力も魔法も半人前、なら二つ合わせれば一人前ですよね?

カタナヅキ

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二人旅編

辻斬りのヤン

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「ネココ、どうする?この街を離れた方がいいかな?」
「……話を聞く限り、相当に危険な相手に私達は狙われてるみたい。下手にこの街を離れようとすると、逆に敵に狙われる可能性もある」
「まあ、私から助言するとすれば警備兵に頼るのは止めておいた方がいいよ。この街の警備兵程度じゃ、黒狼には敵わないだろうからね。それだけやばい連中が集まってるのさ」
「そのやばい連中を詳しく教えて欲しい。お金は払う」
「……情報が情報だらかね、下手にあんた達に力を貸すと私も命を狙われるかもしれない。だから情報料は高いよ」
「いくらぐらいですか?」
「まあ、ネココとの付き合いも長いからね。今回は金貨10枚でどうだい?」
「……仕方ない、レノも半分出して」


ネズミ婆さんの言葉にネココは渋々と銀貨を50枚用意すると、レノも小袋を取り出し、金貨5枚分の情報量を支払う。金貨10枚分も失うのは惜しいが、命には代えられない。

情報量を受け取ったネズミ婆さんは満足そうに頷き、すぐに彼女は机の上に手配書を置く。手配書の数は5枚、その内の1枚にはロウだった。彼女はロウの手配書に短剣を突き刺すと、残った4枚の手配書の者達を説明する。


「私が調べた限り、街に集まった元黒狼に所属していた賞金首たちはこの5人だよ。ロウの奴を覗くと、あんたらの命を狙う奴はこの4人に限られるね」
「……どれもこれも二つ名持ちの大物賞金首」
「それにこいつらの中には盗賊団や暗殺者を率いている奴もいる。つまり、この4人以外にもあんたらを狙う奴等はごまんといるのさ。これからは夜道を歩く時は気を付けるんだよ」


レノとネココはネズミ婆さんが差し出した手配書に視線を向け、ロウを覗いた4人の賞金首の詳細を知る。誰も彼もが高額な賞金が掛けられており、それぞれの二つ名も物騒な名前ばかりだった。


「毒師のロン、辻斬りのヤン、黒鎖のチェン……紅血のカトレア?」
「全員が賞金首の金額が金貨10枚以上の大物だよ。せいぜい、気を付ける事だね……ん?」
「どうかしました?」


会話の際中にネズミ婆さんは何かに気付いたように天井に視線を向け、彼女は目元を細めると、舌打ちを行う。その様子を見てネココも何かを察したのか、彼女は酒場の出入口に視線を向ける。


「ちっ!!どうやらもうあんたらを狙う奴等が現れた様だね。もうすぐ上まで来ているよ!!」
「えっ!?」
「おい、あんたら!!もうすぐここにやばい奴等が現れる!!巻き込まれたくなかったらすぐに逃げ出す準備は整えておきな!!」
「何だと!?」
「ちっ!!」
「くそがっ……おい、引き上げるぞ!!」


ネズミ婆さんの言葉に酒場に存在した者達は悪態を吐きながら立ち上がると、酒場の出入口に視線を向ける。いったいどんな現れるのかと身構えると、ここで階段を降りる足音が鳴り響く。

何者かが階段を降りてくる音を耳にすると、レノとネココは身構える。やがて階段から人影が現れると、出入口付近で待機していたカマセが棍棒を構える。


「くたばりやがれっ!!」
「カマセ、止めなっ!?」


扉から何者かが出てきた瞬間、カマセは棍棒を全力で振り下ろそうとした。しかし、扉から出てきた相手に棍棒は衝突する事はなく、それどころかカマセの手首に血飛沫が走った。


「うぎゃあああっ!?」
「カマセ!?」


カマセの両手首が切り落とされ、彼は悲鳴を上げて自分の手首を覗き込むと、酒場に侵入してきた相手はそんな彼を見下ろす。姿を現したのは手配書にも乗っていた顔である事をレノは見抜き、手配書の二つ名は「辻斬りのヤン」と書かれていた。

年齢は30代前半、無精ひげを生やした男で外見はそれほど目立つ姿ではなく、地味な印象を抱く。しかし、その手に持つ刀は非常に禍々しい雰囲気を放ち、まるで黒蛇を想像させる形をしていた。歪な形の刀身を目にしてレノは冷や汗を流し、一方でネココの方は男が所持している剣を見て顔色を変える。


「まさか……あれは魔剣?」
「魔剣?」
「剣の形をした武器型の魔道具の通称だよ。奴はね、邪剣という魔剣の使い手さ」


二人の会話を聞いてレノはヤンに視線を向けると、ヤンは周囲を見渡して懐から羊皮紙を取り出し、何かを確認するように酒場内に存在する人間達の顔を伺う。そしてレノとネココの顔を確認すると、笑みを浮かべた。


「ひひっ……見つけたぞ、お前等が俺の獲物だな」
「……やっぱり」
「俺達が狙いか……!!」


ヤンの言葉を聞いてレノは背中の弓を構え、ネココは短刀を引き抜く。ヤンはそんな二人を見て蛇剣という名前の魔剣を構えると、彼に両手首を切られたカマセはヤンが出入口から離れたのを確認して急いで外へ逃げ出そうとした。


「ひ、ひいいっ!?」
「カマセ、動くんじゃない!!殺されるよ!?」
「……もう遅いっ!!」


自分だけ逃げ出そうとしたカマセを見て慌ててネズミ婆さんは引き留めるために声をかけるが、そんな彼に対してヤンは蛇剣を振りかざす。

階段を駆け上がって逃げようとしたカマセだったが、そんな彼の背中に目掛けてヤンは蛇剣を伸ばす。その瞬間、黒蛇を想像させる形をした刀身が変化し、カマセに向けて本物の黒蛇が飛び出したように刃が伸びていく。そしてカマセの首筋を切り裂く。


「あぎゃああああっ!?」
「カマセッ!?」
「そんなっ!?」
「……なんてことを」


カマセの悲鳴が階段に響き渡ると、彼は階段を転げ落ちる。首筋から大量の血を流しながらヤンの前に倒れ込み、そんな彼を見たヤンは刃にこびり付いたカマセの血を舐め上げる。


「誰一人、逃がさない……目撃者は全員殺す」
「お、おい、ふざけるな!!俺達は関係なっ……うぎゃあっ!?」
「黙っていろ」


ヤンの言葉を聞いて酒場に居た男の一人が文句を告げようとしたが、それに対してヤンは蛇剣を軽く振り払うと、男の足首に刃を巻き付かせて切断する。一瞬にして足を斬られた男は悲鳴を上げて倒れ、その姿を見た者達は顔色を青くした。

蛇剣を使いこなすヤンを見てレノとネココも冷や汗を流し、目の前の男に恐怖を抱く。一方でネズミ婆さんの方は殺されたカマセを見て目つきを鋭くさせ、頭は悪い男だったが、それでも自分の用心棒を殺された事に彼女は怒りを抱く。
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