上 下
117 / 215
二人旅編

水の刃

しおりを挟む
罅割れた天井に視線を向け、レノは吸水石を放り投げると、刀身に風の魔力を纏わせる。その状態でレノは剣を振りかざすと、勢いよく下から振りかざして空中に浮きあがった吸水石に叩きつけた。

この時にレノは刃が吸水石に触れた直後、風の魔力を放出させて「嵐刃」を生み出す。その結果、吸水石は割れた瞬間に内部に蓄積されていた水が風の刃に飲み込まれる形となり、やがて「水の刃」と化して天井へと叩き込まれる。


「うおりゃあっ!!」
「うわっ!?」


魔石に含まれた水を風圧によって天井へと吹き飛ばすと、亀裂が生じた天井へと叩き込まれる。その結果、天井の亀裂が広がると一気に崩落し、大量の瓦礫が階段の下に落ちていく。



――うわぁあああっ!?



下の階まで迫っていた盗賊達の悲鳴が響き、天井から崩落した瓦礫によって階段は塞がれてしまう。それを確認したレノはすぐにその場を離れ、3階の廊下を駆け抜ける。


「行こう、アルト!!」
「あ、ああ……!!」


アルトは崩壊した天井と瓦礫で塞がれた階段を見て冷や汗を流し、先ほどレノが何をしたのかを冷静に分析する。恐らくだがレノは風の斬撃だけでは天井を破壊する事は出来ないと悟り、アルトが所有していた「吸水石」を利用してより強力な攻撃を繰り出そうと考えた。

レノが行ったのは嵐刃に吸水石に蓄積されていた水を取り込ませ、水を勢いよく発射させる。ただの吸水石に入っていたのがただの水とはいえ、風の魔力を利用して凄まじい勢いで打ち上げれば天井を破壊できると直感で気づいたのだ。

まるで高所から叩き込まれる滝が逆流して天井に叩きつけられたような威力を誇り、実体を持たない風の刃ではわずかな罅割れしか与えられなかった天井が、水を取り込んだ事で威力を上昇した水の刃によって破壊された。もしかしたら単純な破壊力ならばレナの火炎刃を上回る一撃だったのかもしれない。


「アルト、急いで!!この階にきっとあいつはいる!!」
「あ、ああ……分かってる!!」


アルトはレノの言葉を聞いて現実に引き戻され、どうも考え事をする他の事に目が回らなくなるのが彼の弱点だった。階段を一つ破壊したとしても他の階段から盗賊達が駆けつけてくるはずであり、考えている暇などない。


「ん!?あれは……」
「どうした!?何か見つけたのかい!?」
「……あの扉が怪しい!!」


レノはこれまでの部屋の中でも最も大きな扉を発見すると、そこへ目掛けて嵐刃を放つ。扉を強制的に吹き飛ばし、中へと入り庫むと広間だと判明する。そして広間の奥には玉座の形を模した大理石製の椅子に座り込むチェンの姿と、彼の傍で下着姿で縄で拘束されたドリスの姿が存在した。


「ドリス!!」
「あ、うっ……れ、レナ、さん?」
「……なんてひどい事を」
「来たか……これで命拾いしたぜ」


チェンは縄でつないだをドリス引き寄せると、駆けつけてきたレノとアルトを見て笑みを浮かべる。特にレノを見て彼はこれでカトレアに殺される心配はなくなると安心する一方、アルトの姿を見て訝しむ。


「お前等……どうやって抜け出した?それにそのローブ……倉庫からかっぱらってきたな?」
「何がかっぱらうだ!!このローブは元々は俺の物だし、それに他に奪われた物も返してもらうぞ!!もちろん、ドリスもだ!!」
「レノさん、逃げてください……私に構わずに早く……あうっ!?」
「うるせえぞ、アマがっ!!」
「止めろっ!!」


ドリスの言葉にチェンは余計なことをレノ達に吹き込む前に彼女を地面へ叩きつけ、その様子を見ていたレノは怒りのあまりに魔法拳を発動させようとした。しかし、そんな彼に対してチェンは右腕に巻き付けていた黒鎖を構える。

