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二人旅編

王国騎士

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「毒は……あそこからか!!」


風の膜を纏う事でレノは毒を振り払いながら一階を捜索すると、机の下に隠されている酒瓶から毒が噴き出している事に気付く。酒場に持ち込んでも目立たないように酒瓶に毒を仕込んでいたらしく、すぐにレノは蓋をしっかりと閉じると建物内に充満している煙の対処を行う。


(緊急事態だ、迷っている暇はない!!)


レノは背中の剣を取り出すと酒場中の窓に視線を向け、狙いを定めて次々と「魔弓術」で矢を放つ。すると矢に纏った風の魔力が毒煙を巻き込み、窓を破壊して外へと放出される。

窓の外に跳んだ矢は上空へ向けて移動し、それに巻き込まれる形で煙も上空へと舞い上がる。建物の外の人間に見られてしまうだろうが、今は一刻も早く全ての煙を外部へ放出する必要があった。


(これでよし……煙は完全に消えたな)


どうにか煙を外部へと放出するとレノは風の膜を解除させ、倒れている人間の様子を伺う。全員が意識を失っている様子だが、煙が消えた影響なのか徐々に痙攣していた身体が落ち着き始め、その様子を見てレノは少し安心する。


「待っててください、すぐに助けを呼びますからね」
「あ、ああっ……」


先ほど迷惑を掛けた店員も倒れている事に気付いたレノは声をかけると、店員はレノの声が聞こえているのかは不明だが、呻き声を漏らす。その様子を見てレノはすぐに治療する必要があると思い、この毒を作り出したロンならば彼等を救う方法を知っているはずだった。


「あいつに毒を治す方法を吐かせないと……ん?」


レノは酒場の出入口の方から聞こえてきた足音に顔を振り帰ると、勢いよく扉が開け開かれ、外から人が入り込む。その姿を見たレノは呆気に取られ、その人物は非常に目立つ格好をしていた。



「これはいったい何事ですのっ!?」
「えっ……?」



――酒場の中に入り込んだ人物は女性であり、しかも年齢はレノとそれほど変わりはないと思われた。エルフのように美しい金髪に碧眼の瞳、顔立ちの方も綺麗に整っており、正に美少女という言葉が相応しい。

しかし、髪型の方は左右に分けた鴨の毛は縦ロールで纏め、何よりも格好が普通ではなかった。黄金に輝く鎧を身に付け、その腰に差してある剣は宝剣の如く豪華な装飾と赤色の宝石が取り付けられていた。



酒場の中に入り込んだ少女は一階の様子を見て驚き、そして倒れている人間の傍にいるレノを見て動揺する。彼女は状況を理解できず、いったい何が起きたのかを尋ねる。


「そこの貴方!!これはいったい何が起きたんですの!?」
「それは……うわっ!?」
「きゃっ!?」


会話の際中にレノが蓋をしていた酒瓶から再び煙が漏れ始め、それを見たレノは慌てて酒瓶を掴み、しっかりと蓋を抑え込んで今度こそ出てこないようにハンカチで縛り付ける。その様子を見ていた少女は先ほど窓から放出された煙を思い出し、警戒気味にレノに尋ねた。


「そ、それはいったいなんですの!?」
「いや、これは毒が入っていて……」
「毒!?そんな物をどうしてお持ちに!?まさか、貴方がこの惨状を作り出した犯人ですの!?」
「ちがっ!?」


レノは少女の言葉に慌てて否定しようとするが、自分が毒を噴き出していた酒瓶を手にしていた事を忘れ、その様子を見た少女はレノが自分に向けて毒の入った瓶を向けているように見えた彼女は剣に手を伸ばす。


「近寄らないでください!!そんな物を持っている時点で十分に怪しいですわ!!」
「待って、話を聞いて!!俺はこの人達を救い上げようと……」
「おらおら、さっさと目を覚ましな!!」
「ひいいっ!?」


二階からネズミ婆さんの怒声とロンの悲鳴が上がり、少女は驚いた顔を浮かべて二階の方に顔を向け、誰かが暴行を受けているのかと駆け出そうとした。


「誰かの悲鳴が聞こえましたわ!!助けに向かわないと……」
「ちょ、ちょっと待って!!まだ話が……」
「どうして邪魔をするのですか!?はっ、やはり貴方がこの酒場の人たちを……」
「だから違うって、話を聞いてよ!?」
「問答無用ですわ!!そこを退かなければ無理やりにでも押し通ります!!」


少女は剣を握りしめた状態でレノを睨みつけると、その迫力にレノは気圧される。しかし、誤解を解かなければ上の階に彼女を向かわせるわけにはいかない。

仮に少女がロンを尋問するネズミ婆さんとネココを見て一般人を暴行していると勘違いした場合、この酒場の人間達を気絶させた犯人がレノ達だと勘違いされる可能性もある。そのためにレノは彼女を止めて誤解を解こうとするが、自分の邪魔をするレノに対して少女は遂に剣を引き抜く。


「そこを退きなさい!!でなければ容赦しませんわよ!!」
「くっ……!?」


剣を抜いた少女に対してレノは反射的に背中の弓に手を伸ばすが、ここで彼女が所持している剣を見て驚く。その剣の刀身は紅色で染まっており、更に炎のような紋章が刻まれていた。その外見の美しさにレノは無意識に呟く。


「綺麗だ……」
「ふぇっ!?きゅ、急に何を言い出すんですの、そんな綺麗だなんて……」
「あ、いや……」


レノの言葉を聞いて少女は自分が綺麗だと言われたと思い込み、少し照れくさそうな表情を浮かべる。確かに少女の事も綺麗だとは思うが、レノは少女よりも彼女の持つ剣に魅かれて呟いたに過ぎない。


「はっ!?お、お世辞なんかで誤魔化されませんわよ!!さあ、そこを退きなさい!!王国騎士として助けを求める人は見過ごせませんわ!!」
「王国騎士?もしかして、ネズミ婆さんが会うと言っていたのは……」
「うぎゃああああっ!?」


少女の言葉を聞いてレノはやはり彼女がネズミ婆さんが合う役をしていた相手だと確信するが、ここでひときわ大きな悲鳴が二階から上がり、その声を聞いて少女は動き出す。
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