力も魔法も半人前、なら二つ合わせれば一人前ですよね?

カタナヅキ

文字の大きさ
上 下
88 / 215
二人旅編

黒狼の残党

しおりを挟む
「……どんな人だったの?」
「生憎と客の情報は洩らせないよ。情報屋は信用が第一だ、どうしても知りたいなら情報料を払う事だね……そうだね、金貨1枚支払うなら教えてあげてもいいよ」
「高いのか安いのかよく分からない信用……はい」


ネココは自分の懐から銀貨10枚を取り出し、机の上に置く。金貨1枚分の情報量を受け取ったネズミ婆さんは満足そうに頷き、あっさりと教えてくれた。


「私の元に現れたのはあんた達と年齢はそう変わらない女の子だよ。多分、15か16ぐらいだね。見た目の方はエルフみたいに金髪でかなり長かったね。それと、独特な髪型をしていたよ、こう……なんか髪の毛がくるくるとしてたね」
「くるくる?」
「言葉だと説明しにくいね……顔の方は私の若いころにも負けないぐらいに整っていたよ。それと、服装に関してはフードを被って目立たないようにしていたけど、豪華な装飾が施された剣を持っていたね。恐らくだけど、ただの傭兵じゃない。もしかしたら王国騎士かもしれないね」
「王国騎士……」
「なんにせよ、その女の子も黒狼の事を調べるためにここへ来たんだよ。この酒場の事を知っている人間は裏社会の人間だけなんだけどね……これ以上の事は教えられないよ。私もさっき会ったばかりだから、その女の子の情報は調べていないからね」
「分かった、十分聞けた」


ネズミ婆さんの言葉にネココは頷き、レノの方は自分達以外に誰が黒狼の事を聞きに来たのかと疑問を抱く。だが、ここへ来た目的はその黒狼の正体を確かめるためであり、ネココはまずは自分達の事情を話す。


「……今日、私達は隼の団という傭兵団と一緒に盗賊団を捕まえた。その時に私達が捕まえた「ロウ」という賞金首が黒狼の名前を口にした」その後、宿屋に止まっていた時に襲撃を受けた」
「何だって?それでどうしたんだい?」
「襲撃を仕掛けた一人は逃げられたけど、もう一人は自害した。その男の手には黒い狼の頭が刻まれていた……何か心当たりはある」
「ふむ……そいつはもしかしたら黒狼の残党かもしれないね」
「黒狼の残党……?」


話を聞き終えたネズミ婆さんは難しい表情を浮かべ、彼女は何処からか説明するべきか悩み、かつて黒狼が傭兵団から盗賊に成り代わった当時の話を行う。


「あんたらも昔の黒狼の事は知っているんだろう?跡目争いのせいで内部分裂し、結局は二代目が決まった時は黒狼の団員は半分以上も減っていた。その後、盗賊に成り下がって壊滅した……これが世間一般で伝わっている話さ」
「……それは知っている。でも、世間一般にという事は……真実は違うの?」
「違うね、確かに黒狼は内部分裂を引き起こして勢力が拡散したのは確かだよ。だけど、二代目は必死に残された団員を束ねようとしたんだ。だが、脱退した黒狼の元団員が奴等を嵌めたんだ」
「脱退した団員?」
「黒狼を抜けた奴等からすれば、黒狼が活躍して名声を取り戻せば自分達の立場がないだろう?そこで脱退した団員達は黒狼の二代目が密かに悪事を行っている事を国に報告したのさ。実際に黒狼に所属していた団員の言葉となると国側としても無視はできない、しかも調査した結果、二代目は裏では仕事を行っていたのは事実だと発覚した」
「裏の仕事?それって……」
「暗殺稼業さ、依頼人から暗殺を依頼され、対象を密かに始末する……そんな事をしなければ傭兵団を維持できないほどに追い詰められていたんだろうね」


ネズミ婆さんは少し同情するように口にすると、その反応を見てレノとネココは不思議に思い、話の続きを促す。


「それでどうなったんですか?」
「国からすればどんな理由があるにせよ、黒狼の傭兵が暗殺稼業をしている事は許せない事なんだよ。しかも仕事の依頼者の中には王国の貴族も存在した、そいつらは黒狼が疑われていると知ってすぐに自分達の繋がりも調べられるんじゃないかと焦って、黒狼を取り潰すように頼んだのさ」
「えっ!?じゃあ、まさか黒狼が盗賊団になって王国の騎士団に壊滅されたという話は……」
「そういう事さ、黒狼は盗賊団に身を落としたんじゃない、王国貴族共からの申し出によって危険な存在として認識され、国の騎士団に壊滅された……まあ、実際の所は黒狼も追い詰められていたとはいえ、暗殺稼業に手を出していたのは事実だからね。奴等の手によって殺された人間の関係者からすれば許せない事をしたのは事実、同情する余地はあるけどそれでも奴等は傭兵の誇りを汚した事にかわりはないのさ」
「そんな話、知らなかった……」


