上 下
66 / 215
魔法剣士編

スライム

しおりを挟む
「えっと……ネココさんは魔獣は?」
「……ネココでいい、大丈夫。私の友達はもう傍に居る」
「傍に居る?でも、何処にも……」
「レノ君、あそこを見るんだ」


レノは周囲を見渡しても魔獣らしき姿は見当たらないが、アルトはレノたちが流れてきた川の方を指差す。川にレノは視線を向けると、水中の中に何かが潜んでいる事に気付く。


「スラミン、カモン」
『ぷるる~んっ!!』
「うわっ!?」
「キャインッ!?」
「ヒヒンッ!?」


派手な水飛沫を上げながら水中から丸くて大きな物体が出現すると、レノたちの前へと降り立つ。この際にレノたちの身体に水が降りかかり、ウルとコクヨウは悲鳴を上げる。

いったい何が出てきたのかとレノは物体に視線を向けると、そこには青くて楕円形で半透明の不思議な生物が存在した。その生物には二つの角のような触覚が頭に生えており、非常に愛らしい顔をしていた。


「ぷるんっ、ぷるるんっ!!」
「紹介する、この子はスラミン。見ての通り可愛いスライム」
「す、スライム?スライムって……あのスライム?」
「ほう、これは珍しい……スライムを見るのは久しぶりだ」
「な、何なんだこいつは……」


スライムという単語にレノは驚き、魔物の中でも非常に有名な存在でありながら滅多に姿を見かけない魔物だった。スライムは世界で最も人間に有効的な存在だと言われ、その外見の愛らしさも相まって人々から愛されている存在だった。

レノたちの前に現れたスライムは体長が2メートルは存在し、全体が青色で人間が乗り込めるほどの大きさは誇った。通常のスライムは大きさは30センチ程度だが、このスライムに関しては規格外の体格を誇る。


「この子は私の子供の頃からの友達。ブルースライム種と呼ばれるスライム、名前はスラミン」
「スラミン……ど、どうも」
「ぷるんっ(こちらこそ)」


スラミンという名前のスライムはレノが頭を下げると、言葉も理解できるのか自分も同じように頷く素振りを行う。それを見たアルトは興味深そうな表情を浮かべ、ウルから下りるとスラミンの元へ向かい、虫眼鏡で覗き込む。


「ほうほう、ブルースライム種か……水辺などに好んで生息するスライム種か。汚れた水を飲むと体の中で浄化させ、綺麗な水へと作り変える事から水の精霊や、水饅頭と呼ばれるスライムだね」
「ぷるぷるっ(水饅頭じゃないやい)」
「むっ!?このスライム、僕の言葉を理解できるのか?これは興味深い、解剖して調べてもいいかな」
「……そんな事をすれば貴方を殺す。第一にスライムだから解剖しても中身は水しか出てこない」


興奮した様子でスラミンを覗き込むアルトにネココは若干引き気味に答えると、彼女はアルトを追い払ってスラミンの上に乗り込む。頭に生えている角のような触手を掴み、その上に正座するような形で乗り込む。

スラミンに乗り込んだネココを見てどうやって移動するのかとレノは疑問を抱くと、スラミンは大きく身体を跳ねて前方へ向けて移動を開始する。


「ぷるるんっ(発進!!)」
「……早く追いかけないと置いていく」
「あ、ちょっ!!待ってくれ、まだ観察は終わってないんだ!?」
「いや、そんな事を言っている場合ですか!!早く後ろに乗って下さい、アルトさん!!」
「ウォンッ!!」
「くっ……スライム風情に負けるな、コクヨウ!!」
「ウォオンッ!!」


ネココを頭に乗せたスライムは大きく身体を弾ませて移動を行い、その速度はかなり早かった。レノはアルトを後ろに乗せてウルを走らせると、すぐにナオもコクヨウを走らせて後を追う。


「ぷるぷるっ(僕に付いてこれるかな!?)」
「ウォンッ(舐めるな!!)」
「ヒヒンッ(こ、この珍獣どもがっ!!)」


3体の魔獣は追いかけっこをするように草原を駆け抜け、目的地である「アカバの森」へ向けて移動する。馬車ならば数時間は掛かる距離だが、この3匹の移動速度ならばそれほどかからずに到着すると思われた――





――それから1時間程時間が経過した頃、レノたちはアカバの森を視界に捉え、立ち止まる。魔獣達は休みも挟まずに全力疾走で移動したせいか疲れた表情を浮かべ、特にウルとコクヨウの方は疲労が激しく、飼い主から水を与えられていた。


「ほら、ウル……ゆっくり飲みなよ」
「クゥ~ンッ……」
「コクヨウ、無茶をし過ぎだ」
「ヒィンッ……」
「全く、2匹ともだらしない……スラミンはこんなに元気なのに」
「ぷるぷるっ♪」


