力も魔法も半人前、なら二つ合わせれば一人前ですよね?

カタナヅキ

文字の大きさ
上 下
39 / 215
一人旅編

魔石の効果

しおりを挟む
「えっと……ここで合ってるよね?」


ネカのお勧めの宿屋はこの街の中でも一番豪華で立派な建物だった。宿屋に泊まった事は初めてではないが、これまでに泊まった宿屋と比べても大きな建物にレノは圧倒されながらも、ネカの紹介状を手に宿屋へと入る。


「いらっしゃいませ、御一人様ですか?」
「あ、はい……あの、ネカという人から紹介状を貰ったんですが」
「ネカ様から……分かりました、拝見させて貰ってもいいですか?」


宿屋の主人と思われる女性にレノは紹介状を渡すと、彼女は中身を確認して納得したように頷き、部屋まで案内をしてくれた。


「紹介状を確認させていただきました。本日の宿代は結構です、それでは部屋の方まで案内します」
「え、でも料金は……」
「ご安心ください、既に料金の方はネカ様がご支払いされています」
「いつの間に……」


レノが冒険者ギルドに立ち寄っている間にネカの遣いが訪れたらしく、既に宿屋には代金が支払われていたらしい。レノは宿屋の女主人の案内の元、二階の一番奥の部屋に案内される。

こちらの宿屋は一階の部屋は大人数用の大部屋らしく、二階の方は個室でまとめられていた。個室と言っても部屋の中はかなり広めであり、一通りの家具は揃っていた。外見は豪勢だが、部屋の方は落ち着いた感じである事にレノは安心する。


「申し訳ありませんが、空いている部屋はこちらだけとなります。食事に関しては一階の食堂で取られるか、部屋での食事がお望みならば給仕に運ばせます」
「え、食事もあるんですか?」
「はい、我が宿では食事代も料金に含まれています」


宿屋によっては宿泊代と食事代は別の店もあるが、この店では食事代も宿泊代に含まれているという話にレノは考え、食事は食堂で取る事にした。特に深い理由はないが、食堂ならば他の人間と話す機会もあるかもしれず、それにこれほど豪華な宿屋の食堂ならば興味もあった。


「食事は食堂で取ります。あ、それと今から出かけたいんですけど……この街の中で広くてあまり人がいない場所はありますか?」
「広くて人がいない場所ですか……申し訳ありません、心当たりはありませんね」
「あ、そうですか……変な事を聞いてすみません」
「いえ、ではお出かけになる時は鍵を必ずお持ちください。貴重品があるのならば部屋に置いても構いませんが、私達の方で預かる事も出来ます」
「分かりました。じゃあ、お願いしてもいいですか?」


レノは出かける前に女主人に大金の入った小袋を渡し、女主人は随分と重い小袋を受け取って驚いた表情を浮かべるが、レノは弓と魔法腕輪と剣を身に付けて外へと赴く。

宿屋に荷物を置いて身軽になったレノは早速ムメイに受け取った風属性の魔石の効果を試すため、人気のない場所を探す。色々と考えた結果、やはり街中よりも外の方が都合がいいと判断し、街に訪れたばかりではあるが外へ赴く事にした――





――街の外へ赴くと、レノは街から離れすぎず、適当に見晴らしの良い場所を探す。その結果、街の中ににも流れている川を発見し、その川沿いを移動して川原へと辿り着く。


「よし、ここなら見晴らしもいいし、急に魔物に襲われる事もないか。それに試し切りするにはいい的が幾つもあるな」


レノは川原のあちこちに存在する「岩石」に視線を向け、山で暮らしていた時はよく岩を利用した特訓を行っていた。レノは魔法腕輪と弓を取り出し、まずは弓から試す事にする。


(魔弓術……どれくらいの威力が上がるんだろう?)


