当に止めてくれ!!何でもするから!!」
「こんな事がばれたら俺達は団長に……!!」
「俺が、どうかしたのか?」


傭兵達がレノ達にキバを捕まえる事を止めるように懇願していると、ここでドリス達が出てきた扉から男の声が響く。その声を聞いた瞬間、酒場内の傭兵達の顔色が代わり、怯えた表情を浮かべて扉に視線を向けると、そこには身長が2メートル近くは存在する獣人族の男性が立っていた。
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