力も魔法も半人前、なら二つ合わせれば一人前ですよね?

カタナヅキ

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魔法剣士編

捕縛された生物の末路

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「グギィッ、ギギギッ!!」
「グギィイイッ!!」
「グギャギャッ!!」


ゴブリン亜種の群れは大樹に向けて叫び声をあげ、その光景を見たレノ達はゴブリン亜種が大樹に語り掛けているように見えた。やがて大樹の樹皮に変化が訪れ、まるで「人面」のような皺が出来上がる。

人面は目元の皺の部分を怪しく光り輝かせると、ゴブリン亜種の群れが連れ出したウル、コクヨウ、ナオに視線を向け、人間が腕を伸ばすのように枝を動かすと、枝に巻き付いている蔓がウル達の身体に絡みつく。


『ッ……!?』


ウル達はトレントの枝から伸びた蔓に拘束され、そのまま持ち上げられて吊るされてしまう。その様子を見ていたゴブリン亜種の群れは怯えるように大樹から離れると、トレントは彼等に視線を向け、やがて人面が消えていく。その様子を見てゴブリン亜種の群れは安心したように果実に喰らいつき始めた。


「……本当に魔物だったのか」
「あれがトレントの正体さ。一見は大樹には見えないが、いざという時は自分動いて戦う事だって出来る。本当に厄介な魔物だよ……」
「でも、どうして捕まえた獲物をぶら下げるの?あの洞穴にいた魔獣たちは根っこに拘束されて死んでいたのに……」


ゴブリン亜種が出現した洞穴にはトレントの根が多数の魔獣の死骸を拘束していたが、何故か生きて捕まったウル達は地上部分へと運び込まれた。その事にネココは不思議に思うと、アルトはトレントの知識を思い出す。


「そうだ、思い出したぞ。トレントは本来は獲物を捕まえた場合、毒液を獲物に流し込んで仮死状態に追い詰めた後、その獲物の養分を吸い上げるはずだ。つまり、地上に運び込んだ獲物は毒液を送り込むまでは捕まえるはずだ」
「毒液!?なら、すぐに助けに行かないと……」
「待つんだ、すぐに毒液を撃ち込まれる事はあり得ない。トレントは捕まえた獲物を逃がさないように吊るした後、相手が暴れる体力もなくなるまで放置し続ける。実際に襲われた人間の中には1日以上も吊るされた者もいるらしい」
「なら、今すぐに毒液を撃ち込まれる可能性は低い?」
「そういう事だ。助けるにしてもトレントが活発的に行動を起こす昼間よりも、日が暮れた夜の方がいい。植物型の魔物は光合成が出来ない間は動きが鈍くなる。動くとしても、このまま夜を迎えるまで待つんだ」
「そんな……」


現在の時刻は朝を迎えたばかりであり、夜になるまでは数時間の猶予があった。その間にウル達にもしも毒液を撃ち込まれればどうなるのかとレノは心配するが、今この状況では彼等を助ける手段はない。


「落ち着くんだレノ君、焦って行動しても状況は好転しない。夜を迎えるまでの間に僕達も作戦を立てよう」
「……作戦?まさか、私達だけで挑むの?このまま引き返して街の人間に危険を伝えた方がいい」
「それは無理だ。森の奥にトレントが住み着いた、仲間が人質になっている……そんな話を聞かされて簡単に信じることが出来るかい?第一に街に戻るとしても僕達の足はないんだ。徒歩で戻るとしても森を抜け出して草原を移動するだけで1日は掛かってしまうね、そもそも僕の場合は街に戻ればすぐに屋敷に閉じ込められるだろう」
「なら、俺達だけで何とかするんですか?あの数のゴブリン亜種と、トレントを相手に……!?」
「彼等を救うには他に方法はない……といっても、馬鹿正直に正面から挑む必要はない。まずは僕達もこの場を離れて身体を休める場所を探そう」


アルトの言葉にレノもネココも反対せず、確かにこの場所に踏み止まるのは危険だった。これまでの道中でレノ達も疲労が蓄積しており、一先ずは身体を休める場所を探す――




――それから数十分後、レノ達はトレントとゴブリン亜種の住処から離れた場所に存在する小川に辿り着き、そこで魚を取って朝食にありつく。交代で周囲の見張りを行いながらもレノ達は捕まったウル達を救い出す作戦を考える。


「見た所、ゴブリン亜種に捕まった魔物の中にはスライムがいなかった。まあ、スライムを連れてきたところで餌にはならないと判断されたんだろう」
「むうっ……スラミン、無事だと良いけど」
「それよりも本当に俺達だけで救い出せるんですか?あんな数のゴブリン亜種、流石に俺達だけでは倒せませんよ」


トレントの周囲には数十匹のゴブリン亜種が存在し、通常種のゴブリンも多数存在した。合計で恐らくは100匹近くのゴブリンが生息していると思われ、現実的に考えてレノ達だけでは全てのゴブリンを倒す事は不可能だった。

レノが魔弓術で遠くから敵を狙い撃つとしても、矢の数には限界がある。ネココが気配を殺してゴブリンに気付かれないように近付くという手段もあるが、枝に吊るされているウル達を救い出す方法がない。

アルトも収納鞄の中に入れて置いた道具を全て取り出し、役立ちそうな物を吟味する。その結果、彼は持ち出してきた道具の中で一番役立ちそうな物を二人に見せつける。


「二人とも、これを見てくれ」
「これは……火属性の魔石の指輪?どうしてこんな物を持ってるの?」
「女の子と仲良くなった時のために僕は普段から装飾品を多めに持っているんだ。この指輪に取り付けられている魔石を破壊すれば魔力が暴発してちょっとした爆発を引き起こせる」
「……理由はともかく、貴重な魔石を壊してもいいの?」
「元々、僕がこの森に来るために彼等を巻き込んでしまった。もちろん、君たちもね。それを考えたらこんな指輪程度、失ってもいいよ」
「アルト……」


火属性の魔石の指輪をアルトは見つめ、一応は使えるかどうかを試すために指に嵌め込むと、彼は少し離れた場所に存在する樹木に指輪を向けた。


「これを使えば僕も魔法を使う事ができる……ファイアボール!!」
「うわっ!?」


指輪が光り輝くと。だいたい10センチ程度の大きさの火の塊が誕生し、樹木に向けて放たれた。アルトが放った「火球」は火属性の魔力を球体型にして放つ魔法であり、見事に樹木に的中する。

しかし、当てる事には成功したが、樹木は樹皮の部分が焦げた程度ですぐに消えてしまい、その様子を見ていたアルトは何とも言えない表情を浮かべ、ため息を吐き出す。
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