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二人旅編
黒狼
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――それからネココがよく利用していた宿屋へと案内してもらい、こちらの宿屋の食堂は酒場としても営業しているらしく、宿屋の利用客以外にも大勢の客が入っていた。レノはウルとスラミンを厩舎に預けた後、ネココと二人きりで食事を行う。
食事の際中もネココは黙り込み、何か考え事をしていた。そんな彼女を見てレノはネココが何を悩んでいるのかいい加減に尋ねようとした時、ネココは何かを思い出したのか彼女にしては珍しく大きな声を上げる。
「あっ!?」
「うわっ!?ど、どうしたの!?」
「……思い出した、黒狼の事を」
「黒狼?ああ、そういえばロウとかいう賞金首が言っていた……」
ネココはロウが告げた「黒狼」に関して心当たりを思い出したらしく、彼女は少し落ち着かない様子で説明を行う。
「……レノは黒狼について知ってる?」
「いや、全然……有名な存在なの?」
「5年前まで最強の傭兵団と謳われた組織……その傭兵団の名前が「黒狼」と言われていた」
山でずっと暮らしていたレノは傭兵の事には詳しくはないが、ネココによると5年前までは「黒狼」と呼ばれる傭兵団が存在し、国内でもかなり有名な存在だった。
――今から遡る事10年前、黒狼という名前の傭兵団が結成された。当時の時代の中でも腕利きの傭兵たちが集まり、時代が経過する事に規模は増えて良き、遂には1000人を超える大所帯へとなった。
傭兵団を束ねるのは「ガルシュ」という男であり、1000人を超える荒くれ物の傭兵たちをまとめ上げた人物だった。彼の名声は国中へと広がり、その実力を買われて国の士官を勧められたほどである。
しかし、今から6年ほど前にガルシュは何者かに暗殺され、それから黒狼はおかしくなり始めた。ガルシュが亡くなった後に跡目争いが勃発し、遂には組織は崩壊した。黒狼に所属していた傭兵たちはそれぞれの派閥が争い、中には脱退して新しい傭兵団を立ち上げる者もいた。
結局は1000人も存在した傭兵団だったが、最終的には跡目争いによって傭兵たちは散り散りとなり、最終的には半数以上の傭兵が脱退した。それでも残された者達をまとめ上げたのが「ダユ」という男だった。
ダユはガルシュが亡きあとに黒狼を率いたが、勢力が激減した黒狼を恐れる存在はいなくなってしまい、国からの信頼も失った。その後も団員の脱退は止まらず、結局はダユの元には100人程度しか残らなかった。そこで解散すれば良かったのだが、ダユはあろう事か彼等を率いて盗賊紛いの行動を行う。
一時期は国からの信頼もある傭兵団として有名だった「黒狼」だが、最終的には盗賊団となり下がった事により、国から派遣された騎士団によって黒狼は潰滅した。今では黒狼は悪名として名前が知れ渡り、傭兵時代の栄光は語られなくなった――
「……ここまでが私の知っている限りの黒狼という傭兵団の情報、私も名前は耳にした事はあるし、黒狼に所属していた傭兵とも話をした事がある。だけど、今では黒狼の名前は悪名として広まったから、過去に所属していた傭兵達も黒狼の名前は口にしなくなった」
「その黒狼の名前をどうしてロウが……」
「手配書によると、ロウは元々は傭兵だったみたい。でも、3年ほど前から犯罪を犯して賞金首として指名手配された……つまり、黒狼が壊滅してから2年が経過している」
「え?じゃあ、どうして黒狼の名前なんかを……」
ロウが傭兵として活動していた時期は3年前だとしたら、5年前に既に壊滅したはずの黒狼の名前を語った事にレノとネココは気にかかる。考えられるとしたら彼が実は黒狼に所属していた時期があり、それを最後に告げようとしていたという可能性もあるが、自分が倒された相手にわざわざそんな事を言って何の意味があるのか分からなかった。
「その黒狼は本当に騎士団に壊滅されたの?」