弓に矢を番えたレノは意識を集中させ、いつも通りに付与魔術を矢に発動させた。普段通りに風の魔力が矢に流し込まれるが、この時に弓に取り付けられた風属性の魔石が反応を示す。

矢に付与魔術が発動した途端、魔石が輝きを放つと矢に取り巻く風の魔力が急激に増量し、直感でこれ以上に魔力を込めたらまずいと判断したレノは矢を離す。その結果、放たれた矢は正面に存在した岩を貫き、そのまま遥か前方へと飛んで見えなくなってしまった。


「な、なんだ!?この威力……まさか、これが魔石の効果なのか?」


貫通した岩を前にしてレノは動揺し、自分の弓に視線を向ける。これほどの威力ならば赤毛熊が現れようと一撃で屠れる事は間違いなく、自分の弓がとんでもない武器に進化してしまった事に驚く。ここでレノは魔法腕輪の事を思い出し、今度は弓を手放して腕輪を装着したレノは拳を握りしめる。


「よ~し、次はこっちだな……」


レノは先ほど矢が貫通した岩石に視線を向け、右拳を握りしめて「嵐拳」を発動させる準備を行う。レノの扱う嵐拳は右拳に魔力を一点集中させ、拳を放つのと同時に一気に解放させる「魔剣」ならぬ「魔拳」だった。

魔力を解放させると強烈な衝撃波が発生し、限界まで威力を高めれば素の状態でもレノの拳は岩石を吹き飛ばす程度は出来る。しかし、風属性の魔石を取り付けた魔法腕輪を装着した状態ならばどうなるのかとレノは期待しながら魔力を集中させようとした時、異変が生じた。


「せぇのっ……な、何だ!?」


普段通りに魔力を拳に集中させようとした瞬間、レノの右腕に取り付けた魔法腕輪の魔石が輝き、急速的に魔力が高まっていく。その感覚にレノは自分で魔力を練るだけではなく、魔石の魔力が流れ込んでいる事を知る。


(そうか、魔石の魔力が流れ込んで早く蓄積できるようになったのか!!という事はさっきの矢も同じように……)


十分な量の魔力を拳に集める事に成功したレノは岩に向けて拳を振りかざし、叩き込む。轟音と共に岩が砕け散るだけではなく、前方へ向けて吹き飛ぶ。その光景を目にしてレノは唖然とした。


「凄い、いつもよりも短い時間で魔力を練ったのに、威力は上がってる……これが魔石の力か」


若干、興奮した様子でレノは弓と魔法腕輪に装着した風の魔石を確認し、改めてムメイとネカに感謝した。二人のお陰でレノはまた自分が強くなれたと実感する一方、新しい問題も発生した。


(これから魔石を使って戦い続けるとなると、出費が嵩むな……魔石って、相当に高いんだよな)


今は金銭的に余裕があるとはいえ、レノは市場で見かけた魔石の値段をみて驚く。何処の店でも魔石の値段は非常に高く、ネカの言う通りに宝石のような装飾品として利用されるだけはあって一般人からも人気があるせいか、何処の店も魔石の値段は最低でも金貨1枚はあった。

しかし、魔石の効果を実感したレノは今後も魔石の力を頼る場合、ここは無理をしてでも魔石を購入するべきか悩む。


「う~ん……魔石の力があれば魔物と戦う時も便利そうだけど、普段から慣れすぎると魔石がなくなった時に困りそうだな。この魔法腕輪の方はしまっておくか」


弓に取り付けた魔石は仕方がないとはいえ、魔法腕輪の方は必要時以外は取り外して持ち運ぶことをレノは決めると、日が暮れ始めてきた事に気付く。


「もう夕方か……特訓はここまでにして、宿に戻るか」


剣を鞘に納めたレノは街へと引き返そうとすると、彼の耳元に悲鳴のような声が届く。何事かとレノは悲鳴が聞こえた方向に視線を向けると、街の方角に向けて駆け抜ける人間の集団を発見した。


「ひいいっ!?お、追いつかれる!!」
「振り返るな、走れっ!!少しでも立ち止まったら殺されるぞ!?」
「そ、そんな事を言われても……きゃあっ!?」


逃げている人間の数は4人、その内の2名は鎧を身に付けた男子、残りの二人は弓と杖を背中に背負った少女だった。彼等の格好から判断するに恐らくは冒険者だと思われた。
しおりを挟む
感想 53

