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ゴノ闘技場編

ドリスと魔剣の出会い

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「ドリスは初級魔法の火球を使った事はある?」
「初級魔法?いえ、使った事はありませんけど……」
「あんなに炎を操るから火属性の適性はあるよね、それなら試しに使ってみなよ」
「わ、分かりましたわ……こうでいいですの?」


ドリスはレノから受け取った指輪を嵌めて手を伸ばし、意識を集中させるように目を閉じる。この時にレノは気になったのは彼女が魔法を扱えるかどうかであり、かつてレノは魔法を使おうとした時は一度も成功していない。

仮に「魔法剣士」が普通の魔法を扱えないとしたら自分と同じく魔法剣士のドリスも魔法を扱えない可能性もあるが、試しに彼女に初級魔法を使用させる。


「火球《ファイアボール》!!」
「うわっ!?」


指輪を嵌めた状態でドリスは魔法名を唱えると、彼女の目の前にバスケットボール程の大きさの火球が出現し、その場に対空する。その様子を見てドリスは驚き、自分が魔法を作り出す事に成功したのを知って安堵した。一方でレノはドリスが普通に初級魔法を成功した事に対し、内心では衝撃を受ける。


(なんて大きさだ……前にアルトが作った物よりも大きい。そういえば魔法の属性の適性が高い人間ほど、魔法の威力も大きく変化すると言っていたような……)


以前にレノはアルトから適性の高さによって魔法の規模や効果は変化するという話を聞いており、ドリスの場合は火属性の適性が高いのか彼が作り出した火球よりも巨大な火球が出来上がった。

同時に魔法剣士であるドリスが魔法を普通に使える事が判明し、これで魔法剣士は魔法は扱えないという可能性は否定された。それならばレノはどうして自分が魔力を固定して魔法を作り出せないのかと疑問を抱く。


(俺が魔法が使えない理由は魔法剣士だからというわけじゃないのか……もしかしたら魔力を操作する以外に魔法を作り出すには条件があるのか?それとも別の理由があるのか……)


あっさりと初級魔法を完成させたドリスに対してレノは思う所はあったが、今は彼女の指導を行う事を優先し、とりあえずはドリスに魔法を発動した時の事を尋ねる。


「ドリス、どんな感じ?魔法を初めて使った気分はどう?」
「なんだか、不思議な感じですわ。子供の頃、私が初めて魔法剣を使った時の事を思い出しました」
「魔法剣を?そういえばドリスは何時から魔法剣を使ってたの?」
「そうですわね、あれは私の子供の頃――」




――幼少期の頃、ドリスはまだ幼かった頃に彼女は家の中の倉庫へと入った事があった。倉庫にはフレア家の国宝が保管され、その中に「烈火」も含まれていた。この倉庫は勝手に入る事は禁じられていたが、ある日に母親と喧嘩した幼い彼女は倉庫の中に隠れてしまう。

この時に運が悪かったのは倉庫内で掃除が行われ、使用人が鍵を閉め忘れていた事、その間にドリスは中へと入り込み、他の人間に見つからないように隠れていた。運悪く、使用人が鍵を閉め忘れていた事を思い出し、外側から鍵を掛けてしまい、ドリスは閉じ込められてしまった。

倉庫を出ようとしても扉が開かず、しかも倉庫内には扉以外に出入口は存在せず、暗闇に覆われた空間で彼女は泣き喚く。しかし、いくら助けを呼んでも誰も彼女の存在には気づかず、いつしかドリスは泣き疲れて眠ってしまう。

流石に彼女の家族も姿を現さなくなったドリスを心配して捜索を行うが、まさか倉庫内に隠れているなど思いもせず、見つからない彼女に誘拐されたのではないかと大騒ぎになっていた。その一方でドリスの方は目を覚ますと、彼女は何時の間にか自分が硬い物に抱き着いて眠っている事に気付く。

この時に彼女が手にしていたいのは家宝として大切に扱われている魔剣「烈火」であり、暗闇の中で不安を抱いた彼女は「灯り」が欲しいと強く願った。そんな彼女の願いに応えるように彼女が抱きしめていた烈火は反応し、魔石が光り輝いたという。

魔石が光った事にドリスは驚いたが、すぐに自分が剣を手にしている事を知り、恐る恐る彼女は剣を鞘から抜く。この時にドリスは初めて魔法剣を発動させ、剣に炎を宿す。この時の魔剣の放つ炎の光が倉庫の扉の隙間から漏れ出ていたので偶然にも通りがかった人間が気づき、無事にドリスは救出された。



この日以降、ドリスは魔剣「烈火」を扱える事が判明し、家族は非常に驚いた。この魔剣を使いこなした人物はフレア家の先祖の中でも数人しか存在せず、しかもまだ子供のドリスが魔剣を使いこなした事に家族は喜び、それ以降から彼女は「魔法剣士」として育てられた――



「思い出しましたわ。子供の頃、初めて魔剣を手にしたときの事を……あの時は無我夢中で何をしたのか分かりませんが、確かに魔剣は私の中の魔力に反応して力を示した気がします。今ならレノさんの言った事が分かりますわ」
「ドリス?」
「……試してみますわ」


ドリスはレノから受け取った指輪を返すと、彼女は指先に意識を集中させ、そして初級魔法を使った時に感じた自分の魔力を集中させる。
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