「……それは間違いない。実際に黒狼を壊滅させた騎士団はその後に「白狼騎士団」という名前を与えられている。黒狼の悪名を払拭させるために名付けたみたい」
「白狼騎士団か……ウルが喜びそうな名前だな」
「本人に後で聞いてみる?」
レノとネココは最後にロウが「黒狼」の名前を告げた事に関して疑問を抱き、どうしてロウは最後に5年前に壊滅した黒狼の名前を口にしたのかが気になった――
――その日の晩、レノはネココの隣の部屋にて夜遅くまで起きていた。黒狼の事が気になって眠れないという理由もあるが、別れる前にネココが告げた言葉を思い返す。
『レノ……万が一の場合を想定してすぐに部屋を出る準備は済ませておいた方がいい』
『えっ、どうして?』
『……もしもの話だけど私達が捕まえたロウが黒狼の団員で、彼以外にも黒狼の残党が生き残っていたとしたら私達を狙いに現れるかもしれない。だから常に警戒しておいて』
『……命を狙われるという事?』
『そういう可能性もあるというだけ……でも、油断はしないで』
去り際のネココの言葉が気になったレノはどうしても寝付く事が出来ず、レノはベッドから起き上がるとため息を吐く。既に荷物はいつでも出て行けるように整えており、明日の早朝には宿を抜けて次の街に向かう準備までしていた。
(ネココの予想が当たってないといいんだけど……)
少し気分を晴らすためにレノは水を飲もうとした時、不意に窓に視界が入ると、人影のような物を確認する。驚いたレノは咄嗟に振り返ると、窓を破壊して何者かが入り込む。
窓を破壊して入り込んだ人物は黒装束を見に纏い、右手に短剣を握りしめていた。それを確認したレノは咄嗟にベッドの傍に立てかけて置いた剣に手を伸ばすが、それよりも先に相手は短剣を投げつける。
「死ねっ!!」
「くっ!?」
顔面に向けて的確に投げ込まれた短剣をレノは頭を下げて回避すると、相手は反対の手で腰に差していた短剣を引き抜き、レノの心臓に目掛けて突き刺そうとしてきた。それを見てレノは反射的に拳を握りしめ、拳に風の魔力を込めて放つ。
「このぉっ!!」
「ぐあっ!?」
レノが掌底を放つと、衝撃波のような風圧を発生させて相手を吹き飛ばす。思わぬ反撃を受けた黒装束の人物は壁に叩きつけられ、床に倒れ込む。咄嗟の事だったのでレノとしては満足に風の魔力を練る事は出来なかったが、それでも人間相手なら吹き飛ばすには十分な威力だった。
食事の際中もネココは黙り込み、何か考え事をしていた。そんな彼女を見てレノはネココが何を悩んでいるのかいい加減に尋ねようとした時、ネココは何かを思い出したのか彼女にしては珍しく大きな声を上げる。
「あっ!?」
「うわっ!?ど、どうしたの!?」
「……思い出した、黒狼の事を」
「黒狼?ああ、そういえばロウとかいう賞金首が言っていた……」
ネココはロウが告げた「黒狼」に関して心当たりを思い出したらしく、彼女は少し落ち着かない様子で説明を行う。
「……レノは黒狼について知ってる?」
「いや、全然……有名な存在なの?」
「5年前まで最強の傭兵団と謳われた組織……その傭兵団の名前が「黒狼」と言われていた」
山でずっと暮らしていたレノは傭兵の事には詳しくはないが、ネココによると5年前までは「黒狼」と呼ばれる傭兵団が存在し、国内でもかなり有名な存在だった。
――今から遡る事10年前、黒狼という名前の傭兵団が結成された。当時の時代の中でも腕利きの傭兵たちが集まり、時代が経過する事に規模は増えて良き、遂には1000人を超える大所帯へとなった。
傭兵団を束ねるのは「ガルシュ」という男であり、1000人を超える荒くれ物の傭兵たちをまとめ上げた人物だった。彼の名声は国中へと広がり、その実力を買われて国の士官を勧められたほどである。
しかし、今から6年ほど前にガルシュは何者かに暗殺され、それから黒狼はおかしくなり始めた。ガルシュが亡くなった後に跡目争いが勃発し、遂には組織は崩壊した。黒狼に所属していた傭兵たちはそれぞれの派閥が争い、中には脱退して新しい傭兵団を立ち上げる者もいた。
