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ゴノ闘技場編

白毛熊

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「ガアアッ!!」
「うわっ!?」


白毛熊は爪を振り下ろすと、咄嗟にレノは後ろに跳んで回避する。試合場の石畳がバターのように削り取られ、その様子を見てレノは冷や汗を流す。白毛熊の爪は尋常ではない硬度と鋭さを誇り、更に単純な腕力も赤毛熊を上回るらしい。

但し、攻撃の動作自体は赤毛熊とそれほど大差はなく、両腕の爪を使って積極的に攻撃を行う以外は特に変化はない。それに気づいたレノは刃に風の魔力を流し込み、反撃を行う。


「嵐刃!!」
「ウガァッ!?」


相手の攻撃の直後に嵐刃を叩き込むと、白毛熊は体勢を崩して倒れ込み、仕留める事に成功したのかと思われたが、すぐに起き上がる。至近距離から放てば大木さえもなぎ倒す威力を誇るレノの乱人を受けても白毛熊は転んだ程度で怪我も折っていなかった。


「グゥウウッ……!!」
「効いてない!?そんな馬鹿な……」


何事もなかったように起き上がった白毛熊に対してレノは冷や汗を流し、これまでに嵐刃をまともに受けて無傷だった生物は存在しなかっただけに衝撃は大きかった。普通の赤毛熊ならば急所に的中させれば致命傷を与えられる威力はあるはずなのだが、白毛熊は無傷だった。


(こいつの毛皮、金属でできているのか!?そんなまさか……って、考えている暇もないか!!)


白毛熊は腕を振り抜くと、レノは右側へと飛んで回避する。その際に白毛熊の爪が試合場を取り囲む金網さえも切断し、兵士達が慌てふためく。


「た、隊長!!また金網が破られます!!」
「くそっ!!すぐに毒矢の準備をしろ!!」


兵士達は白毛熊が試合場から抜け出した時のために弓矢の準備を行い、その様子を見てレノは先ほど兵士達が白毛熊を「殺処分」する予定だったという話を思い出す。確かにこれほどの破壊力を誇る爪を持つならば金網を脱走して観客や兵士に被害を出すかもしれず、早急に殺処分する対象になるのも頷ける。

いくら強いといっても制御が出来ない魔物も闘技場側にとっては害悪でしかなく、本来ならばレノがここまで試合を勝ち進めていなければ白毛熊は殺処分される運命だった。一方的に捕まっただけでなく、強すぎるが故に殺されるなど哀れな存在かもしれないが、同情はしてもむざむざと殺されるわけにはいかない。


(こうなったら火炎剣で……!!)


嵐刃を受けても無傷な所、普通の攻撃では通じない可能性を考慮してレノは火炎剣を発動させようと考える。しかし、その前にレノは試合場内にまだ檻が残っている事に気付く。


(あれは……そうだ、あれを利用すれば上手く行くかもしれない!!)


白毛熊は檻を破壊した際、鉄格子が切り裂かれて綺麗な切断面になっていた。しかも白毛熊が抜け出す際に鉄格子の一部が曲がり、先端が鋭利に尖った状態の曲がった鉄格子を見てレノはある方法を思いつく。

上手くレノは白毛熊を檻の方向へと引き寄せ、敢えて自分が檻の前に立つ。背後を自ら塞いだレノの行動に観客も兵士も驚き、白毛熊はレノが左右に逃げられないように両腕を大きく広げた状態で接近する。


「馬鹿、何やってんだ!!」
「殺されるぞ!?」
「レノ君!!」
「……来いっ!!」


白毛熊が正面から迫る中、レノは荒正を鞘に納めると両腕を構える。その行動にはアルトさえも度肝を抜き、彼の考えが全く読めなかった。自分から武器を収めたレノの行動に白毛熊は一瞬だけ躊躇したが、すぐに野生の本能に従って左右に広げた両腕を振りかざす。


「グガァアアアアッ!!」
「……ここだ!!」


左右から鋭い爪が迫る中、レノは両腕に風の魔力で小規模の竜巻を作り出し、瞬脚を発動させて白毛熊の懐へと飛び込む。その状態でレノは白毛熊の胴体を掴むと、両手に纏わせた竜巻を利用して白毛熊の巨体を浮き上がらせる。


「うおおおっ!!」
「ガアッ――!?」


竜巻が放つ風圧によって白毛熊の巨体が浮き上がり、両手が触れた箇所捻じれ込む。その状態で巴投げの要領でレノは白毛熊の巨体を後方に存在する檻へと吹き飛ばす。檻には曲がった鉄格子が存在し、背中から白毛熊は先端が尖った鉄格子に突き刺さる。

白毛熊の悲鳴が城内へ響き渡り、鉄格子が背中に突き刺さった白毛熊を見てレノは安堵する一方、予想通りというべきか白毛熊の肉体自体は赤毛熊とそれほど変わらない事を見抜く。白毛熊を投げ飛ばす時に身体を掴んだが、分厚い体毛に覆われていても肉体の方はそれほど硬くは感じられなかった。


(俺の嵐刃を受けても無傷だった時は驚いたけど、別にこいつは硬すぎるわけじゃないんだ……魔物中には風の魔力を受け付けにくい奴もいるんだな)


レノが放った嵐刃を受けても赤毛熊は無傷どころか毛皮さえも切れなかった時点でレノは怪しく思い、ある推測を立てる。それは白毛熊の肉体が頑丈なわけではなく、風の魔力に対して強い耐性を持っているから攻撃が通じなかったのではないかと考えた。
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