力も魔法も半人前、なら二つ合わせれば一人前ですよね?

カタナヅキ

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魔法剣士編

少年の噂

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「まずは退魔のローブだ。君が律儀に依頼を終えるまでは受け取れないと断っていた物だよ」
「おおっ……あ、ありがとう」
「……これが噂に聞く退魔のローブ」


退魔のローブを受け取ったレノは感動しながらも受け取り、遂にこちらのローブを手に入れた事を喜ぶ。紆余曲折あったが、念願の金貨10枚分相当のローブを手に入れた事は嬉しかった。

本来ならばこの退魔のローブは前金代わりに受け取る約束だったのだが、依頼を達成できるかどうかも分からないのでレノは受け取りを拒否し、依頼を終えた後に受け取る事にした。そして見事に依頼を果たしたレノは遂に長旅では欠かせない汚れにくくて頑丈な衣類を手にする。


「それと、これは僕からの気持ちだ。君の場合はお金を用意するより、こちらの方が嬉しいと思ってね」
「えっ?これは……風の魔石?」
「ああ、残念だけど君が魔法腕輪に装着していた魔石は駄目になってしまってね。その代わりと言っては何だが、君が身に付けていた物よりも高品質な魔石を用意したよ」


アルトによるとレノが元々身に付けていた魔法腕輪の魔石は残念ながら砕けてしまった。内部に蓄積されていた魔力を使い切った事で魔石は色を失い、砕けたという事でアルトは新しい風属性の魔石を用意してくれた。


「それと、これも餞別として渡しておこうか」
「えっ!?これって……」
「……あの時の指輪?」
「ああ、火属性の魔石は付け替えさせてもらったから、そう簡単に壊れる事はないと思うよ」


魔石の他にアルトは指輪を差し出すと、それは彼が身に付けていた指輪だと判明する。アルトはただの装飾品の代わりに所持していた代物だが、レノの場合は彼の魔法剣の強化に役立つだろうと考えたアルトは指輪も渡す。


「貰ってくれ、正直に言って僕が持つよりも君が持っていたほうが役立つだろう」
「でも、こんな高価な物……」
「大丈夫、それぐらいの指輪ならいっぱいあるからね。ネココも何か欲しい物があるなら今のうちにいいなよ」
「……なら、スラミンの好物の水属性の魔石をいくつか欲しい」
「ああ、それならすぐに用意させるよ。さてと……今日まではこの屋敷に泊まっていいという事だ。明日からは僕はこの屋敷を出て行くけど、二人はどうするんだい?」
「そうだな……俺は次の街に行こうと思う」
「……私も次の街に行こうと思ってた。一緒に行く?」
「本当に?じゃあ、行こうか」
「そうか、僕は色々と用事があるからもうしばらくはこの街にいるけど……明日でお別れという事か」


レノ達とアルトは出会った帰還は短いが、共に冒険して窮地を脱したせいか、何となくだが別れるのが惜しく感じた。レノにとってはヒカリ以外の「友達」が初めて出来たように感じ、明日を迎えるとアルトとは別れる事が少し寂しく思った。

その日の晩、レナ達は夜通し語り続け、森での出来事を思い返しては笑ったり、呆れたり、怒ったりもしたが、楽しいひと時を過ごした――





――その頃、一足先にアルトから報酬を受け取って別れていたナオは酒場で酒を飲み明かしていた。彼女はいくら酒を飲んでも気分が晴れず、先の仕事での失態を思い出して気に入らなそうな表情を浮かべる。


「くそっ……不甲斐ない、私があんな子供に助けられるなんて」


ナオは自分がゴブリン亜種の群れに捕まり、トレントで拘束されていた事を思い出す。本来であれば病み上がりの彼女は安静にしなければならないのだが、誇り高き戦士であるはずの自分がレノ達のような子供に救われたという事実に我慢ならず、酒を飲まずにはいられなかった。

何本もの酒を空瓶にしながらもナオは落ち着かず、黙々と新しい酒をコップに注ぐ。彼女の脳裏にはレナがトレントの枝を切り裂く際、かつて戦場で「巨人殺しの剣聖」と恐れられた男の事を思い出す。


(あの少年が使っていた技、間違いなく巨人殺しの剣技のはず……どうしてあんな子供が巨人殺しの剣技を知っている?いや、そもそも何故扱える?まさか、巨人殺しの弟子?それとも子供?孫?)


レノが繰り出した「地裂」の事を思い返してナオは忘れることが出来ず、巨人族の傭兵にとっては巨人殺しの剣聖は恐るべき存在であり、同時に畏怖の対象でもあった。


(仮に巨人殺しの剣聖の弟子だとした場合……きっと、大勢の者が放っておかないだろうな)


巨人殺しの剣聖とレノがどのような関りがあるのかは不明だが、既に噂は流れ始めていた。ニノの街で巨人族の冒険者を倒した少年の話はこの街にも伝わり、そして今回の一件でアルトが引き連れた少年こそが巨人族を倒した少年である事も知られていた。

レノの預かり知らぬところで彼の噂は広まり始め、やがてナオの予想通り、彼の存在を耳にして多くの者がレノに興味を抱き始めていた――
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