結局は1000人も存在した傭兵団だったが、最終的には跡目争いによって傭兵たちは散り散りとなり、最終的には半数以上の傭兵が脱退した。それでも残された者達をまとめ上げたのが「ダユ」という男だった。
ダユはガルシュが亡きあとに黒狼を率いたが、勢力が激減した黒狼を恐れる存在はいなくなってしまい、国からの信頼も失った。その後も団員の脱退は止まらず、結局はダユの元には100人程度しか残らなかった。そこで解散すれば良かったのだが、ダユはあろう事か彼等を率いて盗賊紛いの行動を行う。
一時期は国からの信頼もある傭兵団として有名だった「黒狼」だが、最終的には盗賊団となり下がった事により、国から派遣された騎士団によって黒狼は潰滅した。今では黒狼は悪名として名前が知れ渡り、傭兵時代の栄光は語られなくなった――
「……ここまでが私の知っている限りの黒狼という傭兵団の情報、私も名前は耳にした事はあるし、黒狼に所属していた傭兵とも話をした事がある。だけど、今では黒狼の名前は悪名として広まったから、過去に所属していた傭兵達も黒狼の名前は口にしなくなった」
「その黒狼の名前をどうしてロウが……」
「手配書によると、ロウは元々は傭兵だったみたい。でも、3年ほど前から犯罪を犯して賞金首として指名手配された……つまり、黒狼が壊滅してから2年が経過している」
「え?じゃあ、どうして黒狼の名前なんかを……」
ロウが傭兵として活動していた時期は3年前だとしたら、5年前に既に壊滅したはずの黒狼の名前を語った事にレノとネココは気にかかる。考えられるとしたら彼が実は黒狼に所属していた時期があり、それを最後に告げようとしていたという可能性もあるが、自分が倒された相手にわざわざそんな事を言って何の意味があるのか分からなかった。
「その黒狼は本当に騎士団に壊滅されたの?」
「……それは間違いない。実際に黒狼を壊滅させた騎士団はその後に「白狼騎士団」という名前を与えられている。黒狼の悪名を払拭させるために名付けたみたい」
「白狼騎士団か……ウルが喜びそうな名前だな」
「本人に後で聞いてみる?」
レノとネココは最後にロウが「黒狼」の名前を告げた事に関して疑問を抱き、どうしてロウは最後に5年前に壊滅した黒狼の名前を口にしたのかが気になった――
――その日の晩、レノはネココの隣の部屋にて夜遅くまで起きていた。黒狼の事が気になって眠れないという理由もあるが、別れる前にネココが告げた言葉を思い返す。
『レノ……万が一の場合を想定してすぐに部屋を出る準備は済ませておいた方がいい』
『えっ、どうして?』
『……もしもの話だけど私達が捕まえたロウが黒狼の団員で、彼以外にも黒狼の残党が生き残っていたとしたら私達を狙いに現れるかもしれない。だから常に警戒しておいて』
『……命を狙われるという事?』
『そういう可能性もあるというだけ……でも、油断はしないで』
去り際のネココの言葉が気になったレノはどうしても寝付く事が出来ず、レノはベッドから起き上がるとため息を吐く。既に荷物はいつでも出て行けるように整えており、明日の早朝には宿を抜けて次の街に向かう準備までしていた。
(ネココの予想が当たってないといいんだけど……)
少し気分を晴らすためにレノは水を飲もうとした時、不意に窓に視界が入ると、人影のような物を確認する。驚いたレノは咄嗟に振り返ると、窓を破壊して何者かが入り込む。
窓を破壊して入り込んだ人物は黒装束を見に纏い、右手に短剣を握りしめていた。それを確認したレノは咄嗟にベッドの傍に立てかけて置いた剣に手を伸ばすが、それよりも先に相手は短剣を投げつける。
「死ねっ!!」
「くっ!?」
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「このぉっ!!」
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