力も魔法も半人前、なら二つ合わせれば一人前ですよね?

カタナヅキ

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二人旅編

荒正

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「それにしてもこの剣をあいつ以外の奴が使っているとはな……坊主、こいつの剣の名前を知っているか?」
「え?いや……そういえば聞いてなかったです」
「やっぱりな、あいつはどんな剣もすぐに壊すから剣の名前なんて覚えなくなったしな……そいつの名前はな、荒正というんだ。ロイの奴にはピッタリの名前だろう?」
「荒正……」


ここでレノは自分の剣の名前を初めて知り、ロイから託された時はただの剣だと思っていたが、言われてみればこれまでの激しい戦闘でレノはこの剣に何度も命を救われている。

いったいどのような素材で作り上げたのかは不明だが、レノが所持している荒正は並の剣では到底及ばぬ程の強度を誇り、正に巨人族に対抗するために作り上げられた業物だった。


「この荒正はな、俺が今までに作り上げた剣の中でも最高傑作だ。なのにその剣の名前を忘れるは、勝手に人にあげるわ……相変わらずだな、あの男は!!」
「あ、あははっ……なんかすいません。でも、爺ちゃんもこの剣の事は大事にしてたと思います」
「そ、そうか?それならいいんだが……」


レノはロイと初めて出会った時、滝から落ちた時さえも剣を手放さなかった事を思い出した。剣士としての意地として剣を手放さずにいただけかもしれないが、もしかしたらロイも荒正の事は大切に思っていたのかもしれない。

最もレノが彼を助けた時、荒正を返そうとしたときは最初は知らないふりをして手放さそうとしたり、ダリルが打ち直すまでは放置されていたのか錆が酷かった。実際の所はロイがこの剣に思い入れがあるのかは不明だが、その事についてはレノは黙っておくことにした。


「どうだいゴイル?私の言った通り、ロイと比べても礼儀正しい子供だろう?」
「ああ、そうだな……おっと、昔話はこれぐらいにしておくか。おい、お前等が持っている魔剣を俺に見せてくれ」
「魔剣?」
「……これの事?」


ネココは昨日ヤンから奪った蛇剣を取り出すと、ゴイルはそれを手にして机の上に並べる。昨日のうちにネズミ婆さんが回収していた蛇剣も既に机の上に置かれており、二つの蛇剣を目にしてゴイルは真剣な表情を浮かべる。


「……こいつは間違いねえ、ドワーフが作り上げた代物だ。どっちの剣も同じ製作者が作り上げた代物だな」
「見ただけで分かるのかい?」
「あたぼうよ、こちとら50年も鍛冶師をやってるんだ!!ふむ、この髑髏の紋章……もしかしたら」
「もしかしたら?」
「……いや、何でもない。ほら、持って行きな」


ゴイルは髑髏の紋章を見て何かに勘付いた表情を浮かべるが、すぐに誤魔化すように白の蛇剣をネココに返す。彼の反応にレノは気になったが、ネズミ婆さんはリボンを肩に乗せると昨日捕まえたヤンの事を話す。


「そうそう、忘れるところだったよ。昨日捕まえたヤンに関してなんだけど、案の定というべきか、自害用の毒を持ってたよ。情報を漏らすぐらいなら死ぬつもりだったんだろうね」
「やっぱり……ならヤンは?」
「安心しな、毒は回収して今は拘束しているよ。正直、警備兵に突き出して賞金を貰いたい所だけどね……下手に警備兵に送り込むとヤンが捕まった事はすぐに他の3人にも知られて本格的に命を狙われかねないね」
「おいおい、そんなやばい連中に狙われてるのにお前等うちに来たのか!?勘弁してくれよ……」
「何いってんだい、長い付き合いだろう?そこは友達として力を貸すぐらいは言って欲しいね」
「冗談じゃねえ!!誰が友達だ、昔からお前には泣かされた記憶しかないぞ!?」


ネズミ婆さんの言葉にゴイルは怒鳴りつけるが、そんな彼に対してネズミ婆さんは笑い声をあげ、今のところはヤンは何も情報を吐く様子がない事を告げる。


「一応は尋問はしてみるが、ヤンの奴が情報を吐くのは難しいだろうね。それと他の3人の賞金首の奴等に関してなんだけど、今のところは大きな動きはないね」
「ヤンが捕まった事は知らていない?」
「ああ、だけどヤンが消えて怪しんでいるのは確かだね。あんたらも行動するときは気を付けな、街の鼠共を使って一応は私も情報を集めているけど、しばらくの間は大人しく身を隠しておいた方が身のためだよ」
「分かった……気を付ける」
「はあっ……まさかこんな事になるなんて」


隼の団と共に傭兵団と手を組んで盗賊を捕まえた際、こんな事態に陥るとは夢にも思わなかった。しばらくの間はネズミ婆さんが新しい情報を集めるまではレノとネココは目立つ行動は出来ず、廃屋へと戻ろうとした時、ここで思い出したようにネズミ婆さんが声をかけた。


「ああ、そうそう……そう言えば昨日、あんたら以外に黒狼の事を嗅ぎまわっている女がいると話しただろう?」
「女?」
「……言っていた気がする」
「その女の事を調べてみたんだけど、なんと驚く事に本当に国から派遣されただったのさ」
「王国、騎士?普通の騎士とは違うんですか?」
「騎士の中でも一番高い位さ。王都に存在する騎士団の団長全員は王国騎士で構成されているね。最も、私が会った女は騎士団の団長にしては団員を一人も連れていなかったのは気になったけどね……」


ネズミ婆さんは昨日のうちに鼠達を使って調べたところ、昨夜に彼女の元に訪れた金髪の少女の正体は王都から派遣された「王国騎士」だと判明する。

王都から派遣された王国騎士がどうして黒狼の情報を集めている事に関してはネズミ婆さんも掴めていないが、その騎士と彼女は約束を交わしていた。


「今日、その女が私の元に来る予定だよ」
「え?どうして?」
「その女から依頼を受けているからさ、黒狼の情報に関して何か進展があったら教えてくれってね。もう前金も受け取っているし、一応はあんた達やヤンの事も伝えようかと思ってね……今日呼んだのはあんた達をその騎士に会わせようと思って呼んだのさ」
「なるほど……」
「……確かにこのまま逃げ続けるより国の騎士に相談した方がいいかもしれない」
「そうだろう?とりあえず、会うだけあってみたらどうだい?」


ネズミ婆さんの言葉にレノとネココは考え込み、このまま黙って待つよりも黒狼の残党を追う王国騎士に会って情報を伝えておくべきかと考えたレノ達はネズミ婆さんの言葉に従い、会う事にした――
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