力も魔法も半人前、なら二つ合わせれば一人前ですよね?

カタナヅキ

文字の大きさ
上 下
49 / 215
一人旅編

野営と夜盗

しおりを挟む
――白狼種のウルを仲間にしたレナは彼が落ち着くまで走らせると、ネカの商団と合流する。今日の所は野営を行い、明日の朝にオークの住処が存在する森の中に向かう事が決まった。

基本的に外で野営を行う際、草原などの見晴らしの良い場所では見張りを立てて魔物を警戒しながら夜を過ごさなければならない。野生の魔物は火を恐れるが、魔物の場合は火を見ると人間が存在する事に気付き、逆に引き寄せる可能性もある。

一人旅の時のレナは山から持って来た特殊な香草の粉末を毛布等に振りかけ、身体に纏う事で臭いを掻き消す。コボルトやボアなどの魔物は嗅覚が鋭いため、上手く隠れていても臭いで気づかれる恐れがある。そのために夜を過ごす時は臭い消す対策が必要不可欠だった。

それに襲い掛かってくる相手が魔物だけとは限らず、夜盗に襲われる可能性も考慮して大人数で動くときは常に誰かが見張りを立てる必要がある。仮にレノが商団の護衛として雇われていた場合は彼も見張り役を任せられる立場だが、明日はレノがオークを討伐するため、体力温存のために他の者が見張りを任せられる。


「ささ、レノ殿どうかゆっくりとおつくろぎください。温かいスープもありますよ」
「ありがとうございます。でも、そんなに気を遣わなくてもいいんですよ?」
「何を言ってるのですか、明日はレノ殿にしっかりと働いてもらいますからな。遠慮せずにどんどん食べてください」
「ガツガツッ……」


レノの隣には大きな骨付き肉に嚙り付くウルが存在し、昼間のうちに遭遇したボアの死骸をウルは喰らっていた。ちなみにこのボアを倒したのはレノではなく、ウルが自力で倒した。

白狼種は並の魔獣よりも力が強く、非常に素早い。逃げ惑うボアに対してウルは背後から追いつき、首筋を食らいついて押し倒した時はレノも流石に驚いた。


(心強い味方が出来たな。それにしてもこの子、何だか他人な気がしないな。ずっと前から一緒にいたような気がする)


ギルドマスターのテンから引き取ったウルはレナによく懐き、まるで小さい頃から飼われていたようにレノに懐いていた。そんな白狼種のウルと戯れるレノの姿を見たネカはやはり彼が只者ではないと悟り、ここでレノにある提案を行う。


「レノ殿、よろしければこれからは商団の護衛として私の元に来ませんか?レノ殿の実力ならば月に金貨2枚……いや、3枚は支払いますぞ!!」
「えっと、すいません。俺の旅の目的は王都へ向かう事なので護衛はちょっと……」
「そうですか……残念です。しかし、私もいつか王都で店を持ちたいとは思っています。もしかしたらいつの日か王都でレノ殿と再会する日が訪れるかもしれませんな」
「え、そうだったんですか?」


ネカはレノに断られて残念そうな表情を浮かべるが、ネカも王都で商売を始めたいと聞いたレノは驚く。それからしばらくの間はネカと世間話をしていたレノであったが、途中でウルが何かに気付いたように食事を中断し、唸り声を上げる。


「グルルルッ……!!」
「ウル?どうかしたの?」
「か、会長!!大変です、こちらに近付いてくる集団を発見しました!!」
「何っ!?」


馬車の上から見張りを行っていた護衛が自分達の元に接近する人の姿を捉え、馬に乗り込んだ数十名の男達が近づいている事に気付く。


「こちらに向けて真っ直ぐに近づいています!!奴等、武器を抜いています!!明らかに俺達を襲うつもりだ!!」
「くっ……こんな時に夜盗に見つかったか!!すぐに警戒態勢に入れ!!」
「夜盗……ウル、背中に乗るよ」
「ウォンッ!!」


レノはすぐにウルの背中に乗り込むと、彼の背中の上から見張りが発見したという盗賊と思われる集団を確認する。確かに馬に乗り込んで武器を構える男達の姿を確認し、こちらに間もなく到着すると思われた。

慌てて商団の人間達は盗賊が辿り着く前に馬車の中に避難し、護衛の人間達は武器を構えるが、こちらの護衛の数は10人程度しかいない。敵の数はレナが確認した限りでは30名近くは存在し、このまま突っ込まれたらレナはともかく、他の者達が危ない。


(敵の数は30人ぐらいか……夜だから少し見えにくいけど、狙えなくもないか)


弓を手にしたレノは矢筒を抱え、集団の先頭を走る男に視線を向けた。この男が盗賊の頭だと思われ、その手には棍棒が握りしめられていた。


「はっはあっ!!久しぶりの獲物だ、全員ぶっ殺して荷物を奪っちまえっ!!」
「頭ぁっ!!どうやら奴等、商団のようですぜ!!」
「へへっ、こいつは運がいいな!!金目の物は一つ残らず持って帰ろよ!!」


先頭を走る男に他の者達は話しかけ、標的が商団だと知って興奮した声を上げる。そんな彼等を見てレノは弓を構えると、こちらに辿り着く前に敵の数を減らすために矢を放つ。


(この距離なら……いける!!)


