力も魔法も半人前、なら二つ合わせれば一人前ですよね?

カタナヅキ

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一人旅編

細工師ムメイの餞別

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「こいつは……ドワーフが作った物だね」
「えっ!?分かるんですか?」
「大抵のドワーフは物を作る時、独特の個性を残す癖が出てくる。これを作った奴は腕は悪くないね……それに前にこの弓とよく似た物を見たような気がする」
「そうなんですか?」
「いったい誰に作って貰ったんだい?」
「俺の義父さんに作って貰いました。名前はダリルというんですけど……」
「ダリルだって……!?」


ムメイはダリルの名前を耳にすると目を見開き、その反応にレノは戸惑うが、彼女は弓を見つめて何かを納得したように頷く。


「……まあ、別にどうでもいいね。とりあえず、こいつに魔石を装着すればいいんだろ?少し待ってな、10分で終わらせてやるよ」
「そんなに早く出来るんですか!?」
「彼女は一流の細工師ですからね。普通の細工師ならば1時間は掛かりますよ。はっはっはっ!!」


ムメイの言葉にレノは驚き、ネカは何故か自慢げに答える。すぐにムメイは準備を行い、彼女はまず風属性の魔石を手に取って真剣な表情を浮かべ、彫刻刀を走らせる。

魔石の表面に彫刻刀が走ると、凄い速さで削り取られて生き、瞬く間に魔法陣のような紋様が刻まれていく。その光景を見てレノは圧倒され、鍛冶を行う時のダリルのようにムメイは凄い集中力を発揮し、恐らくは耳元で大声を出しても今の彼女には聞こえないだろう。

レノが知っているドワーフはダリルとムメイのみだが、二人とも家事の間は近寄りがたい雰囲気を放ち、何人も近づけさせない。仕事の没頭している間はどちらも目の前の出来事しか見えておらず、休憩も取らずに一心不乱に仕事を行う。

5分も経過しないうちに魔石の表面に紋様を刻み終えると、彼女は事前に用意しておいた魔石を嵌めるための金具を用意し、それに嵌め込むと今度は弓の方に金具を取り付ける。最初の宣言通り、これらの作業をムメイは10分程度で終わらせた。


「ほら、出来上がったよ」
「え、もう!?本当に早いんですね……」
「いいから試しに使ってみな」


ムメイに渡された弓に対してレノは戸惑いながらも受け取る。弓の具合を確かめ、特に問題ない事を確認した。金具の位置はレノが矢を撃つ時の邪魔にならないように配慮してくれたらしく、今まで通りに問題なく矢を射抜けそうだった。


「ありがとうございます。これなら使えそうです」
「そうかい……ついでにそっちの剣を見せてくれるかい?」
「え?剣ですか?」


レノはムメイに言われてロイから受け取った剣を手渡すと、彼女は鞘から刃を抜き、その刀身を見て驚いた表情を浮かべる。そして同時に何かを納得したように頷き、舌打ちを行う。


「あのくそ兄貴め……生きていたなら連絡くらい寄越しな」
「え?」
「何でもないよ、ほら返してやる……そうだ、ネカ。あんた、余っている腕輪があるとか言っていたよね。それを寄越しな」
「ん?それは構わんが……どうするつもりだね」
「いいから早く寄越しな!!」
「あいたぁっ!?わ、分かった!!分かったから尻を蹴るな!!」


ネカは言われるがままに馬車の中に戻ると、恐らくは装飾品として所持していたと思われる銀色の腕輪を持ってくる。腕輪を受け取ったムメイは黙ってレノの腕に視線を向けた後、その場で道具を取り出して腕輪を削り始めた。

仮にもネカの所有物である腕輪を本人の目の前で細工を施し始めた事にレノは驚くが、ムメイは黙ってネカがレノに手渡す予定のもう一つの風属性の魔石もひったくり、それを腕輪に取り付けて金具で固定を行う。


「ほら、出来たよ。こいつが魔法腕輪だ、受け取りな」
「え、あ、はい!?」
「む、ムメイさん……それは私の腕輪だぞ!?」
「いいだろ、別に……どうせ売るつもりだっていってたじゃないか。不満があるのならあたしの給料から代金を引いときな」
「ど、どうしてそこまで……?」


レノは魔法腕輪を受け取ると、ムメイに対して戸惑う。今日出会ったばかりの彼女が自腹で自分に腕輪を渡してきた事に驚くと、ムメイは面倒そうに頭を掻きながら答えた。


「餞別だよ、遠慮なく受け取りな。そいつは正真正銘、あんたの物だよ」
「ええっ!?で、でもこんな高そうな腕輪……」
「ああ、そういうのいいからさっさと受け取りな!!言っておくけど、あたしがそれを持っていても仕方ないんだよ。いらないなら捨てるだけさ!!」
「ムメイさん、どういう意味だ?どうしてそこまで彼に……」
「ちっ、うるさいね!!仕事は終わりだ、あたしは戻るよ!!」


ムメイはレノに魔法腕輪を渡した理由を答えるつもりはないのか、そのまま自分が乗っていた馬車の方へと歩む。そんな彼女の姿を見て戸惑うが、レノは受け取った魔法腕輪に視線を向け、その綺麗な色合いに見とれてしまう。

魔法腕輪を試しにレノは自分の腕に装着すると、ムメイが調整してくれたのかぴったりと嵌まった。装飾品としても十分な価値があり、取り付けた風属性の魔石が宝石のように光り輝いて美しい。


「あの、こんな綺麗な腕輪を貰ってもいいんですか?」
「は、はははっ……構いませんとも、どうやら貴方はムメイさんに気に入られたようですね。羨ましい限りです」


ネカは元々は自分が所持していた腕輪が見事なまでに美しく加工された事に対し、本音を言えばレノから返してもらいたかった。しかし、ここでレノから受け取ると後々にムメイに恨まれそうなため、彼は表面上はおおらかな態度で対応する。

その様子を馬車に乗り込もうとしたムメイは見つめると、彼女は鼻を鳴らして中に乗り込む。そしてパイプを取り出し、口元に運ぶと黙って呟く。


「くそ兄貴め……あんたの息子、全然似てないね」


十数年ほど前、ムメイは実の兄妹のように仲が良かった兄弟子が存在した。その兄弟子はある時に師匠と袂を分かち、弟子を辞めて去ってしまった。結局、今日この日までムメイは彼が生きているのも知らないが、レノの話を聞いて彼の養父がダリルだと知る。

ダリルにまさかの息子が出来た事に彼女は驚いたが、昔は彼に世話になった事を思い出し、彼女はレノのために魔法腕輪を製作してやる事にした。パイプを加えながらもムメイは珍しく上機嫌な表情を浮かべ、兄弟子が生きていた事を喜ぶ。


「……あたしが作った魔法腕輪を使いこなせるかどうか、それはあんたのガキ次第だよ」


この場にはいないダリルに対してムメイは心の中で呟き、レノが自分の渡した魔法腕輪を使いこなせるかどうか、彼女は面白そうに呟いた――
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