問答無用でレノはチェンに向けて「嵐刃」を放つが、その攻撃に対してチェンは鎖を巻きつけた右腕で受け止め、掻き消す。その光景を見てアルトは驚き、レノは舌打ちする。


「おっと……今のは危なかったな、少し腕が痺れたぜ」
「ば、馬鹿な……レノ君の攻撃を振り払うだけで掻き消すなんて」
「こいつは見た目通りに黒鎖という名前の魔道具でな、魔法に対する耐性は魔剣級だ。そんなちゃちな魔法剣で壊せるような代物じゃないんだよ」
「だったら直接ぶった切ってやる!!」
「おっと、いいのか?俺の手札はこの女だけじゃないぞ?」


今すぐにでも切りかかりそうな勢いのレノに対してチェンは自分が座っていた椅子の傍に立てかけて置いたレノの「荒正」を見せつける。更に彼は懐に手を伸ばすとレノの魔法腕輪と指輪を取り出し、極めつけには椅子の裏側に隠していた弓を取り出す。

どうやらレノの装備品は全てチェンが所持していたらしく、彼はこれ見よがしに鞘から剣を抜いてレノに見せつける。その挑発行為にレノは無言で見つめ、そんな彼の態度がつまらないのかあっさりとチェンは手にしていた剣を戻して今度は弓を見せつけた。
しおりを挟む
感想 53

あなたにおすすめの小説

俺が死んでから始まる物語

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていたポーター(荷物運び)のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもないことは自分でも解っていた。 だが、それでもセレスはパーティに残りたかったので土下座までしてリヒトに情けなくもしがみついた。 余りにしつこいセレスに頭に来たリヒトはつい剣の柄でセレスを殴った…そして、セレスは亡くなった。 そこからこの話は始まる。 セレスには誰にも言った事が無い『秘密』があり、その秘密のせいで、死ぬことは怖く無かった…死から始まるファンタジー此処に開幕

勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!

よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です! 僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。 つねやま  じゅんぺいと読む。 何処にでもいる普通のサラリーマン。 仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・ 突然気分が悪くなり、倒れそうになる。 周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。 何が起こったか分からないまま、気を失う。 気が付けば電車ではなく、どこかの建物。 周りにも人が倒れている。 僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。 気が付けば誰かがしゃべってる。 どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。 そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。 想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。 どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。 一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・ ですが、ここで問題が。 スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・ より良いスキルは早い者勝ち。 我も我もと群がる人々。 そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。 僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。 気が付けば2人だけになっていて・・・・ スキルも2つしか残っていない。 一つは鑑定。 もう一つは家事全般。 両方とも微妙だ・・・・ 彼女の名は才村 友郁 さいむら ゆか。 23歳。 今年社会人になりたて。 取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。

婚約破棄騒動に巻き込まれたモブですが……

こうじ
ファンタジー
『あ、終わった……』王太子の取り巻きの1人であるシューラは人生が詰んだのを感じた。王太子と公爵令嬢の婚約破棄騒動に巻き込まれた結果、全てを失う事になってしまったシューラ、これは元貴族令息のやり直しの物語である。

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

おっさんの神器はハズレではない

兎屋亀吉
ファンタジー
今日も元気に満員電車で通勤途中のおっさんは、突然異世界から召喚されてしまう。一緒に召喚された大勢の人々と共に、女神様から一人3つの神器をいただけることになったおっさん。はたしておっさんは何を選ぶのか。おっさんの選んだ神器の能力とは。

一家処刑?!まっぴら御免ですわ! ~悪役令嬢(予定)の娘と意地悪(予定)な継母と馬鹿(現在進行形)な夫

むぎてん
ファンタジー
夫が隠し子のチェルシーを引き取った日。「お花畑のチェルシー」という前世で読んだ小説の中に転生していると気付いた妻マーサ。 この物語、主人公のチェルシーは悪役令嬢だ。 最後は華麗な「ざまあ」の末に一家全員の処刑で幕を閉じるバッドエンド‥‥‥なんて、まっぴら御免ですわ!絶対に阻止して幸せになって見せましょう!! 悪役令嬢(予定)の娘と、意地悪(予定)な継母と、馬鹿(現在進行形)な夫。3人の登場人物がそれぞれの愛の形、家族の形を確認し幸せになるお話です。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

処理中です...