レノは付与魔術を発動させ、いつも通りに矢を放とうとした。しかし、ここで予期せぬ事態が発生した。それはレノが弓に風の魔石を取り付けたままである事を忘れ、いつも通りに矢を放ってしまう。

風の魔石の魔力を取り込んだ矢は接近してきた盗賊の頭の右腕に衝突した瞬間、腕を引き千切り、強烈な突風を発生して後方に続いていた盗賊達も巻き込んで吹き飛ぶ。腕を吹き飛ばされた盗賊の頭は悲鳴を上げて地面に倒れ込み、他の者達も馬から落ちてしまう。
しおりを挟む
感想 53

あなたにおすすめの小説

【完結】そして、誰もいなくなった

杜野秋人
ファンタジー
「そなたは私の妻として、侯爵夫人として相応しくない!よって婚約を破棄する!」 愛する令嬢を傍らに声高にそう叫ぶ婚約者イグナシオに伯爵家令嬢セリアは誤解だと訴えるが、イグナシオは聞く耳を持たない。それどころか明らかに犯してもいない罪を挙げられ糾弾され、彼女は思わず彼に手を伸ばして取り縋ろうとした。 「触るな!」 だがその手をイグナシオは大きく振り払った。振り払われよろめいたセリアは、受け身も取れないまま仰向けに倒れ、頭を打って昏倒した。 「突き飛ばしたぞ」 「彼が手を上げた」 「誰か衛兵を呼べ!」 騒然となるパーティー会場。すぐさま会場警護の騎士たちに取り囲まれ、彼は「違うんだ、話を聞いてくれ!」と叫びながら愛人の令嬢とともに連行されていった。 そして倒れたセリアもすぐさま人が集められ運び出されていった。 そして誰もいなくなった。 彼女と彼と愛人と、果たして誰が悪かったのか。 これはとある悲しい、婚約破棄の物語である。 ◆小説家になろう様でも公開しています。話数の関係上あちらの方が進みが早いです。 3/27、なろう版完結。あちらは全8話です。 3/30、小説家になろうヒューマンドラマランキング日間1位になりました! 4/1、完結しました。全14話。

1人生活なので自由な生き方を謳歌する

さっちさん
ファンタジー
大商会の娘。 出来損ないと家族から追い出された。 唯一の救いは祖父母が家族に内緒で譲ってくれた小さな町のお店だけ。 これからはひとりで生きていかなくては。 そんな少女も実は、、、 1人の方が気楽に出来るしラッキー これ幸いと実家と絶縁。1人生活を満喫する。

ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活

天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる――

悪意のパーティー《完結》

アーエル
ファンタジー
私が目を覚ましたのは王城で行われたパーティーで毒を盛られてから1年になろうかという時期でした。 ある意味でダークな内容です ‪☆他社でも公開

三歳で婚約破棄された貧乏伯爵家の三男坊そのショックで現世の記憶が蘇る

マメシバ
ファンタジー
貧乏伯爵家の三男坊のアラン令息 三歳で婚約破棄され そのショックで前世の記憶が蘇る 前世でも貧乏だったのなんの問題なし なによりも魔法の世界 ワクワクが止まらない三歳児の 波瀾万丈

魔法のせいだからって許せるわけがない

ユウユウ
ファンタジー
 私は魅了魔法にかけられ、婚約者を裏切って、婚約破棄を宣言してしまった。同じように魔法にかけられても婚約者を強く愛していた者は魔法に抵抗したらしい。  すべてが明るみになり、魅了がとけた私は婚約者に謝罪してやり直そうと懇願したが、彼女はけして私を許さなかった。

いっとう愚かで、惨めで、哀れな末路を辿るはずだった令嬢の矜持

空月
ファンタジー
古くからの名家、貴き血を継ぐローゼンベルグ家――その末子、一人娘として生まれたカトレア・ローゼンベルグは、幼い頃からの婚約者に婚約破棄され、遠方の別荘へと療養の名目で送られた。 その道中に惨めに死ぬはずだった未来を、突然現れた『バグ』によって回避して、ただの『カトレア』として生きていく話。 ※悪役令嬢で婚約破棄物ですが、ざまぁもスッキリもありません。 ※以前投稿していた「いっとう愚かで惨めで哀れだった令嬢の果て」改稿版です。文章量が1.5倍くらいに増えています。

〈完結〉遅効性の毒

ごろごろみかん。
ファンタジー
「結婚されても、私は傍にいます。彼が、望むなら」 悲恋に酔う彼女に私は笑った。 そんなに私の立場が欲しいなら譲ってあげる。

処理中です...