ここまでの移動で疲れ果てたウルとコクヨウに対し、スラミンの方は周囲を元気よく跳ね回り、特に疲れている様子はない。レナとナオは水筒の水を魔獣たちに飲ませ、ゆっくりと休ませる。

その間にアルトの方はアカバの森の様子を調べ、彼は腰に掲げていた鞄から剣を取り出す。その様子を見たレノは驚き、どう見てもアルトが所持している鞄の大きさから考えても取り出せるはずがない大きさの剣が収納されていた。


「よし、ここからは慎重に行かないといけない。念のために僕も帯刀するよ」
「あの、アルトさん。今、その剣は何処から……」
「ん?ああ、僕の鞄は「収納型」の「魔道具」だからね。これぐらいの剣や道具なら取り込めるんだよ」
「何だと!?その鞄は収納型の魔道具なのか!?」


ナオはアルトの話を聞いて驚き、レノも今までに何度か魔道具という単語は聞いた事があるが、実際に目にするのは初めてだった(魔法腕輪は除く)。アルトが所持している鞄は「収納型」と呼ばれる魔道具の一種らしく、外見に反して様々な物を取り込めるという。



「僕の所有している「収納鞄」は総重量が100キロまでならどんな道具を取り込む事が出来るんだ。しかも制限重量内の道具を鞄の中に入れていても、実際の重量は普通の鞄と同じ重さしか感じない。正に旅する上では心強い品物さ!!」
「へえ、それじゃあその中に色々と入れられるんですか?」
「ああ、といってもこれを買うのには相当苦労したけどね。普段は研究道具を持ち運ぶ時にしか使用していないんだが、これから入るのは魔物の巣窟だからね……万全の準備を整えておく必要がある」
「…………」


アルトの言葉にナオは彼に視線を向け、やがて森の方へと顔を向ける。他の者達もこれからアカバの森に入る事を意識し、気を引き締め直そうとした時、ここでレナは視界の端に何かを捉えた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

父が再婚しました

Ruhuna
ファンタジー
母が亡くなって1ヶ月後に 父が再婚しました

「クズスキルの偽者は必要無い!」と公爵家を追放されたので、かけがえのない仲間と共に最高の国を作ります

古河夜空
ファンタジー
「お前をルートベルク公爵家から追放する――」それはあまりにも突然の出来事だった。 一五歳の誕生日を明日に控えたレオンは、公爵家を追放されてしまう。魔を制する者“神託の御子”と期待されていた、ルートベルク公爵の息子レオンだったが、『継承』という役立たずのスキルしか得ることができず、神託の御子としての片鱗を示すことが出来なかったため追放されてしまう。 一人、逃げる様に王都を出て行くレオンだが、公爵家の汚点たる彼を亡き者にしようとする、ルートベルク公爵の魔の手が迫っていた。「絶対に生き延びてやる……ッ!」レオンは己の力を全て使い、知恵を絞り、公爵の魔の手から逃れんがために走る。生き延びるため、公爵達を見返すため、自分を信じてくれる者のため。 どれだけ窮地に立たされようとも、秘めた想いを曲げない少年の周りには、人、エルフ、ドワーフ、そして魔族、種族の垣根を越えたかけがえの無い仲間達が集い―― これは、追放された少年が最高の国を作りあげる物語。 ※他サイト様でも掲載しております。

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

【完結】【勇者】の称号が無かった美少年は王宮を追放されたのでのんびり異世界を謳歌する

雪雪ノ雪
ファンタジー
ある日、突然学校にいた人全員が【勇者】として召喚された。 その召喚に巻き込まれた少年柊茜は、1人だけ【勇者】の称号がなかった。 代わりにあったのは【ラグナロク】という【固有exスキル】。 それを見た柊茜は 「あー....このスキルのせいで【勇者】の称号がなかったのかー。まぁ、ス・ラ・イ・厶・に【勇者】って称号とか合わないからなぁ…」 【勇者】の称号が無かった柊茜は、王宮を追放されてしまう。 追放されてしまった柊茜は、特に慌てる事もなくのんびり異世界を謳歌する..........たぶん….... 主人公は男の娘です 基本主人公が自分を表す時は「私」と表現します

【完結】私だけが知らない

綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。 優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。 やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。 記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位 2023/12/19……番外編完結 2023/12/11……本編完結(番外編、12/12) 2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位 2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」 2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位 2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位 2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位 2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位 2023/08/14……連載開始

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

私を裏切った相手とは関わるつもりはありません

みちこ
ファンタジー
幼なじみに嵌められて処刑された主人公、気が付いたら8年前に戻っていた。 未来を変えるために行動をする 1度裏切った相手とは関わらないように過ごす

処理中です...