力も魔法も半人前、なら二つ合わせれば一人前ですよね?

カタナヅキ

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魔法剣士編

閑話 〈ヒカリの人助け〉

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「はああっ!!」
「ぐああっ!?」
「や、止めっ……うぎゃっ!?」
「ひいいっ!?つ、強すぎる、この女……!?」


森を抜け出した後、ヒカリは当てもなく草原を歩ていると、白馬の馬車に襲い掛かる盗賊の集団を発見した。彼女は盗賊に対して剣を振り抜き、次々と圧倒していく。


「やああっ!!」
「こ、この女!!調子に乗るんじゃない!!」
「お頭、やっちまってください!!」


盗賊の頭を務める男がヒカリの前に出向くと、男は魔法金属のミスリルで構成された長剣を取り出す。鋼鉄の比ではない硬度を誇る剣を振りかざし、盗賊の頭はヒカリに切りかかった。


「死ね!!この化物女がっ!!」
「化物なんて……酷いよ!!」


ヒカリは自分の事を化物呼ばわりされた事に怒り、剣を振り抜く。盗賊の頭とヒカリの剣が重なり合った瞬間、ミスリル製の剣の刃が空中に弾き飛ぶ。


「えっ……ば、馬鹿なっ!?こいつはミスリルの剣だぞ!?」
「お、お頭の剣が斬られた!?」
「そんな馬鹿なっ!?」
「戦闘中に余所見なんていい度胸だね!!」


ミスリルの剣を正面から叩き割ったヒカリは盗賊の頭の元へ接近すると、容赦なく首元に向けて刃を放つ。その結果、盗賊の頭の首に刃が通り抜けると、盗賊の頭は苦悶の表情を浮かべて倒れ込む。

その様子を見て残りの盗賊達は悲鳴を上げ、自分達の頭が倒されたと判断して逃走を開始する。その様子を見ていたヒカリは逃げようとする盗賊の後を追う。


「ぎゃああっ!?か、頭が殺られたぁっ!?」
「逃げろ、殺されるぞ!?」
「うひぃっ!!」
「あ、待て!!逃がさないんだから!!」
「お、お待ちください!!」


ヒカリは盗賊を一人も残らずに切り捨てようとするが、そんな彼女に対して後ろから声をかける人物が存在した。それは馬車に乗っていた少女であり、その少女を見てヒカリは驚く。


(うわぁっ……この子、人形みたいに可愛くて綺麗)


容姿端麗なエルフに取り囲まれて暮らしてきたヒカリだが、少女の容姿を見て驚きを隠せず、人間の中にもこんなにも綺麗な少女がいるのかと驚く。

一方で少女は倒れている数十人の盗賊に視線を向け、たった一人で盗賊団の半分以上を仕留めたヒカリの強さに戸惑う。


(なんてお強い……王国騎士の中でもこれだけの人数をたった一人で倒せる人なんていったい何人いるのか……)


少女はヒカリの強さに驚かされ、改めて自分達を救ってくれた事のお礼を言う。彼女はドレスの裾を掴み改めて自己紹介とお礼を告げた。


「初めまして、私の名前はジン国の第三王女のオリビアと申します。この度は私達の命をお救い下さり、誠にありがとうございます」
「えっ!?王女……という事は君は御姫様なの!?」
「こ、こら、王女様に対してなんと無礼な!!頭を下げなさいっ!!」


ここで馬車の中から年老いた執事が現れ、ヒカリに注意する。しかし、そんな老執事に対してオリビアは叱りつけた。


「貴方の方こそ分をわきまえなさい!!この御方がいなければ私達は殺されていたのですよ!?」
「い、いや、それは……」
「だいたい貴女にこの御方を責める権利がおありですか!?盗賊が現れた時、何もせずに怯えて震えていただけではないですか!!」
「も、申し訳ありませぬ!!ですが、私は別に怯えていたわけではなく、姫様を守ろうと……」
「言い訳は結構です!!肝心な時に行動しない人間の言葉など聞く耳持ちません」
「えっと……」


オリビアと老執事のやり取りを見ていたヒカリは困った表情を浮かべ、外見は可憐な少女だが老執事に対してきっぱりと叱りつける光景を見て意外と気の強い性格だと知る。

自分に仕える老執事を叱りつけたオリビアはヒカリと向かい合い、改めて部下に非礼を詫びると倒れている者達に視線を向ける。すると、ここで不思議な事にヒカリに斬られて倒れたはずの者達から血が流れていない事に気付く。


「あ、あら……もしかして、この者達は気絶しているだけですか?」
「え?うん、そうだよ。皆、まだ生きてるはずだよ。しばらくは目を覚まさないはずだけど……」
「ど、どうして?確かに貴方はその剣で斬られたはずでは……」
「うん、確かに斬ったよ。でも、僕の剣は肉体を斬るんじゃなくて、悪の心を斬る剣なんだよ」
「あ、悪の人の心を斬る……?」


ヒカリの言葉にオリビアは戸惑うと、ヒカリは彼女の前で腕を伸ばすと、反対の腕で剣を振り下ろす。そんな事をすれば腕が刃で切り裂かれるはずだが、何故かヒカリの腕に触れた瞬間に刃は通過する。


「えっ!?今、腕をすり抜け……!?」
「そう、この剣はね。僕の斬りたい物だけを斬ってくれる剣なんだよ。僕が人を斬る時、悪人の場合は悪の心を斬りたいと願えばこの剣はその願いに応えてくれる……だから、この人達を傷つけずに痛みだけを与えて倒す事が出来たんだよ」
「そ、そんなまさか!?」


オリビアはヒカリの言葉を聞いて信じられない表情を浮かべ、倒れている者達に視線を向ける。確かに誰一人として傷一つ付いておらず、苦痛の表情は浮かべているが気絶しているだけの状態だった。

倒れている盗賊、腕をすり抜けた剣、何よりもヒカリの話を聞いてオリビアは彼女が嘘を言っている様子は見えず、ある確信を抱く。


(この御方は持っている剣……まさか、あの伝説の勇者の聖剣では!?)


遥か昔、この世界を救うために勇者という存在がいた。歴史上の中で勇者と呼ばれる人物は複数名存在したが、その内の1人は「光の剣」と呼ばれる剣を持っていたという。その剣を善人に振れば決して肉体に傷つけず、悪人に剣を振ればその人間の悪の心に応じて肉体を傷つけずに痛みを与えるという伝承が王家に残っていた。

しかし、聖剣を扱えるのは勇者のみだと言われ、他の人間が勇者の聖剣を手にしてもその真の能力は扱えない。勇者に相応しい資格を持つ者だけが聖剣を扱えると伝わっていた。


(間違いありません……この御方は、勇者様です!!)


オリビアは目の前に立つヒカリこそが勇者だと確信し、第三王女のオリビアと後に光の勇者の再臨と呼ばれるヒカリはこうして運命的な出会いを果たした――
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