世間では黒狼は盗賊団に成り下がり、国の騎士団に壊滅させられたと知れ渡っていた。しかし、真実は異なり、黒狼は盗賊ではなく暗殺稼業を行っていた事から国に危険視され、壊滅に追い込まれた事が発覚した。

ネズミ婆さんからすれば黒狼の行為は許される事ではないが、それでも世間で知れ渡っているように彼等は盗賊に身を落としたわけではなく、国側の都合で消された面が大きい。その点に関してはレノもネココも同情したが、話はまだ終わりではなかった。


「話を戻すよ、あんた達を襲ったというい黒狼を名乗る輩についての心当たりはあるよ。最近、黒狼に所属していた元傭兵の賞金首がこの街に集まってきている様子だよ」
「本当ですか!?」
「ああ、実際にあたしの掴んだ情報によるとこの街には二つ名持ちの大物の賞金首共が集まってきている。そして全員が5年前に壊滅していた黒狼に所属する傭兵さ」
「……黒狼の残党がこの街に集まってきている?」
「奴等の目的が何なのか私は知らないけど、あんたらが本当に黒狼に狙われているのなら気を付ける事だね。奴等は内部分裂が起きた後も二代目になった男を信じて最後まで残った奴等だからね……奴等の結束力は固い、仮に捕まっても仲間の情報を吐く前に自害するぐらいだからね」


ネズミ婆さんの言葉にレノは自分達を襲撃した男も自殺し、更に警備兵に捕らえられたロウが隠し持っていた毒で自害したという話を思い出す。もしかしたらレノ達は途轍もない危険な存在に目を付けられた可能性があり、これからどうするべきかレノはネココに相談する。
しおりを挟む
感想 53

あなたにおすすめの小説

冤罪をかけられた上に婚約破棄されたので、こんな国出て行ってやります

真理亜
恋愛
「そうですか。では出て行きます」 婚約者である王太子のイーサンから謝罪を要求され、従わないなら国外追放だと脅された公爵令嬢のアイリスは、平然とこう言い放った。  そもそもが冤罪を着せられた上、婚約破棄までされた相手に敬意を表す必要など無いし、そんな王太子が治める国に未練などなかったからだ。  脅しが空振りに終わったイーサンは狼狽えるが、最早後の祭りだった。なんと娘可愛さに公爵自身もまた爵位を返上して国を出ると言い出したのだ。  王国のTOPに位置する公爵家が無くなるなどあってはならないことだ。イーサンは慌てて引き止めるがもう遅かった。

【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる

三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。 こんなはずじゃなかった! 異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。 珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に! やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活! 右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり! アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

もしかして寝てる間にざまぁしました?

ぴぴみ
ファンタジー
令嬢アリアは気が弱く、何をされても言い返せない。 内気な性格が邪魔をして本来の能力を活かせていなかった。 しかし、ある時から状況は一変する。彼女を馬鹿にし嘲笑っていた人間が怯えたように見てくるのだ。 私、寝てる間に何かしました?

弟に裏切られ、王女に婚約破棄され、父に追放され、親友に殺されかけたけど、大賢者スキルと幼馴染のお陰で幸せ。

克全
ファンタジー
「アルファポリス」「カクヨム」「ノベルバ」に同時投稿しています。

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活

天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる――

悠久のクシナダヒメ 「日本最古の異世界物語」 第一部

Hiroko
ファンタジー
異世界に行けると噂の踏切。 僕と友人の美津子が行きついた世界は、八岐大蛇(やまたのおろち)が退治されずに生き残る、奈良時代の日本だった。 現在と過去、現実と神話の世界が入り混じる和の異世界へ。 流行りの異世界物を私も書いてみよう! と言うことで書き始めましたが、どうしようかなあ。 まだ書き始めたばかりで、この先どうなるかわかりません。 私が書くと、どうしてもホラーっぽくなっちゃうんですよね。 なんとかなりませんか? 題名とかいろいろ模索中です。 なかなかしっくりした題名を思いつきません。 気分次第でやめちゃうかもです。 その時はごめんなさい。 更新、不定期です。

三歳で婚約破棄された貧乏伯爵家の三男坊そのショックで現世の記憶が蘇る

マメシバ
ファンタジー
貧乏伯爵家の三男坊のアラン令息 三歳で婚約破棄され そのショックで前世の記憶が蘇る 前世でも貧乏だったのなんの問題なし なによりも魔法の世界 ワクワクが止まらない三歳児の 波瀾万丈

処理中です...