あなたにおすすめの小説

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

お願いだから俺に構わないで下さい

大味貞世氏
ファンタジー
高校2年の9月。 17歳の誕生日に甲殻類アレルギーショックで死去してしまった燻木智哉。 高校1年から始まったハブりイジメが原因で自室に引き籠もるようになっていた彼は。 本来の明るい楽観的な性格を失い、自棄から自滅願望が芽生え。 折角貰った転生のチャンスを不意に捨て去り、転生ではなく自滅を望んだ。 それは出来ないと天使は言い、人間以外の道を示した。 これは転生後の彼の魂が辿る再生の物語。 有り触れた異世界で迎えた新たな第一歩。その姿は一匹の…

【完結】あなたに知られたくなかった

ここ
ファンタジー
セレナの幸せな生活はあっという間に消え去った。新しい継母と異母妹によって。 5歳まで令嬢として生きてきたセレナは6歳の今は、小さな手足で必死に下女見習いをしている。もう自分が令嬢だということは忘れていた。 そんなセレナに起きた奇跡とは?

【完結】そして、誰もいなくなった

杜野秋人
ファンタジー
「そなたは私の妻として、侯爵夫人として相応しくない!よって婚約を破棄する!」 愛する令嬢を傍らに声高にそう叫ぶ婚約者イグナシオに伯爵家令嬢セリアは誤解だと訴えるが、イグナシオは聞く耳を持たない。それどころか明らかに犯してもいない罪を挙げられ糾弾され、彼女は思わず彼に手を伸ばして取り縋ろうとした。 「触るな!」 だがその手をイグナシオは大きく振り払った。振り払われよろめいたセリアは、受け身も取れないまま仰向けに倒れ、頭を打って昏倒した。 「突き飛ばしたぞ」 「彼が手を上げた」 「誰か衛兵を呼べ!」 騒然となるパーティー会場。すぐさま会場警護の騎士たちに取り囲まれ、彼は「違うんだ、話を聞いてくれ!」と叫びながら愛人の令嬢とともに連行されていった。 そして倒れたセリアもすぐさま人が集められ運び出されていった。 そして誰もいなくなった。 彼女と彼と愛人と、果たして誰が悪かったのか。 これはとある悲しい、婚約破棄の物語である。 ◆小説家になろう様でも公開しています。話数の関係上あちらの方が進みが早いです。 3/27、なろう版完結。あちらは全8話です。 3/30、小説家になろうヒューマンドラマランキング日間1位になりました! 4/1、完結しました。全14話。

ポーションが不味すぎるので、美味しいポーションを作ったら

七鳳
ファンタジー
※毎日8時と18時に更新中! ※いいねやお気に入り登録して頂けると励みになります! 気付いたら異世界に転生していた主人公。 赤ん坊から15歳まで成長する中で、異世界の常識を学んでいくが、その中で気付いたことがひとつ。 「ポーションが不味すぎる」 必需品だが、みんなが嫌な顔をして買っていく姿を見て、「美味しいポーションを作ったらバカ売れするのでは?」 と考え、試行錯誤をしていく…

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

三歳で婚約破棄された貧乏伯爵家の三男坊そのショックで現世の記憶が蘇る

マメシバ
ファンタジー
貧乏伯爵家の三男坊のアラン令息 三歳で婚約破棄され そのショックで前世の記憶が蘇る 前世でも貧乏だったのなんの問題なし なによりも魔法の世界 ワクワクが止まらない三歳児の 波瀾万丈

【完結】真実の愛に目覚めたと婚約解消になったので私は永遠の愛に生きることにします!

ユウ
恋愛
侯爵令嬢のアリスティアは婚約者に真実の愛を見つけたと告白され婚約を解消を求められる。 恋する相手は平民であり、正反対の可憐な美少女だった。 アリスティアには拒否権など無く、了承するのだが。 側近を婚約者に命じ、あげくの果てにはその少女を侯爵家の養女にするとまで言われてしまい、大切な家族まで侮辱され耐え切れずに修道院に入る事を決意したのだが…。 「ならば俺と永遠の愛を誓ってくれ」 意外な人物に結婚を申し込まれてしまう。 一方真実の愛を見つけた婚約者のティエゴだったが、思い込みの激しさからとんでもない誤解をしてしまうのだった。

処理中です...